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第1話
しおりを挟む昔から何かと喧嘩を売られることが多かった。
多分この身長と目つきの悪さが原因だと思う。
今まで自分から喧嘩を売ったことはない。殴るのも殴られるのも痛いし全然喧嘩なんて好きじゃない。それでも一方的にやられっぱなしで負けることは嫌いだったので、正当防衛だと思って売られた喧嘩を全部買っていたら知らぬ間に県内で一番最強の不良になっていた。
けどそれとは引き換えに失ったものもある。
「和田、お前には酷なことを言うが今日限りで退部してもらう」
放課後職員室に呼ばれた俺は所属していたバスケ部の顧問の先生にそう言われた。
「お前は背も高いしフィジカルも強いし技術も申し分ない。部活に来れば真面目に練習してる姿も見てきた。だから今まで先生もお前が他校の生徒と喧嘩しても目を瞑ってきたし、周りの先生達も渋々納得してくれていた。だがもう…」
先生が凄い困った顔をしてるのがわかって俺は何も言うことができなかった。
ああ、また一つ俺の居場所が無くなってしまった。
俺はお世話になりましたと言って小さく頭を下げ職員室を出た。
「げ、雨かよ」
下駄箱で靴に履き替えて外に出るとポツポツと雨が降り始めていた。
雨が本格的に強くなる前に急いで駅に向かおうとしたが雨が強くなるスピードは早かった。
「あー、早く信号変わんないかなぁ」
不思議とそこまで落ち込んではいなかった。なんとなくいつかこんな日がくるんじゃないかと思っていたし、もはやここまで庇ってくれていた先生やチームメイトには感謝している。別に全くバスケができなくなったわけではない、公園に行けばいくらだって練習はできる。
でも、みんなと試合で勝った時は嬉しかったな。
雨の中交差点で信号待ちしていると俺の視界の端を何かがスっと通って行った。
猫だ。道路に猫が飛びだし、向こうから大きいトラックが来ていた。
「おいっ!バカ!」
咄嗟に俺は飛び出して猫を抱き抱えた。
とても鈍く重い音がこの交差点に響き渡った。
「おい、あんた!大丈夫か!おい!」
身体が動かない、声も上手く出せないし痛みもよくわからない。視界はボヤけているし何かふわっと声が聞こえる程度。そんなことより猫は無事だったのだろうか。
「ね、」
「おい!大丈夫か!」
「こ」
俺は喉を振り絞って声を出した。
「猫か?猫は無事だ!そんなことよりあんただよ!」
猫は無事、それなら良かった。
それだけを聞いて安心した俺はそのまま意識を手放した。
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