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第603話
――ヨシナリ君。 困ってるなぁ。
ヨシナリの様子を見てふわわは内心でほくそ笑む。
対策はかなり入念に練って来たのだ。 通用しなければ困る。
シックスセンス。 無数の観測項目が存在し、大抵の変化は感知する万能センサーではあるが、それを扱える処理能力を持ったプレイヤーは少ない。
無数の数値、無数の変化、その全てをシックスセンスは捉え、ユーザーに伝えるが、受け手がそれを正確に受け取らないと情報として活用する事は難しいのだ。
ふわわの見立てではヨシナリは全てをリアルタイムで確認している訳ではない。
熱、動体、エネルギー流動、空間情報、重力変動などをたった一人で把握し切るのは無理だ。
つまりヨシナリの反応を上回れば攻撃は普通に通用する。
それはたった今、証明された。 曲刀で気を散らし、鞘を飛ばして一撃を入れる事に成功。
この時点で充分に勝てると判断していた。
ふわわはヨシナリと再戦できると知って嬉々としてモタシラの用意した条件を呑んだ。
二対二の変則的な組み合わせも、負けたら修行を切り上げて帰る事も許容した。
何故ならヨシナリとまた真剣勝負ができるのだ。
二連敗はふわわとしては非常に面白くない成績だった。
表には出さないがそろそろ塗り替えてやろうと考えていた所だったのだ。
正直、負けたら負けたで次頑張ればいい程度の感情しか湧かないと思ったのだが、ヨシナリ達に負けた事がいつまでも悔しい。 そう、とても悔しく、胸の奥でずっと引っかかっているのだ。
この悔しさを消し去るには勝つ事しかない。
果たして自分はこんなにも勝負事に拘る正確だったかと内心で首を捻るが、もしかしなくてもヨシナリの影響だろう。
何も知らない自分にこんな感情を覚えさせて、罪な男だった。
責任を取らせる意味でも完膚なきまでに叩き潰して負けた悔しさを嚙み締めさせないといけない。
その為の準備はしてきた。
はっきり言って今回の本命はヨシナリであってモタシラはついでに過ぎない。
そのついでの用事も片付いた。 シニフィエも順当に負けたので誰にも邪魔はされない。
――ヨシナリ君の為にいーっぱい準備してきたから楽しんでな?
ヨシナリの戦い方を徹底的に研究し、装備も一から見直した。
液体金属刀も鞘も強化を施し、強化外装も用意し、それを活かした新しい戦い方も確立した。
これで負けたら本当に悔しくて泣いてしまいそうだ。 それぐらいは力を入れて来たのだ。
勝利に向かう今、この瞬間が全て。 全身全霊でヨシナリを叩き潰す。
片腕は奪った。 対してこちらも鞘を片方失ったが、些細な問題だ。
柄だけになった野太刀を投げ捨て、太刀を抜く。
まずは近寄ってきてもらわないと。
ハクサンゴンゲンに内蔵された転移システムを用いてグルーの入ったカプセルを転移させてひたすらにヨシナリへと嫌がらせを始める。 見えているが故に対処せざるを得ない。
機体を固められた時点で詰むと理解しているヨシナリは躱すしかないのだ。
これで中距離に居座るという選択肢を奪った。
遠距離はさっきの肩を射抜いた一撃で危険と判断したはずだ。
そうなると残りは接近戦のみ。 ヨシナリの性格上、追いつめられれば必ず死中に活を求める。
つまり自分の得意距離まで来てくれるはずだ。
過去に何度かヨシナリとは接近戦を行ったのだが、何度思い返しても心躍る素晴らしい時間だった。
またあの感動を味わえると思うと気持ちが昂ってしまう。
――さぁ、早くこっちにおいで? いつまでウチに投石なんてつまらん攻撃をさせるん?
グルーの入ったカプセルを転移させながらこっちに来いと強く念じる。
そんな祈りが通じたのか、ヨシナリは観念して突っ込んで来た。
『まったく、最初からこの流れに持って行く為にここまでやったんですか?』
気付いたヨシナリが少し呆れた声を漏らす。 ふわわは楽し気に笑う。
恐らく一度切り結べば一分にも満たない時間で決着するだろう。
ふわわにとってはその一分は黄金のような時間だ。
最後の一滴までこの感動をまた味わえる機会とそれを与えてくれるヨシナリにただひたすらの感謝。
彼女の胸中にはそれしかなかった。
――クソ、滅茶苦茶誘って来るなぁ。
ヨシナリには目の前のふわわが口を大きく開けて待っている獣にしか見えなかった。
立ち回りから中~遠距離の選択肢を潰してきた以上、ここで勝ちたいなら接近戦を試みるしかない。
遠距離はあの鞘飛ばしもそうだが、本来の液体金属刃の斬撃がある。
遮蔽物が一切ない以上、下手に離れすぎると何をしてくるか分からない。
それでも安全に見えるがあの強化装甲でエネルギー流動を隠されている状態だと初動を見逃す恐れがある。
気が付いたら真っ二つにされているなんて事も充分にあり得るのだ。
中距離は転移による攻撃。
今はグルーの入ったカプセルを投げつけて来るだけだが、本格的にナインヘッド・ドラゴンを使われると不味い。 特に片腕を失っている状態なので完全に囲まれると躱せる自信があまりなかった。
そうなれば残った選択肢は危険を承知の上で飛び込むしかない。
ふわわの目的は決着を付けようというもの。 加えてヨシナリにパンドラを使えと誘っている。
本気を引き出した上で潰してやると言外に言っているのだ。
――どうせこのまま粘ってもじり貧か。
動かされているようであまり面白くはないがやるしかない。
パンドラのリミッターを解放。 出力を500%へ。
欠損部分をエーテルで補填しつつ、機体をエーテルの鎧で覆う。
「お望み通り、正面から叩き潰してあげますよ!」
『そうこなくっちゃ! さぁ、おいでヨシナリ君!!』
パンドラの扱いはベリアルと特訓して来たんだ。 その成果をあんたで試してやるよ。
推進装置を全開。
腰部のエネルギーウイング、足の推力偏向ノズルから闇色のエーテルが噴出し機体が大きく加速。
背のイラを抜いて加速。 そのまま全身を使っての刺突。
ふわわは最小の動作で横に躱し、隣に来た時点で小太刀を一閃。
狙いは首。 だが、躱されるのは想定内だ。 イラの切っ先は地面に突き刺さり反動で機体が跳ね上がる。
柄を掴んだまま推進装置を噴かし、イラを起点に一回転。
ふわわの斬撃を躱しつつ背後へ。
クルックスを抜いてバースト射撃――する前に振り返りながらの一撃で腕を切断される。
――だったら!
今度は蹴りを放ち――
ヨシナリの様子を見てふわわは内心でほくそ笑む。
対策はかなり入念に練って来たのだ。 通用しなければ困る。
シックスセンス。 無数の観測項目が存在し、大抵の変化は感知する万能センサーではあるが、それを扱える処理能力を持ったプレイヤーは少ない。
無数の数値、無数の変化、その全てをシックスセンスは捉え、ユーザーに伝えるが、受け手がそれを正確に受け取らないと情報として活用する事は難しいのだ。
ふわわの見立てではヨシナリは全てをリアルタイムで確認している訳ではない。
熱、動体、エネルギー流動、空間情報、重力変動などをたった一人で把握し切るのは無理だ。
つまりヨシナリの反応を上回れば攻撃は普通に通用する。
それはたった今、証明された。 曲刀で気を散らし、鞘を飛ばして一撃を入れる事に成功。
この時点で充分に勝てると判断していた。
ふわわはヨシナリと再戦できると知って嬉々としてモタシラの用意した条件を呑んだ。
二対二の変則的な組み合わせも、負けたら修行を切り上げて帰る事も許容した。
何故ならヨシナリとまた真剣勝負ができるのだ。
二連敗はふわわとしては非常に面白くない成績だった。
表には出さないがそろそろ塗り替えてやろうと考えていた所だったのだ。
正直、負けたら負けたで次頑張ればいい程度の感情しか湧かないと思ったのだが、ヨシナリ達に負けた事がいつまでも悔しい。 そう、とても悔しく、胸の奥でずっと引っかかっているのだ。
この悔しさを消し去るには勝つ事しかない。
果たして自分はこんなにも勝負事に拘る正確だったかと内心で首を捻るが、もしかしなくてもヨシナリの影響だろう。
何も知らない自分にこんな感情を覚えさせて、罪な男だった。
責任を取らせる意味でも完膚なきまでに叩き潰して負けた悔しさを嚙み締めさせないといけない。
その為の準備はしてきた。
はっきり言って今回の本命はヨシナリであってモタシラはついでに過ぎない。
そのついでの用事も片付いた。 シニフィエも順当に負けたので誰にも邪魔はされない。
――ヨシナリ君の為にいーっぱい準備してきたから楽しんでな?
ヨシナリの戦い方を徹底的に研究し、装備も一から見直した。
液体金属刀も鞘も強化を施し、強化外装も用意し、それを活かした新しい戦い方も確立した。
これで負けたら本当に悔しくて泣いてしまいそうだ。 それぐらいは力を入れて来たのだ。
勝利に向かう今、この瞬間が全て。 全身全霊でヨシナリを叩き潰す。
片腕は奪った。 対してこちらも鞘を片方失ったが、些細な問題だ。
柄だけになった野太刀を投げ捨て、太刀を抜く。
まずは近寄ってきてもらわないと。
ハクサンゴンゲンに内蔵された転移システムを用いてグルーの入ったカプセルを転移させてひたすらにヨシナリへと嫌がらせを始める。 見えているが故に対処せざるを得ない。
機体を固められた時点で詰むと理解しているヨシナリは躱すしかないのだ。
これで中距離に居座るという選択肢を奪った。
遠距離はさっきの肩を射抜いた一撃で危険と判断したはずだ。
そうなると残りは接近戦のみ。 ヨシナリの性格上、追いつめられれば必ず死中に活を求める。
つまり自分の得意距離まで来てくれるはずだ。
過去に何度かヨシナリとは接近戦を行ったのだが、何度思い返しても心躍る素晴らしい時間だった。
またあの感動を味わえると思うと気持ちが昂ってしまう。
――さぁ、早くこっちにおいで? いつまでウチに投石なんてつまらん攻撃をさせるん?
グルーの入ったカプセルを転移させながらこっちに来いと強く念じる。
そんな祈りが通じたのか、ヨシナリは観念して突っ込んで来た。
『まったく、最初からこの流れに持って行く為にここまでやったんですか?』
気付いたヨシナリが少し呆れた声を漏らす。 ふわわは楽し気に笑う。
恐らく一度切り結べば一分にも満たない時間で決着するだろう。
ふわわにとってはその一分は黄金のような時間だ。
最後の一滴までこの感動をまた味わえる機会とそれを与えてくれるヨシナリにただひたすらの感謝。
彼女の胸中にはそれしかなかった。
――クソ、滅茶苦茶誘って来るなぁ。
ヨシナリには目の前のふわわが口を大きく開けて待っている獣にしか見えなかった。
立ち回りから中~遠距離の選択肢を潰してきた以上、ここで勝ちたいなら接近戦を試みるしかない。
遠距離はあの鞘飛ばしもそうだが、本来の液体金属刃の斬撃がある。
遮蔽物が一切ない以上、下手に離れすぎると何をしてくるか分からない。
それでも安全に見えるがあの強化装甲でエネルギー流動を隠されている状態だと初動を見逃す恐れがある。
気が付いたら真っ二つにされているなんて事も充分にあり得るのだ。
中距離は転移による攻撃。
今はグルーの入ったカプセルを投げつけて来るだけだが、本格的にナインヘッド・ドラゴンを使われると不味い。 特に片腕を失っている状態なので完全に囲まれると躱せる自信があまりなかった。
そうなれば残った選択肢は危険を承知の上で飛び込むしかない。
ふわわの目的は決着を付けようというもの。 加えてヨシナリにパンドラを使えと誘っている。
本気を引き出した上で潰してやると言外に言っているのだ。
――どうせこのまま粘ってもじり貧か。
動かされているようであまり面白くはないがやるしかない。
パンドラのリミッターを解放。 出力を500%へ。
欠損部分をエーテルで補填しつつ、機体をエーテルの鎧で覆う。
「お望み通り、正面から叩き潰してあげますよ!」
『そうこなくっちゃ! さぁ、おいでヨシナリ君!!』
パンドラの扱いはベリアルと特訓して来たんだ。 その成果をあんたで試してやるよ。
推進装置を全開。
腰部のエネルギーウイング、足の推力偏向ノズルから闇色のエーテルが噴出し機体が大きく加速。
背のイラを抜いて加速。 そのまま全身を使っての刺突。
ふわわは最小の動作で横に躱し、隣に来た時点で小太刀を一閃。
狙いは首。 だが、躱されるのは想定内だ。 イラの切っ先は地面に突き刺さり反動で機体が跳ね上がる。
柄を掴んだまま推進装置を噴かし、イラを起点に一回転。
ふわわの斬撃を躱しつつ背後へ。
クルックスを抜いてバースト射撃――する前に振り返りながらの一撃で腕を切断される。
――だったら!
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