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9巻
9-1
第一章 女神の血を引く娘と偽者令嬢
「ねぇ、リリアナ嬢。こちらのドレスはどうかしら?」
麗しい声とともに差し出されたのは、フリルがひらひらと揺れる桃色のドレス。
「きっと、とてもよく似合うと思うわ!」
私は顔が引きつりそうになるのをこらえつつ、なんとか笑みを浮かべました。
「ええっと、王妃様、その……」
「シャーロット王妃様! 確かにその桃色のドレスはとても素敵ですわ。ですが、リリアナちゃんには紫水晶色のドレスのほうがぴったりだと思います。本来の瞳の色ですもの! そうよね? リリアナちゃん!」
私の言葉を遮り、王妃様をぐいぐいと押しのけるお母様。その手には、紫水晶色のドレスが握られています。
「あの、お母様……」
「言われてみれば紫水晶色のドレスも素敵ね。けれど私が推すこのドレスのほうが、リリアナ嬢の可愛らしい雰囲気に合っていると思うわ! ねっ、リリアナ嬢もそう思わない?」
お母様に続いて王妃様も私の言葉を遮り、桃色のドレスを押しつけてくる。
二人は、さっきからずっとこの調子なんだよね。口を挟む隙もないくらい。
――ここは、王都にあるオリヴィリア邸の一室。今日は、あるイベントで私が着るドレスを選んでいるんです。
当事者である私より、お母様達のほうが熱くなっていますが……それだけ真剣に選んでもらえるのは幸せなことだよね。……多分。
ちなみにお母様とバトルを繰り広げているのは、ここシェルフィールド王国の王妃シャーロット様。
私も最近知ったんだけど、なんと二人は古くから付き合いのある親友同士だったんです!
もちろん、公の場ではこんなに気安く話すことなんてありません。ただ、今日は私的な訪問だから遠慮しなくてもいいみたい。
お母様と王妃様は、楽しそうにあれこれ意見を交わし、ドレスを選んでいたのだけれど――
「まぁ、シャーロット王妃様! そうは言いましても、私はリリアナちゃんの母親。娘に何が一番似合うか、よくわかっています! ねっ、リリアナちゃんも、自分に一番似合うのは紫水晶色のドレスだと思うでしょう?」
「あら、母親だからこそ、近くにいすぎて気づかないこともあるわ。こういうときは、第三者の意見も大事にしなくちゃ。リリアナ嬢には、やっぱり桃色のドレスよ!」
――はじめは、楽しそうだったんですよ。
でも、だんだんヒートアップしていって、今に至るというわけです。
「「ねぇ、似合うのはこちらのドレスよね?」」
声を揃えて問いかけてくる、お母様と王妃様。
うぅ、この事態、どうすればよいものか……
立場を考えると王妃様のドレスを手に取るべきなのかもしれない。けれどその場合、あとでお母様がいじけてしまいそう。
それに、実はどちらのドレスもしっくりこないんだよね。桃色のドレスも紫水晶色のドレスも、すごくすごく素敵なんだけど――
私は思わず頭を抱えて悩んでしまう。
そんな私に、迫力ある笑顔で迫ってくるお母様と王妃様。
とそのとき、部屋の扉が勢いよく開いて、可愛らしい声が響きわたった。
「お母様、お義姉様にはもっと素敵なドレスがありましてよ!」
「そうよ! おとぎ話に出てくるお姫様みたいなドレスなんだから!」
扉のほうに目を向けると、二人の少女が大きな箱を抱えて立っていました。
赤みがかった金髪をツインテールにした、メリルローズ王女殿下。
金髪に、琥珀色と紫水晶色のオッドアイが特徴的な、私の妹レティシア。
そんな二人の後ろには、弟のラディウスと侍女エレンの姿もあります。
ラディは双子の妹レティに視線を向けて、困ったような笑みを浮かべた。
……うん、気持ちはわかるよ。
立派な淑女を目指して邁進中のレティだけれど、その道のりはまだまだ遠そうです。
私とラディのアイコンタクトに気づいていないレティは、メリルローズ様と一緒にとことこと室内に入ってくる。
息を合わせながら大きな箱を運ぶ二人は、まるで人形みたいに愛らしい。うん、目の保養になりますね。
やがてレティとメリルローズ様は、お母様と王妃様を押しのけて私の前にやってきた。そして、手にしていた箱をぐっと持ち上げる。
「重そうな箱ですね。ここまで運ぶのは、大変だったでしょう? 何が入っているんですか?」
そう尋ねると、二人はニヤリと笑った。
うん、何か企みがあるときみたいな笑い方だけど、そんな表情も可愛いです。
「ねぇ、お姉様、早く開けてみて! とっても素敵なものなのよ! ローズちゃんと一緒に、頑張って運んできたの!!」
「レティの言う通り! 早く開けてみてちょうだい!」
二人に急かされて、私は箱に手を伸ばした。
「レティ、メリルローズ王女殿下、ありがとうございます。では、開けてみますね」
「あら、そんなかしこまった呼び方じゃなく、以前みたいにローズと呼んでちょうだい、お義姉様!!」
確かに以前お会いしたときは、畏れ多くも王女様のことを愛称で呼んでいました。うぅ、だって、相手が王女様だと知らなかったんだもの。
真実を知った今は、さすがに愛称で呼べないよ!
私は王女様に曖昧に微笑みつつ、箱の蓋をそっと持ち上げる。すると、中には真っ白なドレスが入っていた。
「ふふ、お姉様! 早く広げてみて!」
「そうよ、早く早く!」
再び二人に促されて、私はドレスに手を伸ばす。
光沢のある布地は、さらさらしていてとても手触りがいい。……軽く触っただけで、すごく高級な生地だとわかります。
もしかして……絹!?
絹は生産量が少ないから、王族や大貴族しか手にできません。それに、目が飛び出るくらい高価なんです。
おそるおそるドレスを広げると、プリンセスラインの綺麗なシルエットが浮かび上がった。
胸元には精緻なレースの刺繍が施されていて、ウエスト部分には後ろで結ぶタイプの大きなリボンが巻かれている。そのリボンの布地はたっぷり取られていて、スカートより長い。
スカート部分は、胸元と同じレース刺繍の施された生地とシルクサテンが用いられた、切り替えのデザイン。シンプルではあるけれど、上品ですごく目を引きます。
「うふふ、素敵でしょ、お姉様! これはね、ヴィオがお姉様のために作ったドレスなのよ!! 特別な結婚式には、特別なドレスを着ないと!!」
「そうよ、お義姉様! 稀代の図案師ヴィオレッタ・リーシェリのドレスなら、間違いないわ!」
目をキラキラさせてそう主張する、レティと王女様。
……うぅ、そうなんです。
お母様と王妃様が選んでいたドレスは、私が自分の結婚式で身に纏うためのものだったんです。
この世界には、もともと結婚式に白いドレスを着るという慣習がない。だから二人は桃色と紫水晶色のドレスをすすめてくれたんだけど、前世の記憶がある私にとって、結婚式の定番といえば、やっぱり白いウェディングドレス。
――そう、私には前世の記憶がある。日本という国で、女子高生として暮らしていた橘ゆかりとしての記憶が。
前世の私は、交通事故で命を落としてしまった。そして、地球と似ているようで異なる世界……魔法が使えて精霊も存在する、異世界セイルレーンに転生したんです。
今世での私の名前は、リリアナ・ラ・オリヴィリア。シェルフィールド王国の辺境にある、オリヴィリア伯爵家の娘として生を受けました。
転生後、しばらくの間は問題が盛りだくさんだった。
言語も文化も違うこの世界では、戸惑うことばかり。それでも、なんとか一つひとつ問題をクリアしてきた。
そうして十六歳を迎えた私は、成人の儀を終えて、大人の仲間入りを果たしました。
その後、いろいろな事情が重なって、シェルフィールド王国の王太子クラウディウス様と婚約したんだけど――
そんな中、今度はセイルレーン教会のお偉い様に、聖女として聖域に迎えたいと言われてしまったんだよね。
聖女になるということは、家族や友人達と離れて、一生聖域で生きていくことを意味します。だから、もちろん断ろうとしたのですが……
セイルレーン教というのは、この世界のすべての国で信仰されている教えです。すなわち、教会の力はそれだけ強大だということ。
結局、断ることができず、やむにやまれず聖女になることにしたんだけど、聖域では教皇様や精霊の姫巫女様とぶつかることも多くて……結局、大騒動を巻き起こして聖女をクビになってしまいました。
もちろん、クビになった聖女など前代未聞。そのため聖域のお偉い様方により、当代の聖女は死んだことにされました。
幸いにも、オリヴィリア伯爵令嬢である私が聖女だということは公にされていませんでした。そのため、私が伯爵令嬢に戻ったところでなんの問題もありません。
そして私は、聖域まで迎えに来てくださったランスロット様と一緒に、シェルフィールド王国に帰ってきたのでした。
……実は聖域にいたとき、私はランスロット様への恋心を自覚してしまったんだよね。
日本人によく似た容姿をしている、ランスロット様。彼はジェラルディ子爵家の次男で、私が困ったとき、事件に巻き込まれたとき、いつも手を差し伸べてくれた。
聖域でも、騒動を起こした私を助けるために全力を尽くしてくれて――
シェルフィールド王国へ向かう馬車の中、私はそんな彼に思いを告げることにしたのだけれど、勢いあまって『結婚してください!!』と言ってしまった。
うぅ、思い出しただけで、顔から火が出そう。恥ずかしい。
私は、好きだと伝えたかっただけなのに……
ただ、ランスロット様も私と同じ気持ちでいてくれたみたい。
私の気持ちを受け止めてくれたんだけど、そのときに衝撃の事実も判明しました。
なんとランスロット様は、シェルフィールド王国の王太子クラウディウス殿下だったんです!
本来の姿だと外を歩くのも一苦労ということで、魔法により仮初の姿に変身していた王太子様。
その気持ちはわかります。
私も、『幻影の仮面』で銀髪と紫水晶色の瞳を隠してきたから。
銀髪に紫水晶色の瞳は、この世界を創り出した創造神様の纏う色。すなわち、神様の色とされているんです。
この組み合わせを持っているとなると、厄介事に巻き込まれること間違いなし。だから、私も本来の姿をずっと隠して生きてきました。
ランスロット様がこの国の王太子様だったことには驚いたけれど、外見の違いは大きな問題じゃないよね。
だって、私はランスロット様の内面を好きになったんだもの。
――こうして思いを伝え合った私達は、無事、シェルフィールド王国に帰還したのでした。
うん、そこまでは良かったんだけど……
ランスロット様――もといクラウディウス様が聖域での出来事を皆に報告してくれたあと、気がつけば、あれよあれよという間に私達の結婚話が進んでしまっていたんだよね。
なりゆきではあったものの、もともと婚約はしていたわけだし、別にそれがおかしいってわけではありません。
ただ正直なところ、私はまだ恋心を自覚したばかりで、気持ちが追いついていないんです。
はじめての恋人に女子らしくときめく時間もなく、お付き合いから結婚に必要な段階をいくつも飛び込えて話が進んでいるしね。
今日だって、自分が結婚式で着るドレスを選んでいるというのに、あまり実感が湧かないというか、ピンとこないというか――
うぅ、こんなことは絶対誰にも言えません。
皆がせっかく私のために動いてくれているんだもの。
私は、ヴィオが作ってくれたドレスをじっと見つめながら、静かに息を吐いた。
一体、どうしたらいいんでしょうか……
するとメリルローズ様が、うんうんと頷きながら口を開いた。
「お義姉様、感嘆のため息ね! わかるわ、本当に素敵なドレスだもの。それに、色も白でなくっちゃ。ねぇ、お母様! お母様の時代と違って、今は結婚式のドレスといえば白と決まっているのよ! そもそもこの流行を生み出した人物こそ、お義姉様と図案師ヴィオレッタだと聞いているもの!!」
どうやら私のため息は、違う意図に取られたみたい。
とはいえ、確かにこのドレスは本当に素敵だと思います。さすがヴィオ!
四年ほど前、私は友人のヴィオと一緒に、ティアさんの結婚式の準備を手伝いました。ちなみにティアさんというのは、侍女エレンのお母様。
そのとき、私の何気ない一言がきっかけで、ドレスの色が白色になったんだよね。
それまでこの世界では、花嫁さんが着るドレスの色は特に決まっていなかったみたい。皆、思い思いの色のドレスを身に纏っていたそうです。
だけどティアさんが白いドレスを着たのをきっかけに、若者達の間に白いウェディングドレスブームが訪れたらしく……
以来、じわじわとそれが広まっていると聞いています。
王妃様は手にしていた桃色のドレスを机に置き、扇を取り出した。そしてそれをパッと広げて笑みを浮かべ、メリルローズ様に向かって言う。
「確かに、その白いドレスはとても素晴らしいわ。……私のことを時代遅れだと言うような物言いは引っかかりますが、不問としましょう。そうね、王族は流行の最先端を行かなくてはならない存在。どこかで見たことのあるようなドレスより、誰も着たことのないような、美しい白のドレスを着るべきね」
そんな王妃様の言葉に、お母様も頷く。
「その通りだわ。本当に、素敵なドレス。これなら、リリアナちゃんにもピッタリよ! ……それにしても、よくヴィオにドレスを作ってもらえたわね? ただでさえ王国一番の人気、そのうえ今はヴィオがシェルフィールド王国にいないでしょう?」
不思議そうに、首を傾げるお母様。
一時期、王国ナンバーワンの座を別の図案師に明け渡していたヴィオですが、ずっと二番手に甘んじている性格ではありません。
再び王国一の図案師に返り咲いて、ヴィオのドレスを着るには予約待ちの状況が続いていたんだけど――フィオス商業王国の国王様に思いを寄せていたヴィオは、彼を追ってシェルフィールド王国を飛び出してしまったんです。
だから、シェルフィールド王国でヴィオのドレスを手に入れるのが難しくなっちゃったんだよね。それなのに、どうしてレティとメリルローズ様がこのドレスを持っているんだろう?
お母様に続いて私も首を傾げると、意外なところから答えがもたらされた。
「お母様、お姉様。このドレスは、図案師ヴィオレッタからリーシェリ商会を通して、私達兄妹に届けられた品でございます」
幼いながらもしっかりした声でそう説明したのは、可愛い弟のラディです。
だけど、私はますますわからなくなってしまった。
どうしてレティとラディのもとに、ヴィオからドレスが届くんだろう?
すると私の様子を見兼ねたのか、エレンが控えめに声を上げた。
「僭越ながら、私から説明させていただきますね」
私は王妃様とお母様にちらりと視線を送る。そして二人が頷いたのを確認してから、エレンに向かって頷いた。
エレンは懐から一通の封筒を取り出し、便箋を広げる。
「こちらは、ドレスに添えられていたお手紙です」
そう前置きをして、エレンは手紙を読みはじめました。
オリヴィリア伯爵令嬢リリアナ様。
いいえ、もうリリアナ王太子妃とお呼びしたほうがいいのでしょうか?
――と、そんな冗談は置いといて。
ご結婚式では、もちろん私が作ったドレスを身に纏うに決まっていますよね?
シェルフィールド王国を離れるとき、私が言った言葉を覚えていますか?
フィオス商業王国に行っても、リリアナ様のドレスは作り続けると誓った私です。私以外の人間が作ったドレスを着ることなど、認めませんからね。
なにせ、リリアナ様と王太子殿下のご結婚式。つまりは多くのお金が動き、かなりの経済効果があるってことです。
私の作ったドレスをリリアナ様が着たとなれば、私の商売もさらなる発展を遂げることでしょう。だからこそ、必ずや私の作ったドレスを着ていただきます。
このドレスは、リリアナ様の弟妹であるラディウス様とレティシア様に託します。可愛い弟妹達にこのドレスを着てほしいと頼まれれば、リリアナ様はそれを拒むことなどできないでしょうから。
――いろいろと書きましたが、このドレスはリリアナ様のことを思って作った、私の最高傑作でもあります。どんなドレスにも劣ることはないでしょう。
寸法もリリアナ様にぴったり合わせています。成人の儀や王城でのお茶会から、太っていなければの話ですが……
リリアナ様のご結婚式には、必ずシェルフィールド王国に戻り、晴れ姿を拝見させていただきたいと思っています。
「――リーシェリ商会、ヴィオレッタ・リーシェリより」とエレンは結び、便箋を封筒に仕舞い込んで一礼する。
うん、とってもヴィオらしい手紙ですね。
自分の商売のさらなる発展を狙っているところとか、ラディとレティをうまく利用するところとか。ただ、『太っていなければ』という一言は余計です。
ふふ、でもなんだかんだ言いながら、ヴィオが私のためにドレスを作ってくれたことがキチンと伝わってきました。
照れ屋さんですね、ヴィオは。
思わずニマニマしていると、王妃様は優しく微笑んだ。
「まぁ、本当に仲がよろしいのね。図案師ヴィオレッタは、今ではフィオス商業王国の王妃の座に最も近い女性と目されています。彼女が王妃になれば、シェルフィールド王国とフィオス商業王国の関係は、より友好的なものとなるでしょう。結婚式で彼女のドレスを着ることは、その親密さを多くの人々に知らしめることにもなる。……策士ね。リリアナ嬢、友人としても、シェルフィールド王国王太子妃としても、そのドレスを着るのが得策だわ。私の選んだ桃色のドレスには、違う機会に袖を通してもらいましょうか」
王妃様は、清々しい笑顔で言い切りました。それに続くように、お母様も手にしていた紫水晶色のドレスを引っ込めます。
「ヴィオのこの素晴らしいドレスには、どんなドレスも敵わないわね。誰が見ても納得だわ。リリアナちゃんもこのドレスがいいのでしょう?」
お母様の問いかけに、私はゆっくりと頷く。
「王妃様とお母様が私のためにドレスを選んでくださったことは、とても嬉しいです。でも……私自身、一番しっくりときたのはこの白いドレスでした。申し訳ないです……」
手にした白いドレスをそっと撫でながら言うと、王妃様とお母様は笑みを浮かべて首を振った。
「構いません。私達の目から見ても、そのドレス以上にふさわしいものはありませんから。ふふ、それにさすがは商人ね。確かにあなた方の結婚には大きなお金が動きます。それをさらに利用しようとするとは……したたかだわ」
王妃様はそこで言葉を切り、物憂げなため息をつく。
「……一方で、王族の結婚はかなり面倒なのよね。日取りを決めるだけでも議会の承認が必要だし……もう何度、議題に上がったことか」
「お母様、結婚式の日取りはまだ決まっていないのですか? お兄様はすぐにでも結婚したがっていたから、結婚式も早々に行われるのだと思っていました」
不思議そうな表情を浮かべて、小首を傾げるメリルローズ様。
すると、王妃様がにっこりと笑って答えました。
「うふふ、結婚式の準備というのは時間がかかるものなのよ。だから、そう簡単に行えるものじゃないの。特に王族の結婚式となると、国中の人が王都にやってくるわ。人が集まれば、それだけお金も動くでしょう? 宿屋や飲食店も繁盛するし、結婚式の記念品やお土産の品も飛ぶように売れるもの。私達の結婚式でもそうだったわ。随分と国庫が潤ったものよ。ただ、その経済効果のためには、王族だけでなく王都の民達にも準備期間が必要なの。それに、国内だけでなく国外からもお客様がいらっしゃるから、その旅程も充分に考慮しなければいけないわ」
「なるほど……ではお兄様がいくら結婚式を早めようとしても、一人でそれを決めるのは難しいのですね。だって、国をあげての催しですもの」
「さすがは我が娘。また一つ賢くなったようね。王族の結婚式の日取りを決めるには、議会の承認が必要なのよ。王太子の一存では決められないの」
王妃様は、メリルローズ様の頭を撫でながら言う。
うん……私としても、結婚式までもっと時間が欲しいです。だって、まだ心の準備ができていないもの。
むしろ、日取りを決めるための議会が少しでも長引いてくれたほうが助かります。
内心そんなことを考えていると、お母様がクスクス笑いながら口を開く。
「うふふ、リリアナちゃんも結婚式の日取りが気になって仕方ないのよね。よくルイスに、日取りは決まったのかって詰め寄っているわ。若いっていいわね」
うっ……お母様、それは違います。
お父様に結婚式の日取りについて確認しているのは、決して結婚が待ちきれないからではありません。
むしろ覚悟が決まらないからこそ、少しでも遅ければなぁ、と思いつつ問いかけているんです。
誤魔化すように、曖昧に微笑んだ私だけれど――
「まぁ、リリアナ嬢もクラウと同じ気持ちなのね。本当に、若いっていいわね! でも、安心なさい。そのヤキモキも明日になれば解消します! 明日の議会で、結婚式の日取りが決まるでしょうから!!」
「えっ!?」
王妃様の意外な言葉に、思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。
正式な日取りを決めるためには、もっと時間がかかるものだと思っていました。
そのための議会が少しでも長引けば……なんて願っていたのに、明日決まっちゃうんですか!?
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