Intrusion Countermeasure:protective wall

kawa.kei

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第528話

 制御を奪った戦艦を中心に陣形を組んで周囲の敵へと攻撃を開始。
 高い位置の船を奪っただけあって大半の敵艦は眼下だ。 その為、回頭するまで少しかかる。
 背後を晒した状態の敵艦は非常に美味しい獲物と言う事もあってマルメルは嬉々として撃ち抜いていく。

 ――それに――

 識別が切り替わった船はヨシナリ達が奪ったものだけではなかった。
 どうやら似たような考えに至った者達が船の奪取に動いていたようだ。
 あちこちで味方になった戦艦が敵へと攻撃を開始している。 

 それによりあちこちで混乱が生じており、地上への攻撃が僅かに緩んでいた。

 「まぁ、守ってばかりでは押し込まれるからな」

 敵艦を奪って混乱を齎す事は目的の一つではあったが、ヨシナリには別の目当てがあった。

 「マルメル。 ハンガーは使えそうか?」
 『あぁ、最初に確認した。 機体の整備と補給は問題なくできるぜ』

 一層にハンガーが集中している時点で他でどうにか整備環境を調達しなければならない事は早い段階で察していた。 
 同時に敵艦がマップ内に存在できる数に上限があるのなら敵艦を奪う事は二重の意味で利がある。

 「よし、残弾に不安があったり、被弾した人は着艦して整備と補給を受けてください」

 その間に甲板に出て来たヴルトムが巨大なガトリング砲やミサイルを敵機に向けてばら撒き始めた。
 
 「やべぇ、敵の装備をパクって弾をばら撒くの気持ちいいいいいいい!」

 非常に楽しそうだった。 ヨシナリはぐるりと周囲を見回す。
 マルメルは操艦。 グロウモスはヴルトムを上手に盾にしながら敵艦の動力部を撃ち抜いて次々と沈めている。 彼女の上手い所はリポップして艦載機が出撃する前の船を狙っている点だ。

 ベリアルは強敵を求めているのか銀色の上位機体をひたすらに狙って潰している。
 ツガルは堅実に船に近づいてくる敵機を叩き落とし、フカヤはマルメルと操艦を代わる為に艦内へ。
 彼の装備はあまり乱戦に向かないので制圧力の高いマルメルと交代するのが最適解だ。

 『ってか、もうちょっと戦艦の操作したいんだけど……』
 「俺もしたいけど我慢してれるんだからお前も我慢しろ! この状況でお前の火力を遊ばせてられないんだよ」
 
 マルメルもその辺は理解しているのかやや渋々といった様子でフカヤと操艦を交代。

 「フカヤさん。 行けますか?」
 『う、うん。 何とかなりそう。 敵艦を沈めればいいんだよね?』
 「はい、なるべくリポップしたての艦載機が詰まってそうな奴を優先的にお願いします」

 可能であるならもう二、三隻奪って防御を固めたいのだが操艦に一人拘束される関係で手当たり次第に奪えない。 自動操縦とかできないのだろうか?
 仮にできたとしても臨機応変な対応ができないのでどうしてもプレイヤーを操舵手に据えなければならない。 幸いにも敵艦もあまり操作に慣れている動きではないので今の所は優勢に動けているが、数が違うのでそうかからずに押し返されるだろう。

 基本的にこの戦いは一方的な消耗戦だ。 味方の損耗は増えるだけで増援は期待できない。
 つまり減ればそのままなのだ。 防衛戦で重要なのはどれだけ味方の損害を抑えられるかにかかっている。

 守ってばかりでは押し込まれるだけなのは分かり切っていたのでとにかく膠着に持って行きたいと船を奪ったのだが、それは今の所は機能していた。
 ただ、問題は運営がこの状況をいつまでも許す訳がない事だ。

 ――何が出てくるのやら……。


 あふと小さな欠伸をする女が一人。 
 服装はジャージに白衣。 足にはスリッパ。
 胸のネームプレートには『アメリア・カステヘルミ』。 目の前には可視化されたウインドウ。
 
 表示されているのは日本サーバーのイベント戦場。 戦況に関しては悪くない。
 思った以上に頑張っているとアメリアは評価した。 初見で戦艦を奪う発想に至ったのは見事だ。
 今回のイベント戦はこれまでとはやや趣が異なる。 エネミーは汎用のみで主戦力は『ボランティア』と彼等の専用トルーパーだ。

 本来なら――過去に行われた他サーバーのイベント戦では特殊エネミーを使うはずだったのだが、上の意向でボランティア職員の技能向上を兼ねる場となった。
 どうも以前のサーバー対抗戦の際に現れたアレに通用しなかった事がよほど堪えたようだ。

 「ふん、くだらない」

 そう呟くと背後の自動扉がスライド。 誰かが室内へと入って来る。

 「あ、チーフ。 ここにいたんですか? 呼ばれてましたよ?」

 入って来たのは赤毛の若い女性。 
 白衣を身に纏ってはいるが、幼さが残る顔立ちの所為であまり似合っていない。
 ネームプレートには『ジョゼ・オルティース』と記されている。

 「例の『アヴェスターシリーズ』を使わせろって奴? ボランティア程度でアレを使いこなせるとは思えないんだけどねぇ……」
 
 アメリアはあぁ嫌だと呟きながらウインドウを操作する。

 「それです。 あのおじさんすっごくうるさいんで何とかしてくださいよー」
 
 ジョゼは心底から嫌そうにそう言って肩を落とす。 
 アメリアは小さく溜息を吐いて表示させたウインドウを消去。

 「どーぞ。 用が済んだらさっさと出て行ってくれないかしら? 私は観戦で忙しいのだけど?」
 「観戦? あぁ、ジャパンサーバーのイベント戦ですか? ここ最近、あちこちのイベント戦をご覧になられているようですが何かあったんですか?」

 ジョゼはどれどれとウインドウを開いて戦況を確認する。

 「へぇ、もう船を奪ってる。 奪えるって発想が出てくるなんて凄いですね」
 「一応、ヒントはこれまでのイベントで出してはいたからこれぐらいは直ぐに気付いて欲しいものねぇ」
 
 スパルトイを筆頭にエネミー側の機体とプレイヤー側の機体に互換性があると言う事は分かり易く示唆して来たつもりだ。 
 そして今回の手戦力は単純なエネミーではなく有人操作の機体。 
 補給設備が一層に集中している以上、何処かで調達する必要がある。

 当然、死守するのも選択肢の一つではあるがこのイベントの構造上、守り切るのは非常に難しい。
 つまり敵艦を奪って使用する事は敵の戦力を削ぎつつ補給を確保する為に必須と言っていい。
 そこに気付いてくれただけでもアメリアとしては日本サーバーのプレイヤーを評価するに値する事だった。

 「ところでチーフはプレイヤーが勝つと思いますか?」

 不意に投げられたジョゼの質問にアメリアは考え込むように顎に手を当てた。
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