悪魔の頁

kawa.kei

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第37話

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 紙乃かみの 巳奈子みなこは無心でガチャと称した魔導書能力を行使し続ける。
 百回繰り返して合計で十四冊の魔導書を手にした彼女だったが、この調子でコンプリートしようとガチャを再開した。

 この場では必要にならないであろうガラクタが次々と取り寄せられるが、もう慣れて来たので外れは一顧だにせずにひたすらに能力を用いていたのだが――

 「……出なくなったなぁ……」

 一応、新たに数冊を手に入れる事が出来はしたのだが、それ以降全く出なくなった。
 『30/72フォルネウス』『15/72エリゴス』『13/72ベレト
 それでも新たに三冊の魔導書を獲得したので単に確率が落ちているだけだと自身に言い聞かせて無心で作業のように繰り返す。

 五回、十回と繰り返していると出ない事に苛立ちが募る。
 そろそろ三十回目に差し掛かろうとした所で彼女に異変が起こった。
 正確には二十回を超えた辺りで体がだるく動きが鈍っていたが、幸か不幸か彼女の魔導書は念じるだけで起動し何の動作も必要としない。 その為、魂を使うっていうのはこういう事かと納得した。

 それでも彼女は止めない。 何故ならこの不調を単なる疲労と認識していたからだ。
 魔導書の使用者には代償を魂とだけ形容し、具体的な所は一切説明しない。
 そして説明しないにもかかわらず徴収はしっかりと行うのだ。 彼女は知らない。
 
 魂が寿命とイコールと言う事を。 だからと言ってこの状況下で動けなくなる事は死を意味する。
 彼女自身もそれを僅かではあるが認識はしていた。
 しかし、彼女は手に入れた大量の魔導書があるので襲われた所で何の問題もないと考えていた事、仮に動けなくなったとしても魔導書を引き切ってしまえばこのゲームは自分の一人勝ちで終わるのだ。
 
 だったらこのままクリアまでに集め切ってしまえばいい。
 そして何より、ガチャという文化が大好きな彼女はレアなアイテムを手にいれて持っていない者達相手に優越感を感じたい。 運という個人の実力ではなく確率の上に成り立っているものでも人より優れた結果が出れば、それなり以上にいい気分になる。 

 特に学力や運動神経に自身のない彼女からすれば運でも他人相手にマウントを取れるなら、充分過ぎるほどにいい気になれる成果なのだ。
 さて、彼女曰く、魔導書ガチャ。 これの料金なのだが、彼女の魔導書の能力は『取り寄せ』。
 位階が上がる程に取り寄せられる代物の大きさや質が向上する。 その為、魔導書を取り寄せるには第三位階以上の使用が要求されるのだ。

 そして第三位階による取り寄せは一度の使用につき、魂――寿命が持って行かれる。 
 具体的にはどの程度なのかだが、料金は寿命約半年。 つまり二回使用すれば寿命が一年消えるのだ。
 そして彼女は既に百回以上の能力行使を行い、更に使用を続けている。

 そろそろ百四十回目に差し掛かっている。 
 単純計算で彼女は既に七十年分の寿命を支払っているのだ。
 彼女が疲労と思っているものの正体は魂の寿命が大きく減った事による衰弱。

 無自覚に彼女は自身の未来を支払い続け、そろそろ終わりが見えつつあった。
 まるで燃え尽きる事を知らずに惑星の大気との摩擦で燃え尽きる隕石のように彼女は破滅に向かって落下していく。 そして落下に付きものなのは着地だ。

 大抵の物にはこれ以上、落ちる、降りる事ができない底が存在する。
 果たして彼女にとっての底は何処なのか?
 
 「……あぁ、クソ。 また……外れだ。 ヤバい、ちょっと……眠くなってきたな。 でも……結構、集まったし……。 一休みして……また回せば……終わる。 はは……やっぱ……ガチャって……最高だわ……」

 紙乃かみの 巳奈子みなこは最後にそう呟くと眠るように目を閉じた。
 その表情には笑みが浮かんでおり、最期まで自分の勝利を確信するものだった。
 大事に小脇に抱えた魔導書を握る手から力が抜け――ポロリと零れ落ちドサリと音を立てて着地。

 ――まるで彼女の今を暗示しているかのようだった。


 地響きを立てて十メートルはあろう巨体が崩れ落ちる。
 首から上が消し炭になっていて判別は難しいが、牛の頭をした怪物――ミノタウロスだった。

 「うえーい。 よっちゃんお疲れ!」
 「うえーい。 魔導書の扱いもだいぶ慣れて来たしこいつらなら楽勝だぜ!」

 卯敷と伊奈波はハイタッチする。
 
 「今度は牛かぁ。 ちょっと寝て気分も良くなったし魔導書使った所為か小腹が空いちまったよ」
 「おいおい、もう腹が減ったのか。 よっちゃんはよく食うなぁ」
 「へへ、褒めんなよ。 トッシー」

 特に褒めた覚えはないが伊奈波は上機嫌だったのでまぁいいかと流す。

 「食うのはいいけど、頭が牛なだけで体は人間みたいな形なんだよなぁ。 これ食えるとこあるべ?」
 
 怪物の身体構造に精通していない卯敷はどうしようと首を捻る。
 
 「取りあえずモツはヤバそうって聞いた事がある!」
 「それ牛の話だべ? こいつ同じ牛でも人型の牛だろ?」
 
 伊奈波はうんうんと悩む。 その間に卯敷も考えるが、臓物はリスクが高いと判断。
 なら、筋肉とかなら行けるのではないかと口にしかけたが、それよりも早く伊奈波が声を上げる。
 
 「俺名案思いついた! こいつを丸焼きにするだろ? 匂い嗅ぐだろ? 不味そうだったら諦めて、上手そうな匂いしたら食おうぜ!」
 「匂いで判断しようぜで草。 まぁ、臓器を避けて腕とか足とかの筋肉ならいけるだろ。 取りあえずその辺を焼いてから様子を見るべ?」
 「なるほど! 流石トッシー、早速やってみるな!」

 伊奈波は魔導書の能力で死骸の腕を丸焼きにし、焼いた部分を悪魔に引き千切らせる。
 焦げた表面を卯敷が呼び出した悪魔に裂かせ、開くと中まで火が通っているようで湯気がほわりと噴き出す。 伊奈波は貪るように匂いを嗅ぐ。

 「ど、どうよ?」
 「よく分からないけど食える気がする!」
 「よく分からないで草ぁ!」
 
 伊奈波は制止する間もなく脂が滴る肉へとかぶりついた。 
 全身を使って肉を食い千切るその姿は人間ではなく、野生動物のようだ。
 くちゃくちゃと音を立てて肉を頬張り、呑み込む。

 「よっちゃん。 美味しい?」
 「おいちい!」
 「よし、俺も食うべ」

 毒見をさせているようで若干、後ろめたかった事もあって卯敷も伊奈波に倣って食い千切る。
 もぐもぐと咀嚼し、味を確認。 残念ながら卯敷には肉の違いはよく分からなかったが、記憶にある肉の味に近いような気がする。 ただ、調味料やタレの類がないのでやや物足りなかったが、充分に食える味だった。
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