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前日譚
ある青年の思い出 弍
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父の葬儀の日から、いくつかの年月が過ぎて、僕は14歳になっていた。
その頃になるとより物静かだった父に似てきたと言われる事も多くなる。
その言葉を意識して、髪の少し長かった父に似せようかと、髪を伸ばした事もあったが……。
父譲りの白銀の髪であったが、赤茶色の瞳の目の目尻が少し下がっているところなどのパーツ1つ1つが母により、よく似ている様に思えた。
その頃には、お手伝いに来てくれていた綾は嫁に行き、僕は綾の代わりには物足りないだろうが……本家に居るいろいろな子供達の兄、もしくは世話係としてだいぶ本家の共同生活に溶け込んでいた。
一人で家に居るよりはいいだろうという母の考えなのか、僕はあいもあ変わらず本家に入り浸る事を咎めはしなかった。
しかし母もそれに任せて仕事にかける時間は、以前と変わらなくなるまでになっていた。しかしそれは間違っている事だったかも知れない。父が望んだ様に少なくとも母がもとのように笑えるまでは、一緒にいるべきだった。
そうすれば母の心の支えにはなれたかもしれない、しかし僕は子どもでたぶん母と同じ様に助けを必要としていた。
ある日、母は仕事場で貰ったという紙袋を、僕の前に取り出した。
「母さん、今日も遅いの?」
「そうなの……湊ごめんね、これ本家の方に渡してね」
「凄い量の羊羹だね……」
「そう? 本家ならすぐになくなるでしょう?」
「じゃ……、時間だから行くけど、朝ご飯と勉強はちゃんとしてね――あと」
「大丈夫! 大丈夫! いってらっしゃい」
「ありがとう、いってきます」
そんなせわしない毎日の中で、本家の製薬部門の事業を独立させて、母がその経営を任されるだろうという話を、本家で話される噂話で聞いた。製薬部門を任される母にはやはり、母の父親に似ていて、勤勉で商才があると言う話と祖父の関わる"ある問題"を回避する為に、母が任されたと言う話。
そのどちらかが正解なのか、それともその両方の理由なのかわからないまま時間は過ぎる。
本家での生活は、大人の噂話、仕事の話、そうしたギスギスする部分もあったが。子供達だけだとゆっくりとした時間が流れる。本家の計らいで招いた、家庭教師に年長組の僕達は勉強を教えて貰っていたりもしていた。
その間に小さい子供達は、お絵かきをしたり、時には昼寝をする。
時々、手土産を持って来た老人が、怖い話を聞かせてくれる。その中で一番よく聞く話が、 【魔獣王サーグラの伝説】であり、耳にタコが出来る程聞いたが、老人も大人も時には若い男女もこの話をはなす
「まぁた、その話? 」
「あぁ、魔獣王サーグラの伝説の話だ」
「飽きてしまったなら、すべて覚えるまで聞けばいいじゃないか? 」
「無理――!」
「じゃ、御園には飴はあげない」
「えぇー!」
「じゃ――聞いくれ! 我らのご先祖様の話を」
「ある日、1つの卵が天より落ち、そこから魔獣王サーグラが産まれ」
「サーグラが駆けた後には、植物が生い茂り多くの魔物が生まれ落ちる」
「全ての地を駆けた時、サーグラの前に月から卵が落ちて来る」
「その卵からは輝く様な美しさを持つ、妃ヘルドーラが誕生した」
「ほら、終わったぞ御園覚えたか? 」
「うーんだいたい? 」
「だいたいか……まぁいい」
「魔界で今、名の知れた者は二人の血より濃く、受け継ぐ者と言われている」
「今の魔王のヤーグ様もその一人だ」
「で」
そこで、大人はみんなの顔を見回す。
「白銀家の本家直系のご先祖様は、妃ヘルドーラと同じく月から落ちてきた人物と言われている」
「ご先祖様達は、素晴らしい才能と珍しい白銀の姿で、狐達をまとめあげ利益をうんだ。」
「そしてその血統を残す様に、尽力をした」
「と言うわけだから、ここではみんないい子で、ちゃんと大人の言う事を聞くんだぞ」
「特にみーそのー」
おじさんはおちゃらけたポーズで、御園を指さす。
「聞いてるし――」
「そうだな、御園は最近、頑張ってるってみんな言ってた」
「うんうん」と、フィーナが言って機嫌を良くした御園が、飴を配るの手伝って無事に今回も終わる。
でも、そのたわいもない昔話の内容が、本家で集まるもの達のすべてだったかもしれない。優秀なご先祖の血をひく見た目の者に集まる者達、昔話の先祖に恥じない様に言い聞かされ育つ指導者。
そこに異物の血、異物の価値観が混じった時……。
どうなってしまうのか……。
その子供がもし本家のより濃い血筋を引く、二人の内一人なら?
そんな不安定な荷馬車は、何年も前にもう出発してしまっていた。
狐の中で力を持っていた普通の狐の祖父が、始めは結束力の固い白銀狐の中に居る母を不憫に思って始めた事かもしれない……。
しかし本家当主やその周りの人々が危ぶむほどに、祖父は白銀狐の一部の血縁による経営を不満に思う人々を取り込んで祖父の力は大きなものなってしまっていたのだろう。その為、伯父は母に製薬会社の事業を任せたが……。
それが仇となり、本家を大事と思う者と母の様に才のある者がこれから頭角を現すべきと言う者とで、白銀狐の一族は2つに別れてしまった。
そして……祖父か母、またはふたりに近しい誰かの思惑によって、荷馬車は崩壊してしまうのであった。
つづく
その頃になるとより物静かだった父に似てきたと言われる事も多くなる。
その言葉を意識して、髪の少し長かった父に似せようかと、髪を伸ばした事もあったが……。
父譲りの白銀の髪であったが、赤茶色の瞳の目の目尻が少し下がっているところなどのパーツ1つ1つが母により、よく似ている様に思えた。
その頃には、お手伝いに来てくれていた綾は嫁に行き、僕は綾の代わりには物足りないだろうが……本家に居るいろいろな子供達の兄、もしくは世話係としてだいぶ本家の共同生活に溶け込んでいた。
一人で家に居るよりはいいだろうという母の考えなのか、僕はあいもあ変わらず本家に入り浸る事を咎めはしなかった。
しかし母もそれに任せて仕事にかける時間は、以前と変わらなくなるまでになっていた。しかしそれは間違っている事だったかも知れない。父が望んだ様に少なくとも母がもとのように笑えるまでは、一緒にいるべきだった。
そうすれば母の心の支えにはなれたかもしれない、しかし僕は子どもでたぶん母と同じ様に助けを必要としていた。
ある日、母は仕事場で貰ったという紙袋を、僕の前に取り出した。
「母さん、今日も遅いの?」
「そうなの……湊ごめんね、これ本家の方に渡してね」
「凄い量の羊羹だね……」
「そう? 本家ならすぐになくなるでしょう?」
「じゃ……、時間だから行くけど、朝ご飯と勉強はちゃんとしてね――あと」
「大丈夫! 大丈夫! いってらっしゃい」
「ありがとう、いってきます」
そんなせわしない毎日の中で、本家の製薬部門の事業を独立させて、母がその経営を任されるだろうという話を、本家で話される噂話で聞いた。製薬部門を任される母にはやはり、母の父親に似ていて、勤勉で商才があると言う話と祖父の関わる"ある問題"を回避する為に、母が任されたと言う話。
そのどちらかが正解なのか、それともその両方の理由なのかわからないまま時間は過ぎる。
本家での生活は、大人の噂話、仕事の話、そうしたギスギスする部分もあったが。子供達だけだとゆっくりとした時間が流れる。本家の計らいで招いた、家庭教師に年長組の僕達は勉強を教えて貰っていたりもしていた。
その間に小さい子供達は、お絵かきをしたり、時には昼寝をする。
時々、手土産を持って来た老人が、怖い話を聞かせてくれる。その中で一番よく聞く話が、 【魔獣王サーグラの伝説】であり、耳にタコが出来る程聞いたが、老人も大人も時には若い男女もこの話をはなす
「まぁた、その話? 」
「あぁ、魔獣王サーグラの伝説の話だ」
「飽きてしまったなら、すべて覚えるまで聞けばいいじゃないか? 」
「無理――!」
「じゃ、御園には飴はあげない」
「えぇー!」
「じゃ――聞いくれ! 我らのご先祖様の話を」
「ある日、1つの卵が天より落ち、そこから魔獣王サーグラが産まれ」
「サーグラが駆けた後には、植物が生い茂り多くの魔物が生まれ落ちる」
「全ての地を駆けた時、サーグラの前に月から卵が落ちて来る」
「その卵からは輝く様な美しさを持つ、妃ヘルドーラが誕生した」
「ほら、終わったぞ御園覚えたか? 」
「うーんだいたい? 」
「だいたいか……まぁいい」
「魔界で今、名の知れた者は二人の血より濃く、受け継ぐ者と言われている」
「今の魔王のヤーグ様もその一人だ」
「で」
そこで、大人はみんなの顔を見回す。
「白銀家の本家直系のご先祖様は、妃ヘルドーラと同じく月から落ちてきた人物と言われている」
「ご先祖様達は、素晴らしい才能と珍しい白銀の姿で、狐達をまとめあげ利益をうんだ。」
「そしてその血統を残す様に、尽力をした」
「と言うわけだから、ここではみんないい子で、ちゃんと大人の言う事を聞くんだぞ」
「特にみーそのー」
おじさんはおちゃらけたポーズで、御園を指さす。
「聞いてるし――」
「そうだな、御園は最近、頑張ってるってみんな言ってた」
「うんうん」と、フィーナが言って機嫌を良くした御園が、飴を配るの手伝って無事に今回も終わる。
でも、そのたわいもない昔話の内容が、本家で集まるもの達のすべてだったかもしれない。優秀なご先祖の血をひく見た目の者に集まる者達、昔話の先祖に恥じない様に言い聞かされ育つ指導者。
そこに異物の血、異物の価値観が混じった時……。
どうなってしまうのか……。
その子供がもし本家のより濃い血筋を引く、二人の内一人なら?
そんな不安定な荷馬車は、何年も前にもう出発してしまっていた。
狐の中で力を持っていた普通の狐の祖父が、始めは結束力の固い白銀狐の中に居る母を不憫に思って始めた事かもしれない……。
しかし本家当主やその周りの人々が危ぶむほどに、祖父は白銀狐の一部の血縁による経営を不満に思う人々を取り込んで祖父の力は大きなものなってしまっていたのだろう。その為、伯父は母に製薬会社の事業を任せたが……。
それが仇となり、本家を大事と思う者と母の様に才のある者がこれから頭角を現すべきと言う者とで、白銀狐の一族は2つに別れてしまった。
そして……祖父か母、またはふたりに近しい誰かの思惑によって、荷馬車は崩壊してしまうのであった。
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