24 / 65
第24話
しおりを挟む
「ま、待ってくれ! 謝る、謝るから見逃して――」
「会話ができない屑は死んでろ」
学生服をだらしなく着崩した少年が顔面を掴まれながら命乞いの言葉を吐き出すが、男は一切の聞く耳を持たずに焼き尽くした。 炎によって少年は瞬く間に炭化し、単なる隅の塊へと変化する。
男はゴミかなにかのように少年だったものを投げ捨てた。
持ち主が居なくなった事により、魔導書が男の物へと統合される。
厚みを増した魔導書だったが、明らかに二冊分ではなかった。
それもその筈で男の周囲には四人分の炭化した死体が転がっていたからだ。
宇治守 慈照。
それが男の名前だった。 年齢は二十七で職業は消防士。
両親からは名前の通り他者を慈しみなさいと言われ、途中まではその教えを守ろうとはしていたが様々な人々との摩擦を経験した彼はある日唐突に理解した。 世の中、何をしても無駄な人間がいるという事を。
薄汚い悪意を垂れ流し、他者に害しか与えず、会話も成立しない。
世の中にはそんなどうしようもない人間とは思えないが人間と同じ形をした生き物が一定数棲息している。
職業柄、彼は様々な悲劇に立ち会い、死に瀕した人を救った事もあった。
見返りを求めている訳ではないが、助けた人々に涙ながらに感謝されるのは悪い気持ちはしない。
逆にさっさと助けろよと悪態を吐く者も一定数存在した。 それに関しても同様だ。
別に助けてやったとも思っていないので、悪態を吐くなら好きにすればいい。
だが、それに対して不快に思うか否かはまた別の問題だった。
命の危機に瀕した時、人の本性は浮き彫りになる。 そんな言葉をどこかで聞いた事があるような気もするが、至言ではないかと思っていた。
大火傷を負いながらも自らの子を案ずる親、逆に子供を見捨てて逃げて来た親。
親を必死に助けようとする子、助けないどころか火をつけて焼き殺そうとする子。
世の中は突き詰めれば非常にシンプルだ。 白か黒、「そう」か「そうでない」か。
要は屑か屑ではないかの二択だ。 だから彼は常々思う事があった。
彼の価値基準での屑はそのまま火にくべてしまえばいいのではないのかと。
どうせ生かしておいても碌な事をしない。 だったら炎によって浄化するべきではないか?
その考えは非常に危うく、人を助ける事が本領の消防士には適さない考えだった。
流石に社会常識を持ち合わせている彼がその考えを表に出す事はなく、死ぬまでそうなるはずだったのだが、この社会のルールが通用しない状況において彼の抑圧された狂気がゆっくりと鎌首をもたげるように顔を出したのだ。
繰り返しになるが彼の判断基準はシンプルで、屑か屑でないか。
この迷宮を徘徊する怪物は人を問答無用で襲うのでそれ以前の問題だ。
つまりは駆除するべき害獣。 ならば人間はどうかだ。
彼がここに来てから少し経った頃だ。 ガラの悪い四人組の少年に絡まれた。
表情には数による有利もよる余裕と、これから慈照を痛めつける事によって発生する愉悦への期待が隠しきれていない。
彼等は慈照を取り囲むと魔導書をチラつかせ、寄越せと恫喝して来たのだ。
一応、話し合いでの解決を試みはした。
――脅すのは良くない。 助け合うべきだ。 それができないなら不干渉でいるべきだと。
彼等は慈照の態度を弱腰と判断したのかその主張を口々にくだらないと馬鹿にし、世の中は力こそが正義で弱い奴は淘汰されるべきだと覚えたての言葉のように繰り返した。
慈照は納得して大きく頷く、それだけ聞ければ充分だ。 彼の中で少年達は救いようのない、救う価値のない屑だと決定する。
「最後に聞きたいんだが、君達は会話ができないって事でいいんだな?」
最終警告だ。 それに少年達はゲラゲラと下品に笑い「おっさんビビってんの?」と返した。
慈照は素晴らしい答えだと感心した。 これだけで会話が成立しないと確信できたからだ。
屑は人の形をしているが人間ではなく、人間の振りをするどうしようもない生き物だ。
こんな生き物を野放しにするとはこの国の未来を憂うばかりと少しだけ遠い目をして彼は魔導書の力を開放した。
――<第三小鍵 64/72>
第三位階により彼の体は炎に包まれ、炎を操る術を手に入れたのだ。
手始めにやたらと顔を近づけてやたらと臭い息を吐きかけて来る少年の顔面を掴んで焼き殺した。
少年は顔面どころか脳まで焼かれて即死。
次に一番早く反応し、魔導書を使おうとした少年を腕を振るう事によって発生した炎で焼き殺す。
上半身が瞬時に炭化して即死した。 散々、殺すぞと恫喝して来た彼等だったが、本当の殺し合いになるとは思っておらず、同時に自分達が死ぬとも思っていなかったのか突然の仲間の死に僅かに硬直する。
だからと言って慈照がそれを見逃すはずもなく、三人目も同様に焼き殺した。
最後の一人が慌てて魔導書の第五位階を使おうとするが、使用の直前に殴り飛ばす。
少年は殴られて、炭化した頬を押さえながら零れ落ちた魔導書を拾おうとするがそれよりも早く慈照がその顔面を掴んで掴み上げる。
少年は必死に命乞いするが、慈照はまったく聞き入れずにそのまま焼き殺す。
これで四人。 本来なら殺人に対する罪悪感の一つも感じる筈なのだが、慈照の胸にあったのは爽快感だけだった。 まるで胸の閊えが取れたかのようだ。
自身の気持ちに僅かな驚きはあったが、同時になるほどと納得できる部分もあった。
殺しても何も感じない。 つまりあの連中は人間ではなかったのだ。
人間ではない生き物を殺しても心が痛む訳がない。 何故なら虫を殺しても心が痛まないのと同じで、心がそれを当然するべき事と認識している事に他ならないからだ。
あぁ、まったくもって素晴らしい。 自分は何でこんな簡単な事を我慢していたのだろうか?
害虫は駆除するのが常識なのにそれを放置するなんて怠慢だと今までの自分を恥ずべきものだとすら思っていた。 だが、迷いが晴れた今の自分なら全てにおいて正しい選択ができる。
彼は根拠なくそう確信していた。
――行こう。
この先には慈照の助けを待つ人々と、人の皮を被った害虫、そして迷宮を徘徊する怪物という名の害獣が居るのだ。 人を救う事を生業としている以上、やらないという選択肢はない。
黒を全て消し去って盤面を真っ白にするのだ。 そうすれば誰にとっても幸いな結果になる。
慈照はそう確信して迷宮を進み始めた。
「会話ができない屑は死んでろ」
学生服をだらしなく着崩した少年が顔面を掴まれながら命乞いの言葉を吐き出すが、男は一切の聞く耳を持たずに焼き尽くした。 炎によって少年は瞬く間に炭化し、単なる隅の塊へと変化する。
男はゴミかなにかのように少年だったものを投げ捨てた。
持ち主が居なくなった事により、魔導書が男の物へと統合される。
厚みを増した魔導書だったが、明らかに二冊分ではなかった。
それもその筈で男の周囲には四人分の炭化した死体が転がっていたからだ。
宇治守 慈照。
それが男の名前だった。 年齢は二十七で職業は消防士。
両親からは名前の通り他者を慈しみなさいと言われ、途中まではその教えを守ろうとはしていたが様々な人々との摩擦を経験した彼はある日唐突に理解した。 世の中、何をしても無駄な人間がいるという事を。
薄汚い悪意を垂れ流し、他者に害しか与えず、会話も成立しない。
世の中にはそんなどうしようもない人間とは思えないが人間と同じ形をした生き物が一定数棲息している。
職業柄、彼は様々な悲劇に立ち会い、死に瀕した人を救った事もあった。
見返りを求めている訳ではないが、助けた人々に涙ながらに感謝されるのは悪い気持ちはしない。
逆にさっさと助けろよと悪態を吐く者も一定数存在した。 それに関しても同様だ。
別に助けてやったとも思っていないので、悪態を吐くなら好きにすればいい。
だが、それに対して不快に思うか否かはまた別の問題だった。
命の危機に瀕した時、人の本性は浮き彫りになる。 そんな言葉をどこかで聞いた事があるような気もするが、至言ではないかと思っていた。
大火傷を負いながらも自らの子を案ずる親、逆に子供を見捨てて逃げて来た親。
親を必死に助けようとする子、助けないどころか火をつけて焼き殺そうとする子。
世の中は突き詰めれば非常にシンプルだ。 白か黒、「そう」か「そうでない」か。
要は屑か屑ではないかの二択だ。 だから彼は常々思う事があった。
彼の価値基準での屑はそのまま火にくべてしまえばいいのではないのかと。
どうせ生かしておいても碌な事をしない。 だったら炎によって浄化するべきではないか?
その考えは非常に危うく、人を助ける事が本領の消防士には適さない考えだった。
流石に社会常識を持ち合わせている彼がその考えを表に出す事はなく、死ぬまでそうなるはずだったのだが、この社会のルールが通用しない状況において彼の抑圧された狂気がゆっくりと鎌首をもたげるように顔を出したのだ。
繰り返しになるが彼の判断基準はシンプルで、屑か屑でないか。
この迷宮を徘徊する怪物は人を問答無用で襲うのでそれ以前の問題だ。
つまりは駆除するべき害獣。 ならば人間はどうかだ。
彼がここに来てから少し経った頃だ。 ガラの悪い四人組の少年に絡まれた。
表情には数による有利もよる余裕と、これから慈照を痛めつける事によって発生する愉悦への期待が隠しきれていない。
彼等は慈照を取り囲むと魔導書をチラつかせ、寄越せと恫喝して来たのだ。
一応、話し合いでの解決を試みはした。
――脅すのは良くない。 助け合うべきだ。 それができないなら不干渉でいるべきだと。
彼等は慈照の態度を弱腰と判断したのかその主張を口々にくだらないと馬鹿にし、世の中は力こそが正義で弱い奴は淘汰されるべきだと覚えたての言葉のように繰り返した。
慈照は納得して大きく頷く、それだけ聞ければ充分だ。 彼の中で少年達は救いようのない、救う価値のない屑だと決定する。
「最後に聞きたいんだが、君達は会話ができないって事でいいんだな?」
最終警告だ。 それに少年達はゲラゲラと下品に笑い「おっさんビビってんの?」と返した。
慈照は素晴らしい答えだと感心した。 これだけで会話が成立しないと確信できたからだ。
屑は人の形をしているが人間ではなく、人間の振りをするどうしようもない生き物だ。
こんな生き物を野放しにするとはこの国の未来を憂うばかりと少しだけ遠い目をして彼は魔導書の力を開放した。
――<第三小鍵 64/72>
第三位階により彼の体は炎に包まれ、炎を操る術を手に入れたのだ。
手始めにやたらと顔を近づけてやたらと臭い息を吐きかけて来る少年の顔面を掴んで焼き殺した。
少年は顔面どころか脳まで焼かれて即死。
次に一番早く反応し、魔導書を使おうとした少年を腕を振るう事によって発生した炎で焼き殺す。
上半身が瞬時に炭化して即死した。 散々、殺すぞと恫喝して来た彼等だったが、本当の殺し合いになるとは思っておらず、同時に自分達が死ぬとも思っていなかったのか突然の仲間の死に僅かに硬直する。
だからと言って慈照がそれを見逃すはずもなく、三人目も同様に焼き殺した。
最後の一人が慌てて魔導書の第五位階を使おうとするが、使用の直前に殴り飛ばす。
少年は殴られて、炭化した頬を押さえながら零れ落ちた魔導書を拾おうとするがそれよりも早く慈照がその顔面を掴んで掴み上げる。
少年は必死に命乞いするが、慈照はまったく聞き入れずにそのまま焼き殺す。
これで四人。 本来なら殺人に対する罪悪感の一つも感じる筈なのだが、慈照の胸にあったのは爽快感だけだった。 まるで胸の閊えが取れたかのようだ。
自身の気持ちに僅かな驚きはあったが、同時になるほどと納得できる部分もあった。
殺しても何も感じない。 つまりあの連中は人間ではなかったのだ。
人間ではない生き物を殺しても心が痛む訳がない。 何故なら虫を殺しても心が痛まないのと同じで、心がそれを当然するべき事と認識している事に他ならないからだ。
あぁ、まったくもって素晴らしい。 自分は何でこんな簡単な事を我慢していたのだろうか?
害虫は駆除するのが常識なのにそれを放置するなんて怠慢だと今までの自分を恥ずべきものだとすら思っていた。 だが、迷いが晴れた今の自分なら全てにおいて正しい選択ができる。
彼は根拠なくそう確信していた。
――行こう。
この先には慈照の助けを待つ人々と、人の皮を被った害虫、そして迷宮を徘徊する怪物という名の害獣が居るのだ。 人を救う事を生業としている以上、やらないという選択肢はない。
黒を全て消し去って盤面を真っ白にするのだ。 そうすれば誰にとっても幸いな結果になる。
慈照はそう確信して迷宮を進み始めた。
0
あなたにおすすめの小説
レオナルド先生創世記
ポルネス・フリューゲル
ファンタジー
ビッグバーンを皮切りに宇宙が誕生し、やがて展開された宇宙の背景をユーモアたっぷりにとてもこっけいなジャック・レオナルド氏のサプライズの幕開け、幕開け!
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
花鳥見聞録
木野もくば
ファンタジー
花の妖精のルイは、メジロのモクの背中に乗って旅をしています。ルイは記憶喪失でした。自分が花の妖精だったことしか思い出せません。失くした記憶を探すため、さまざまな世界を冒険します。
記憶を取り戻して真実を知った時、ルイとモクの選ぶ道は?
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる