悪魔の頁

kawa.kei

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第49話

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  御簾納を加えた四人になった祐平達だったが、新たに加わった仲間は意外と早く馴染んでいた。
 
 「私はそういった物に疎いのだが、割とありふれているものなのかね?」
 「そっすね。 最近は異世界に転生とか結構、流行ってますよ」
 「ぶっちゃけ、俺達の現状も似たような物じゃねぇか?」

 水堂を先頭にその後ろに祐平、戦闘能力の無い櫻井は真ん中、一番後ろに御簾納と言った並びになっているが、離れて移動している訳ではないので充分に会話は可能な距離だ。
 当初は御簾納との情報の擦り合わせを行っていたが、それが終わると雑談に移行した。

 水堂と祐平がこういった状況のお約束の話をし、それに御簾納が質問を挟む形になっているのが今の会話の流れとなる。 

 「確かによく分からない場所へ行くって所なら似たようなものかもしれませんね」
 「つーか、同じ飛ばされるならこんな陰気な場所より、勇者様助けてくださいとかの方がマシだったぜ」
 「お、それなら私も分かるぞ。 昔、ちょっとやった事あるからね」
 「ちなみにそれって円盤入れるタイプっすか?」
 「専用ソフトを入れるタイプだね」
 「うわ、なっつかしいな。 俺もガキの頃やってたわ」
 
 首を傾げるだけかとも思ったが、御簾納は聞き上手なのかするりと話題に入って来る。
 テンポよく会話が弾むので水堂も祐平も上機嫌だ。 同時に黙っている櫻井への配慮も忘れずに時折、話しを振ったりもしており、彼が人間関係を円滑にする術に長けていたのかがよく分かる。

 それを見て祐平はこんな人柄だからこそ人数を集める事が出来たのだろうなと。
 ただ、御簾納には人と人を繋ぐ才能はあったかもしれないが、人を率いる能力はなかった。
 彼の失敗は全て自分でどうにかしようと考えたからだろう。 恐らく御簾納に最も必要だったのは対等な立場で話ができる仲間ではないのだろうか? 少なくとも彼の人の良さそうな笑顔に嘘はないと思っているので、自分達の為にも彼自身の為にも合流できてよかった。 

 祐平は御簾納の様子を見てそう思う。 

 「――そのRPGというジャンルのゲームでは魔王を勇者が討伐する形にはなるのだが、我々の状況では魔王はこの状況を生み出した張本人だね。 目的は一体何なんだろうか……」
 「その話は前に少ししたんですが、この魔導書って元々はあいつの持ち物何ですよね」
 「ま、そりゃ間違いないだろ。 わざわざ配ったのは意味不明だなって話で前は終わったな」
 「漫画とかでよくある流れだと、俺達がここで死ぬ事で何かしらの利益があるんじゃないかって意見は出ましたね」
 「うーむ、生き残るのに必死でその辺りは深く考えていなかったが、確かに魔導書は便利だが代償が重すぎる。 気軽に使えば文字通り命を縮めるというのは使用を躊躇してしまうな」
 「水堂さんと話した時には俺達がここで死んだら残りの寿命的なものを吸い取って自分の物にするんじゃないかって話でした」
 「うわ、本当にありそうで怖いわね。 使用のリスクを考えたらわざわざ配るのも納得だわ」

 漫画のセオリーを意識しての意見だったが、魔導書を扱える為の過程と考えるなら筋は通る。

 「真偽はさておき、あり得る話ではあるね。 だとするなら問題はこれが何度目かと言う事ではないかね?」
 「――あー、そうか。 今回、初めてじゃない可能性もあるのか」
 
 御簾納の発言に水堂ははっとした表情になり、祐平は顔を覆う。
 
 「うわ、そうか、魔導書を使う為の残機稼ぎなら何回もやるに決まってるんだよなぁ」
 「というか魔導書を作ったのが首謀者で確定ならあいつ自身がもうワンセット持っていても不思議はないんじゃない?」
 「げ、マジかよ。 仮にあいつを引っ張り出せても魔導書を揃えてその上、制限なしで扱える奴が相手になるのか……」
 「出る条件がコンプリートでも戦力面ではほぼ五分で、寿命の分だけ不利って事ですか」

 考えれば考える程に悪い可能性ばかりが浮上する。
 だが、それでも祐平は完全に希望は捨てられないでいた。 人数が増えれば同じ話題でも違った意見が出てくる。 つまりそれは知恵を出し合えば何か打開策が生まれる可能性を示唆していたからだ。
 
 「まぁ、何の想定もせずにアホ面下げて挑むよりは――」

 水堂が足を止める。 理由は祐平が肩を掴んだからだ。
 他も一瞬遅れて足を止めた。

 「化け物か?」

 祐平は暗視で他よりも遠くを見る事ができる。
 その祐平が留めた以上、前方に何かが居る事に他ならない。

 「いえ、人間です。 二人組、多分ですがこっちに気付いています。 ――どうします?」
 「おっさんと櫻居は後ろに下がってろ、祐平は敵の能力を調べたらいざって時に援護を――」
 「いや、先に私が魔導書で未来を見よう。 戦闘になっていたら水堂君の案で、ならなかったら全員で行く。 どうかね?」 

 祐平と水堂は顔を見合わせてから頷く。

 「よし、それで行こう。 おっさん、頼む」

 御簾納は任せ給えと頷き、魔導書を起動。 数十メートルしか離れていない相手なので、十数秒先を見られれば充分だった。 第一位階にて起動した彼の魔導書はその能力によって彼に僅かな未来を見せる。

 「……戦闘にはならないと思うが――」 

 御簾納はそう言って櫻居をちらりと視線を向けた。
 
 「何?」
 「君が驚く姿が見えたのでもしかしたら知り合いかもしれない」
 
 そこまで聞いて櫻居の顔色が僅かに変わった。
 同時に水堂と祐平は察しがついたのかあぁと声を漏らす。

 「そういえば俺達より前に洗脳しようとして攻撃して来た連中がいるって話があったな」
 「二人組なので状況的にも一致しますね」
 「え? あいつらなの? 危ないんじゃない? いきなり攻撃して来た奴らよ!」
 「そりゃお前の魂胆を見透かされたからじゃねーのか? ――ともあれ、攻撃される事も警戒しといた方がいいな」
 「それ込みで俺は二人のガードにつきます。 いざって時は水堂さんにお願いしますよ」
 
 水堂は分かったと大きく頷く。 四人は若干の緊張を滲ませつつも真っ直ぐに歩く。
 向こうも同様に近づいて来るので距離は瞬く間に埋まり、互いの足音が聞こえる。
 そして闇の向こうから二人の少年が現れた。

 数メートルの一で互いに足を止める。
 
 「取りあえず、お前等は戦る気になっているのか話を聞く気があるのか。 どっちだ?」

 水堂は真っ先に口を開き、そう尋ねた。
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