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3巻
3-1
しおりを挟む第一章 閉じこもり姫と鋼鉄の鍛冶師
「わぁ、あれが王都ローレリアですか!」
私は興奮のあまり、馬車の窓から身を乗り出した。
まだ距離があるけれど、八角形の塀に囲まれた都市が見える。塀の中にはたくさんの家屋が密集し、その中央には二つの大きな建物がそびえ立っていた。
「凄いね、リリアナちゃん!」
「そうだね!」
親友のミーナちゃんも私と同じように身を乗り出し、遠目に見える王都を指差しながら瞳を輝かせている。
「リリアナ、ミーナちゃん、危ないからそんなに身を乗り出してはいけないよ」
お父様はそう言うと私達の腰に手をまわし、馬車の中に引き戻した。
初めて見る王都に、ついつい我を忘れて興奮してしまいました。反省ですね。
私は向かい側の席に座っていたミーナちゃんと顔を見合わせて、しゅんとする。思わず俯いたとき、ミーナちゃんの慌てたような声が聞こえた。
「あっ、リリアナちゃん、外套が頭から落ちそうだよ」
ミーナちゃんはこちらへ手を伸ばし、私が被っていた外套を直してくれる。
「ありがとう、ミーナちゃん」
二人で笑い合っていると、お父様が優しい口調で私をたしなめた。
「馬車は、大きく揺れることもある。王都への道は整備されているけれど、窓から顔を出していたら、いつ身体が投げ出されるかわからない。それに、ただでさえリリアナには気をつけなければいけない事情があるだろう。忘れたのかい? 今も、外套が外れそうになっていたね。もっと慎重にならなければいけないよ」
うぅ、その通りだよ。なんの反論もできません。
ミーナちゃんの隣に座っている家庭教師のシリウス先生も、呆れた様子でこちらを見てくる。
……視線が痛いです。
「ごめんなさい。まるでファンタジー映画みたいな光景だったから、ついはしゃいでしまいました……」
だってこんなに綺麗な街並みは、初めて見ました!
この頃は、私達が住むオリヴィリア領も商人達が集う町として栄えています。以前に比べて訪れる人も増えたし、賑やかな都市に変化しつつあるんです。王都へ来るまでに通り過ぎた他の都市に、負けていませんよ。
うふふ、誇らしいです。
だけど、ここ数年で栄えたオリヴィリア領と王都を比べるなんて、おこがましいよね。
前世で私が暮らしていた世界――高層ビルが建ち並ぶ日本の都市は、私が今いる世界より文明が発展していたと思う。だけどこの世界には、また違うよさがあります。
神様から人に加護が与えられたり、誰もが魔法を使えたり……
そしてなにより、王都にはお城があるんです!
某テーマパークにあるお城みたいな、キラキラした建物。それが王都の中心地に二つも!!
一つは、王様の住まう王宮。政治の拠点ですね。
もう一つは、この世界のすべての国で信仰されているセイルレーン教の神殿。ここは総本山ではないけれど、そう思われてもおかしくないほど立派な建物です。
かつてオリヴィリア領にも、領主が住んでいるお城があった。王都のお城とは違って、石造りの要塞みたいな建物だったけどね。
そのお城は……今はもうありません。三年くらい前に、私の魔法のせいで崩壊しちゃいました。黒歴史です。
それにしても、王都の街並みは本当にファンタジー映画みたい! 見ているだけで、わくわくします!!
「ファンタジーエイガ? あぁ、リリアナちゃんのいつものだね」
ミーナちゃんは不思議そうな顔をしていたけど、すぐにクスクスと笑い出した。
私は時々、前世で暮らしていた世界の知識をポロッと口にしてしまう。私に近しい人達は、それにも慣れっこだ。
でも、どこで誰が聞いているかわからないもんね。気をつけないと。
ミーナちゃんと同じように、シリウス先生も私の言葉を聞き流してくれた。だけど、お父様だけはこちらを見て意味深に微笑んでいる。
うぅ……わかっていますよ、お父様!
私が異世界に生まれて、十二年が経った。
前世――。そう、私には、リリアナとして生を受ける前の記憶がある。
その世界で、私は橘ゆかりという名前の女子高生でした。日本で、平凡ながらも穏やかに暮らしていたんです。
けれど交通事故に遭い、私はリリアナ・ラ・オリヴィリアとして転生しました。
しかも生まれた場所は地球ではなく、セイルレーンと呼ばれる異世界だったのだから、驚きだよね。
最初はその事実を受け止められず、私はこの世界を拒絶していた。
だけど、両親はそんな私にいつだって優しく微笑み、愛を注いでくれた。やがて私は、新たなる生を受け入れるようになりました。
そして、私は成長するうちに自分の立場を知ることになる。
なんと私、伯爵家の娘として生まれていたんです!
……それも、貧乏伯爵家に。
オリヴィリア領の領主を務めるお父様は、領民達のことを第一に考えて、彼らの生活が豊かになるよう、入ってきたお金のほとんどを領地につぎこんでいる。
また、うちには必要最低限の使用人しかいないから、お母様も毎日家事をしている。
貴族といっても、我が家の家計は火の車。
そこで私はなにか役に立ちたいと、前世の知識を活用することにしました。
この世界の文化レベルは中世ヨーロッパみたいなイメージで、ちょっと不便を感じることもある。
優しい両親のために、少しでも暮らしを豊かにしたいと思って、この世界にはないものを広めてきました。……それがどんな影響を及ぼすのかは、考えもせずに。
私が九歳のとき、オリヴィリア領に瘴気が発生して、たくさんの人々が病に倒れました。
今では、そのときのことを「災厄の年」と呼ぶ人がいる。それくらい惨たらしい有り様でした。
瘴気には薬も魔法も効かず、治療法がないんです。
病に冒された人々は、まるで一筋の希望を求めるように、私に救いを求めてきた。
だけど、前世ではただの女子高生だった私。
治癒魔法で治すこともできないし、その病に効く薬の知識だってない。私にできることは、なにもありませんでした。
それでも病に冒された人々は、口々に言いました。
今まで、たくさんの知識や技術を世に生み出してきた私になら、奇跡を起こせるはず。なにより、神々の一族の末裔なのだから、と。
知識? 技術?
そんなもの、私は生み出してなどいない。
だって私は、前世の知識を披露してきただけなのだから。
それに、神々の一族の末裔ってどういうこと?
混乱しながらも私は部屋に閉じこもり、思い出せるだけ、前世の知識を紙に書き出していった。
そこへやってきた、お父様とお母様。私のことを心配したお父様とお母様に、部屋中に散らばった紙を見られちゃったんだよね……
私は焦ったよ。
だってその紙には、こちらにはない言語――日本語が書かれていたから。
でも、私はようやく決心が固まった。
それまで前世の記憶があることを隠し続けて、ずっと嘘をついてきた。すごく苦しくて、いつかは本当のことを言わなければならないと思っていた。
覚悟を決めた私は、前世では女子高生だったことを告白しました。そしたら、お父様とお母様はなんて言ったと思う?
『よくできました』と言ったの!
二人は、私に前世の記憶があることに感づいていたんだって! びっくりだよね!!
なんでも、私のやることには失敗がないから怪しんでいたみたい。最初から答えを知っていたんじゃないかって。
さすがに、この世界とは違う世界で暮らしていたことを話したら驚いていたけど。
そして二人は、さらに爆弾発言をしました。
『教会には輪廻転生を繰り返し、そのすべての生の記憶を保持している人物がいる』と。
えぇーーーーーー!
私の他にも、前世の記憶を持っている人がいるのーー!?
しかも、すべての生の記憶を保持しているなんて!!
私は、今まで悩んできたのが一気に馬鹿らしくなっちゃいました。
私なんかとは比べものにならないくらい、凄い人がいるんですから。上には上がいるってやつですね。
衝撃の事実は、まだまだ続きます。
我がオリヴィリア家の血筋を辿れば、なんと美と愛と豊穣の女神様へ行きつくのだという。
遠い昔、美と愛と豊穣の女神様は、ある青年に加護を授けました。そして彼との間に、女神様は双子をもうけます。
神と人との間の子。
つまりは、半神半人。
その一人は、国の始祖となるシェルフィールド様。
オリヴィリア家は、始祖様の双子の妹姫を祖に持つのだという。
シェルフィールド王国の始祖様が半神半人なのは知っていたけれど、そんな凄い方の妹姫がご先祖様だったなんて!
そのご先祖様の名前はアルディーナ様といって、大公爵家を築いた。この国で唯一の永遠の公爵家で、大公爵を名乗れるのはアルディーナ家だけです。
私に救いを求めた人々は、だから私のことを神々の一族の末裔と言ったのですね……
しかもアルディーナ様は、稀有なる色を纏っていたらしい。過去をさかのぼっても、アルディーナ様とセイルレーン最高神様だけが持っていた特別な色。
月のように美しい銀色の髪に、神秘的な紫水晶の色を宿した瞳。
うん、それって、私の髪と瞳の色だよね……
お父様は、震える私を優しく抱きしめながら語りました。
『リリアナ。所詮、私達は神ではなくただの人だ。人にはできることと、できないことがある。高望みをしてはいけないよ。私達は力を持つ故に無理難題を言われやすい。しかしなんと言われようが、できないものは、できないんだ』
だから、できることをやる。
そうだよね。そんな当たり前のことさえも、私は見失っていた。
目から鱗な瞬間でした。
瘴気は多くの犠牲者と悲しみをもたらしましたが、冬の終わりに事態は収束しました。
あれから二年半。
領民達は悲しみを埋めるように、復興に努めてきた。
そうして私は瘴気の発生をきっかけに、平凡に生きることを誓った。
それまでは、前世の感覚で物事を考えて行動していました。やがて自分に、火の粉が降りかかってくるとは思わずに。
もしかしたら、今度は大切な人達を巻き込んでしまうかもしれない。それは、私にとって一番辛いこと……
だったら、目立たず、地味に生きていくのが最善の策です!
だけど厄介なのは、私の見た目なんだよね。
これをなんとかするために、私は王都に来たんだけど……
「リリアナ様、どうしましたか? どこか具合でも悪いのですか?」
シリウス先生が、私の顔を覗きこみながら尋ねてくる。
「いえ、すみません。ちょっと感傷的な気分になってしまいました。それより、あそこに『あの方』がいるんですね……」
そう。私が王都にやってきたのは、ただ観光のためじゃありません。
ある目的があって訪れたのです。
「はい。今、王都には、炎と鍛冶の男神様が加護するカイウェル王国のグエルがいます」
その人こそ、私の人生の明暗を分ける人。
私は馬車の窓から、彼がいるであろう王宮をしっかりと見据えた。
カイウェル王国のグエルさんの話を聞いたのは、家族で団欒していたとき。
皆でお茶を楽しんでいると、お父様がふと呟いた。
「リリアナは、以前よりも外に出なくなってしまったね……」
それは……だって……仕方がないですよ。
「リリアナちゃん、やっぱりまだ外出は怖い?」
お母様も、心配そうな顔で尋ねてくる。
私にも、外出をしたいという思いはある。
けれど、どこかに出かけていろんな人と出会い、また期待をかけられてしまったら……
そう思うと、身体に重石がついたように動けなくなる。まったく、情けないですよね。
「ねぇちゃま、怖いの?」
「ねぇーねは、怖くにゃいよ?」
可愛い双子の弟妹、ラディとレティは、幼い口調でこちらに話しかけてくる。
重たい内容の話をしていたのに、二人の様子を見て口元が緩んだ。
「……怖くないと言えば、嘘になります。だけど領民達に悪意はなく、いい人ばかりなのも知っています」
そう、本当にいい人ばかりなんです。
変装して領主町へ出かけると、皆は気さくに声をかけて、あたたかく迎え入れてくれます。
とはいえ――
「外出すれば、私の『色』を見られる危険性が高まりますから」
私は自分の髪をそっと梳いた。手の動きに合わせて、銀色の髪がゆらゆらと揺れる。
私の瞳と髪の色は、大好きな両親の色でもある。
お父様の紫水晶色と、お母様の銀色。
それは、とてもうれしいの。だけど、神様と同じ、紫水晶色の瞳に銀色の髪だなんて、私には荷が重すぎます。
黙りこんだ私に、お母様は優しく語りかける。
「リリアナちゃん。前に比べたら、随分と魔法が上手くなったじゃない。そろそろ魔法で姿を変えることもできるんじゃない?」
「うぅ……」
私は自分の持つ色が神様と同じだと知ってから、魔法の猛特訓をしました。
髪と瞳の色を変えられるように。
だけど、ここで忘れてはならないことが一つ。
私の魔力は、他の人よりもかなり高いみたい。だけど、その高すぎる魔力故に、上手くコントロールができないんです……
「リリアナちゃん。今、魔法の成果を見せてちょうだい」
「でも、もし失敗したら危ないです。だから……」
だって私には、魔力を暴走させて領主城を崩壊した黒歴史がある。
幼いラディとレティもいる場で、もしものことが起こったら、悔やんでも悔やみきれません。
「リリアナ。私やアリスも、世間では高魔力だと言われている。なにかあっても、全力で止めるよ。それとも、そんなに魔法に苦手意識があるのかな?」
苦手意識は、もちろんありますよ。
だけど、そこまで言われて拒否するのも、お父様とお母様を信用していないようなものですよね。うぅ……やりますか。
「わかりました」
変化の魔法でたくさん失敗してきたけど、今のところ大きな事故に繋がったことはないし、きっと大丈夫。
ううん、きっとじゃなくて、絶対に大丈夫。成功する。
自分を信じなくっちゃ、成功するものもしないよね。
私は集中するために、静かに目を閉じる。
魔法で重要なのは、想像力。
魔力がいくら強くても、発動させたい魔法をきちんとイメージできなければ成功しない。逆に魔力が弱くても、イメージが明確であれば成功へと繋がる。
私は自分の変化したあとの姿を想像し、詠唱する。
「お願いします! もう一人の私になりますように!!」
私はそっと目を開き、お父様とお母様を見る。
すると二人は、ほうっと息をついた。
ラディとレティは、目をまん丸に見開いている。
この反応は、成功したってことですね! やったね!!
「凄いじゃないか、リリアナ。成功だね。綺麗な白金色の髪だよ」
えっ? 白金?
「ええ、本当に。瞳は、淡い薔薇の花のような淡紅色ね。そういう色合いも、リリアナちゃんには似合っているわ」
えっ? 淡紅色??
「……私が想像していたのは、お父様の太陽のような黄金色の髪に、お母様の神秘的な琥珀色の瞳なのですが……」
「えっ!?」
「あらっ!?」
お父様とお母様は驚きの声を上げると、気まずそうに私から目を逸らす。
私は自らの髪を一房掴み、視線を落とす。お父様の言葉通り、髪は白金色に染まっていた。プラチナブロンドってやつですね。
うぅ、失敗です。
いつもお父様とお母様の色を想像しているのに、なぜか白金色の髪と淡紅色の瞳になっちゃうんですよね。私のもともと持つ色を薄くしたような色に。
少しとはいえ変化しているので、ある意味では成功なのかもしれない……。でも、いつも通りならば、そろそろ……
予測通り、私の中でなにかが弾けて霧散するような感覚があった。
「あっ、ねぇちゃま、もとに戻った!」
「いつものねぇーね!」
掴んでいた髪は、白金色から見慣れた銀色へ一気に戻る。おそらく戻ったのは髪だけでなく、瞳もだろうな。
ラディとレティは、うれしそうに両手を叩きながら喜んでいる。
ラディ、レティ、お姉ちゃんはマジックショーをしたわけじゃないですよ。
喜ばれても、複雑な心境です。これは、失敗なのですから。
「リリアナ、魔法を解除したわけではないね」
私は苦々しく思いながらも、お父様の言葉に頷く。
「その……随分と持続時間が短いのね」
お母様は、困ったような表情で言った。
「そうなんです。それが、私の課題なんです……」
これでも、徐々に上達はしているんだよ。最初は、まったく変化がなかったもんね。
ようやく瞳と髪の色を魔法で変えられるようにはなったけど、持続することが難しい。
持続時間は、だいたい二、三分が限界。
うぅ、情けないです。
「でも、瞳と髪の両方じゃなければ違うんですよ。見ていてください。……お願いです。瞳の色が変わりますように!」
私は琥珀色の瞳を想像しながら、詠唱する。
「どうですか? 私の瞳は、何色になっていますか?」
尋ねると、お父様とお母様が私の顔を覗きこんでくる。
「また淡紅色に変化したね」
「今度は、瞳だけ変えたのね」
……やっぱり、淡紅色なんですか。仕方ないよね。
「瞳と髪の両方ではなく、どちらか片方だけであれば、時刻の鐘が鳴るまでの間はもってくれるんです」
時刻を知らせる鐘は、三時間ごとに鳴ります。
鐘が鳴って、次の鐘が鳴るまでの三時間。それくらいだったら、もってくれるんです。
両方だと二、三分なのに、片方だけだと三時間……。この差は、一体なんなんでしょうね。
なので最近、出かけるときには鬘を被って、瞳には変化の魔法をかけている。
髪は鬘でなんとか隠せますけど、瞳の場合、そうはいきませんからね。
こちらの世界には、カラーコンタクトなんて便利なものは、もちろんない。
それさえあれば、完璧に変装ができたのに。
カラーコンタクトを作るにしても、そこまで高度な知識は持っていない。そもそも、軽々しくそんなことをしてはいけないんです。
「でも、リリアナちゃん。それだけもてば、領主館にこもらず、もっと外へ出かけてもいいんじゃないかしら?」
私はお母様に向かって、静かに首を横に振る。
「時間は限られていますし、いつなにがあるか、わかりません」
魔法の持続時間は三時間くらい。遠出はできないし、今でも出かけるときには、魔法が解けるんじゃないかと、恐怖と戦っています。
なにより体力の消耗が激しいし、精神的にも疲れる。
私はいつの間にか、必要最低限の外出しかしなくなってしまいました。
「お父様、お母様、大丈夫ですよ。私は領主館にいることが苦痛じゃありません。むしろ、私の一番の楽園なんです。だって、ここには大好きな家族がいるから……」
こんな私を受け入れてくれた、優しい家族。
皆と一緒にいられるだけで、私は充分に恵まれている。幸せ者だと思うんです。
そもそも私は、七歳になるまで領主館から出たことがなかった。
お父様におねだりして外に出るようになったけど、親友のミーナちゃんの家に遊びに行ったり、領主町に行ったりするくらいで、外出する機会はもともと少なかった。
だから、そんなに不満はありません。
今思えば、それも私を守るためだったのだとわかります。
私、辛くはありません。幸せですよ。
だからお父様、そんな悲しい顔で私を見ないでください。私は、大丈夫。
「リリアナ、もし髪や瞳の色を完璧に変えることができたらどうする?」
私のダメダメ魔法とは違って、ずっと変化したままでいられるのは最高です。
「それができたら、いいですね」
私は諦めに近い感情を誤魔化すように、曖昧に笑った。
そんな都合のいい話は、そうそう転がっていません。もし転がっていたら、喉から手が出るほど欲しいけどね。
そんな私の様子を見たお父様とお母様は、互いに視線を合わせて頷いた。
「リリアナ、カイウェル王国は知っているね?」
「はい、炎と鍛冶の男神様が加護する国ですよね。鍛冶はもちろん、装飾品の細工なども得意な人が多いと聞きました。シェルフィールド王国からは遠く離れた、最南東の島国です」
フッフッフッ、他の国のことはシリウス先生から習いましたよ。任せてください。
でも、なんでいきなりカイウェル王国の話が出てきたんだろう?
「正解よ、リリアナちゃん。日頃のお勉強がきちんと実になっているようね。偉いわ」
お母様は、ニコニコしながら私の頭を撫でる。
「では、リリアナ。カイウェル王国のプロイス家のことは知っているかい?」
プロイス家?
なんだか聞いたことがあるような、ないような……
モヤモヤするよ。なんだったっけ……あっ、思い出した!
「カイウェル王国のプロイス家! 炎と鍛冶の男神様の血を引くと言われている一族ですね!!」
私の中に美と愛と豊穣の女神様の血が流れていると知ってから、他にも神様の血を引く人がいないかどうか、調べたんだよね。
すると意外なことに、たくさんいたんです。それが本当なのかは、わからないけれど。
有名なのはシェルフィールド王国の王族で、他にもエルフィリア王国のイリス家やローダリア王国のアルマ家、そしてカイウェル王国のプロイス家が神様の血を引く一族だと言われているらしい。
つまりは、私とお仲間です!
「正解だよ、リリアナ。そしてプロイス家の者は、多くの国宝を生み出している」
国宝をたくさん生み出すなんて、凄いです。
つまりプロイス家の人達は、人間国宝の集団みたいなものですね!
私が目を丸くしていると、お父様は言葉を続ける。
「プロイス家には、グエルという男がいる。グエルは二年前に、ある仮面を造ったんだ。その出来映えは、神々が地上に遺したとされる聖遺物のように素晴らしいものだったという」
「仮面?」
一体、そのグエルさんはどんな仮面を造ったんでしょうか?
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