Intrusion Countermeasure:protective wall

kawa.kei

文字の大きさ
602 / 780

第602話

しおりを挟む
 怖い。 逃げ出したい。
 始める前はそんな気持ちが大部分を占めていたのだが、こうして向かい合うと戦意が勝る。
 ヨシナリはさっきまでの恐怖感は何処へやら。 あっさりやられたモタシラに対する不満も感じない。

 そんな事よりも目の前のふわわを叩き潰したくて仕方なかった。 
 味方の時は勝利を分かち合えるが、敵として叩き潰した時の事を考えるだけで興奮する。 
 ふわわは間違いなく強者だ。 そんな彼女を叩き潰す事でヨシナリは自分が強くなった事を実感できる。

 息を深く吸って吐く。 気持ちは昂っているが、意識はクリアだ。
 機体は変わっていないが装備構成は大きく変わっている。 
 間違いなく今回の為に用意した新装備。 

 マルメルの機体を新調する際に強化装甲のラインナップは一通り見て来たが、あの装備には見覚えがない。 
 独特な意匠からナインヘッドドラゴンを寄越した開発チームから提供された試作品といった所だろう。
 カテゴリー的には強化装甲だが、防御ではなく機動性を向上させる事に重きを置いている。

 武器のラインナップは変わっていないように見えるが、野太刀を固定しているジョイントが違う。
 ついでに鞘自体も変わっていた。 
 正確にはモノ自体は変わっていないが、何かで覆っているように見える。
 
 『じゃあ始めよっか?』
 「えぇ、さっさと始めましょう」

 ――後は実際に戦って見極めるしかないか。

 僅かな時間、見つめ合う形になったが、動き出したのはほぼ同時。
 ヨシナリは機体を変形させて急上昇。 
 高度を取った所でアシンメトリーを構え――嫌な予感がしたのでインメルマンターンによる縦旋回。 
 
 瞬間、月が半ばから横にずれた。 

 「は?」

 あまりの光景にヨシナリの口からそんな間抜けな声が漏れる。
 月を斬った? いや、ありえない。 惑わされるなとシックスセンスで目の前の事象を観察。
 それにより何が起こったのかは見えたが、思わず笑ってしまった。

 転移。 野太刀の刃を丸ごと転移させたのだ。
 理屈はナインヘッドドラゴンと同じなので驚きに値しないが、インパクトとしては結構なものだった。
 横に振るわれた一撃は転移の影響で空間がズレて見えたのだ。 結果、月が両断されたように見えた。

 ――距離が取れなくなったな。

 200は離れていたはずなのに簡単に捉えに来た所を見ると離れすぎると不味い。
 下を見るとふわわは小さく手招き。 
 中距離以上離れると場合によっては一方的に斬るぞと言外に伝えているようだ。

 本気とも取れるが、あの野太刀は液体金属を充填する関係で気軽に連発は出来ない。
 頭の冷静な部分はブラフだろうと判断したが、そうでない部分は次は当ててきそうだと警鐘を鳴らす。
 
 ――安全な場所からチクチクやるなって事か。

 僅かに悩むがヨシナリは機体を人型に戻して急下降。
 アシンメトリーを実体弾に切り替えて連射、大地に弾をばら撒く。
 ふわわは軽快な動きで回避。 躱しきれない弾は小太刀で切り払う。
 
 当然のように行っている凄まじい挙動だが、もう見慣れているので無視。
 弾切れと同時にエネルギー弾に切り替えて更に連射。 単発なので手数は減ったが、威力は段違いだ。
 当然のように躱すが、読み通りだ。 

 アシンメトリーを背中にマウントしてアトルムとクルックスを抜いてバースト射撃しながら機体に制動をかける。 ふわわを相手に接近戦は自殺行為なので、20から25の距離を維持。
 中距離を維持するのがこれまでの最適解だが、ヨシナリがこの展開に持って行く事など百も承知のはず。 

 あのふわわが弱点をそのままにしておくとは考えにくい。
 つまりは何らかの対策を講じているはずだ。 
 ふわわはいつの間にか小太刀ではなく見慣れない武器に持ち替えていた。  

 大きく湾曲した刃。 所謂、曲刀という剣だろうか。 
 このタイミングで持ち替えたという事は投擲か。 大きく弧を描くように左右から二本飛んでくる。
 傾向的に牽制を織り交ぜる事をあまりしないふわわにしては珍しい動きだ。

 非常に怪しかったので躱さずにアトルムとクルックスで撃ち落とした。
 二本の曲刀は銃弾によって軌道を変えられてあらぬ方向へ飛んでいかなかった。

 「は?」

 思わずそんな声が漏れる。 空中で回転しながら静止している。 
 何だと観測するとふわわの機体から磁場のような何かが伸びて曲刀と繋がっていた。
 なるほどあれで出し入れができるのか。 

 視えてなければ躱したら後ろから飛んできてざっくりやられる訳だ。 
 面白いが種が割れればチープなトリックでしかない。 
 繋がりが視えるので軌道が丸わかりだ。 磁場のラインを視ながら回――ラインが不意に消失。

 同時に曲刀の軌道が変わって背後から飛んでくる。 強引に軌道を変えた後、ラインを切ったのか。
 これ以上は出てこないようなので普通に躱せばいい。 
 上昇か下降で迷ったが上はなんだか嫌な予感がしたので下へ。 

 曲刀が頭上を通り過ぎたと同時にホロスコープの右腕が千切れ飛んだ。
 
 「な、んでだよ!」

 思わず叫ぶ。 シックスセンスに反応しなかった。 ナインヘッド・ドラゴンは警戒していたのに何故?
 本当にいきなり千切れ飛んだ。 喰らった感触から肩を何らかの質量攻撃に射抜かれた。
 その証拠に機体は右半身が大きく傾いているからだ。 

 視線をふわわに戻すと刺突の構えで放った直後といった様子だった。
 しかも握っているのは太刀や小太刀ではなく野太刀の柄だけ。
 
 「振り回さずに鞘を刺突に乗せて射出したのか!?」

 とんでもない速さで飛んで来たので反応できなかった。
 いや、この距離なら比較的、安全と高を括って見慣れない曲刀の対応に意識を振ったからか。
 内心でクソがと自分に対して悪態を吐くと加速しつつ、残ったクルックスを連射しながら距離を維持。

 『その距離でええの?』

 転移反応。 真上だ。
 咄嗟に加速して反応から離れる。 
 僅かに遅れて何もない所から放射状に広がった液体の塊が落ちて来た。

 グルーキャノン。 発射せずに転移で飛ばしてくるのか。
 恐らく転移と同時にカプセルが砕けて内部のグルーが飛び散るようにできているのだろう。
 エネルギー流動を確認すると強化装甲は常に循環している所為で分かり難い。

 ――クソ、明らかにシックスセンスで視られる事を意識してるな。

 それでも微細な変化はあるだろうが、攻撃動作の起点を見え難くされている。
 鬱陶しいと思いながらどうにか突破口を探るべく弾切れになったクルックスから空になったマガジンを排出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

なんか修羅場が始まってるんだけどwww

一樹
ファンタジー
とある学校の卒業パーティでの1幕。

転生したら幽閉王子でした~これどうすんの?

サクラ近衛将監
ファンタジー
 神様の眷属の過失が原因の事故に遭って死んだ桜庭雄一が異世界に転生したら、とある国の忌避すべき王子として幽閉されていた。  転生にはチートがつきもののはずだが、事故で死んだ者が300名を超えるために、個別にチートは与えられず、転生先の者の能力を生かせと神に告げられている。  「神の加護」ではないけれど、「恩寵」が与えられているので、当該異世界では努力を為した分、通常に比べると成果があるらしい。  これはとある国の幽閉王子に転生した男の冒険譚である。  原則として、毎週月曜日20時に投稿予定です。

徳川慶勝、黒船を討つ

克全
歴史・時代
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 尾張徳川家(尾張藩)の第14代・第17代当主の徳川慶勝が、美濃高須藩主・松平義建の次男・秀之助ではなく、夭折した長男・源之助が継いでおり、彼が攘夷派の名君となっていた場合の仮想戦記を書いてみました。夭折した兄弟が活躍します。尾張徳川家15代藩主・徳川茂徳、会津藩主・松平容保、桑名藩主・松平定敬、特に会津藩主・松平容保と会津藩士にリベンジしてもらいます。 もしかしたら、消去するかもしれません。

蒼穹の裏方

Flight_kj
SF
日本海軍のエンジンを中心とする航空技術開発のやり直し 未来の知識を有する主人公が、海軍機の開発のメッカ、空技廠でエンジンを中心として、武装や防弾にも口出しして航空機の開発をやり直す。性能の良いエンジンができれば、必然的に航空機も優れた機体となる。加えて、日本が遅れていた電子機器も知識を生かして開発を加速してゆく。それらを利用して如何に海軍は戦ってゆくのか?未来の知識を基にして、どのような戦いが可能になるのか?航空機に関連する開発を中心とした物語。カクヨムにも投稿しています。

【なろう490万pv!】船が沈没して大海原に取り残されたオッサンと女子高生の漂流サバイバル&スローライフ

海凪ととかる
SF
離島に向かうフェリーでたまたま一緒になった一人旅のオッサン、岳人《がくと》と帰省途中の女子高生、美岬《みさき》。 二人は船を降りればそれっきりになるはずだった。しかし、運命はそれを許さなかった。  衝突事故により沈没するフェリー。乗員乗客が救命ボートで船から逃げ出す中、衝突の衝撃で海に転落した美岬と、そんな美岬を助けようと海に飛び込んでいた岳人は救命ボートに気づいてもらえず、サメの徘徊する大海原に取り残されてしまう。  絶体絶命のピンチ! しかし岳人はアウトドア業界ではサバイバルマスターの通り名で有名なサバイバルの専門家だった。  ありあわせの材料で筏を作り、漂流物で筏を補強し、雨水を集め、太陽熱で真水を蒸留し、プランクトンでビタミンを補給し、捕まえた魚を保存食に加工し……なんとか生き延びようと創意工夫する岳人と美岬。  大海原の筏というある意味密室空間で共に過ごし、語り合い、力を合わせて極限状態に立ち向かううちに二人の間に特別な感情が芽生え始め……。 はたして二人は絶体絶命のピンチを生き延びて社会復帰することができるのか?  小説家になろうSF(パニック)部門にて490万pv達成、日間/週間/月間1位、四半期2位、年間/累計3位の実績あり。 カクヨムのSF部門においても高評価いただき90万pv達成、最高週間2位、月間3位の実績あり。  

シスターヴレイヴ!~上司に捨て駒にされ会社をクビになり無職ニートになった俺が妹と異世界に飛ばされ妹が勇者になったけど何とか生きてます~

尾山塩之進
ファンタジー
鳴鐘 慧河(なるがね けいが)25歳は上司に捨て駒にされ会社をクビになってしまい世の中に絶望し無職ニートの引き籠りになっていたが、二人の妹、優羽花(ゆうか)と静里菜(せりな)に元気づけられて再起を誓った。 だがその瞬間、妹たち共々『魔力満ちる世界エゾン・レイギス』に異世界召喚されてしまう。 全ての人間を滅ぼそうとうごめく魔族の長、大魔王を倒す星剣の勇者として、セカイを護る精霊に召喚されたのは妹だった。 勇者である妹を討つべく襲い来る魔族たち。 そして慧河より先に異世界召喚されていた慧河の元上司はこの異世界の覇権を狙い暗躍していた。 エゾン・レイギスの人間も一枚岩ではなく、様々な思惑で持って動いている。 これは戦乱渦巻く異世界で、妹たちを護ると一念発起した、勇者ではない只の一人の兄の戦いの物語である。 …その果てに妹ハーレムが作られることになろうとは当人には知るよしも無かった。 妹とは血の繋がりであろうか? 妹とは魂の繋がりである。 兄とは何か? 妹を護る存在である。 かけがいの無い大切な妹たちとのセカイを護る為に戦え!鳴鐘 慧河!戦わなければ護れない!

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

合成師

盾乃あに
ファンタジー
里見瑠夏32歳は仕事をクビになって、やけ酒を飲んでいた。ビールが切れるとコンビニに買いに行く、帰り道でゴブリンを倒して覚醒に気付くとギルドで登録し、夢の探索者になる。自分の合成師というレアジョブは生産職だろうと初心者ダンジョンに向かう。 そのうち合成師の本領発揮し、うまいこと立ち回ったり、パーティーメンバーなどとともに成長していく物語だ。

処理中です...