悪魔の頁

kawa.kei

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第40話

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 「――分かった。 君達に協力する」

 結局、御簾納が選んだのは魔導書を渡さずに祐平達に協力する事だった。
 完全に信用した訳ではないが、この状況に呑まれている様子もなかったので今まで出会った者達に比べれば理性的に接する事ができそうだと判断した事もその決断を後押しした。

 ただ、魔導書を渡すリスクだけは絶対に冒せない。 使用する事での寿命の消費は可能な限り、避けたくはあったが死んでしまえばいくら寿命が残っていても意味がないので必要経費と割り切るしかなかった。
 
 「ま、いいんじゃねぇか? 取りあえずお仲間って事でよろしくなおっさん」
 「……取りあえず、移動するんで付いて来て下さい」
 
 水堂は軽く、祐平はそっと背を支えて移動するように促す。
 櫻井は特に何も言わない。 御簾納は新しい同行者達に対して、一抹の不安を抱きつつ歩き出した。

 
 しばらくの間、御簾納は無言で歩いていたが、気を使った祐平が話を振るようにしたかいもあってかポツポツとだが話をするようになっていった。
 御簾納みすの 容一郎よういちろう。 
 家族構成は妻と娘との三人。 家族仲は良好で仕事も順調に進み、娘も問題なく学生生活を送っていたがある日、娘が奇妙な事件に巻き込まれた事で生活が崩壊した。

 国内でもかなり有名な事件で話を聞きたいと群がって来る者達から逃げるように居を移して今に至る。
 
 「例の行方不明事件ですか!?」

 真っ先に声を上げたのは祐平だった。 水堂は首を傾げ、櫻井はあぁと薄い反応を示す。
 
 「結構前の話だよな。 確か高校生の修学旅行バスが丸ごと消えたって奴だろ? つーかあれってまだ見つかってないんだな」
 「私も似たような認識ね。 山の中で消えたのにどれだけ探しても見つからないっていうのはニュースでやってるのを見たわ。 ――で、何人かが帰ってきたところまでは聞いたけど、何が起こったんだって聞いてくる奴が後を絶たなかったって言うのはありそうな話ね」
 「当時、被害者家族に結構な数の取材申し込みや、スマホやカメラ片手に動画配信者が突撃したりしたらしく生きて帰ってきた学生達は残らず逃げるように姿を消したみたいですね」

 某県に存在する山間の街へ向かった修学旅行の学生を乗せたバスが丸ごと行方不明になった事件で、その非常に不可解な内容から現代の神隠しと呼ばれている。
 
 「特に奇妙な点は他のクラスは無事に到着したのに、一クラスだけが行方不明になった事です」
 「どっかに落ちたとかじゃないのか?」

 往来の少ない山道、何らかのアクシデントで崖下に落下し、乗員乗客が全て死亡した。
 死体は助けを求める事ができないので見つからない。 水堂の意見は普通に考えればあり得る可能性ではある。 祐平は首を振って否定した。

 「移動経路は警察やらが念入りに調べたみたいです。 一人の生徒が体調不良を起こして他より遅れての出発でしたが、パーキングエリアを出た所までは確認されていたみたいです。 ただ、山道に入って後は目的地に行くだけって所で――煙のように消えた」
 「あなた詳しいわね」
 「いや、当事者の御簾納さんには申し訳ないんですけど、俺こういうの結構好きで……」
 
 祐平が少し興奮してしまったと口を噤んだ所で御簾納は自嘲気味に笑う。

 「潟来君の言う通りで、帰ってきたのは娘を含めてたったの四人。 聞いた話にはなるが、奇妙な話で目的地にはついたらしいんだ。 随分と酷い道だったようで乗り物酔いで気分が悪くなった娘とその友達は軽い気持ちで散歩をした結果、ハイキングコースに迷い込んでそこで大型の獣と遭遇したらしい。 その後ははっきりしなくてね。 逃げ回って気が付けば山から下りていたらしい」
 「出回ってる情報と違いますね。 到着はしたんですか?」
 「少なくとも私はそう聞いているし、娘の言葉を信じている。 帰ってきた後は余程、恐ろしかったのか娘は家に引きこもるようになったよ。 こんな状況になって考えてみると、もしかしたら娘もここと同じような普通じゃない場所に迷い込んだのかもしれないな」
 
 御簾納はそう言ってこの異様な空間をぐるりと見回す。

 「はは、この状況が神隠しの正体って事ですか? 興味はありましたが、当事者になるときついものがありますね。 俺達の事もフードコートで集団失踪とかそんな感じに報道されるんですかね?」

 最初に飛ばされた状況を思い出すと持ち物こそそのままだったが、椅子やテーブルなどの備品は一緒に飛ばされていない。 恐らくあの場所から人だけが綺麗に消えた形になる。
 今回に限って言うならバスが消えたのと訳が違う。 フードコートというオープンスペースで数十人が丸ごと消えたのだ。 結構な騒ぎになるだろう。

 「探す方はどうするか途方に暮れるだろうなぁ」
 「確かにいきなり消えたんだから足取りもクソもねぇし、鑑識が痕跡を血眼になって探してるんじゃないか」
 
 水堂は見つかる訳ないよなと肩を竦めて見せる。

 「こんな漫画みたいな状況なんだから漫画みたいな正義のヒーローとか居ないのかしら?」
 「あれですね? 何とか対策班とか何とか課とか表向き何かに偽装した超常現象専門の部署が調査してきてくれるとかですか?」
 「それそれ。 何か凄い力を持った人達がドーンって解決するなんて展開になると楽なんだけどねぇ……」
 「はは、そんなのが居るんだったら是非ともあって話を聞いてみたいですね」
 「それであわよくば仲間に入れてもらうとかそんな流れか?」
 「勘弁してください。 今の時点でもうお腹いっぱいですよ」
 
 水堂と祐平が声を出して笑い。 櫻井も少しだけ笑う。
 それを見て御簾納も釣られるように苦笑した。

 「はは、君達を見ているともう少し気楽に考えられるんじゃないか。 そんな気がするよ」
 「ま、気分が落ちると碌な事を考えられずにネガティブをばら撒くばっかりだし、虚勢でも笑っといた方がいいぜ」
 「言ってることは分かるけど状況は何にも変わってないからね? あんた達、ちゃんと私を守るのよ?」
 
 水堂のはいはいと言った軽い返事に櫻井はやや渋い顔をする。
 それを見て、御簾納は少しだけ気持ちが軽くなった。 こんな状況に落とされ、先への見通しも立たない。 絶望するしかないと思っていたが、目の前で笑えている若者達を見ると僅かながらにもまだ希望はあるのではないのかと少しだけ救われた気持ちになる。

 もしかしたら目の前で繰り広げられているのは彼を陥れる為の演技かもしれない。
 そんな考えも頭を過ぎったが御簾納はもう少しだけ人を信じたいと強く思う。
 同時に家族の下へと帰るんだ決意を新たにして拳を握った。
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