魔王がやって来たので

もち雪

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未来へ向けて

転移(てんい)

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 彼の印象は、ぱっと見、派手と言う印象を受けた。

 耳に、沢山のピアス、それでも彼の印象をダークサイド側と言うより、明るく社交的に見える。

 いつでも、笑いを浮かべているかのような口角の上がった薄い唇のせいかもしれいない。まぎれもなく、その男は、大学で、フィーナと僕の様子をみていたリアクションのうるさい男だった。僕の様子がおかしいのを感じとった魔王が、僕の視線の先をたどって後ろを振り返る。

「魔物の頂点に立つ魔王が、そんな顔をするものじゃないと思うなぁ」

「今の君の顔を、見て君の大切な部下達が心配すると思うよ」

「そだねぇ……例えば……彼とか?」
 魔王が、椅子を引いて立ち上がり、僕と彼、アポストロフィの間をさえぎる様に立つ。
 
「貴方に対しての警戒は、するに越したことはない」

「どうしてそんな事を言うのかな? 僕は提示して、いつも結局は、君はそれを受け取っている」

「僕が示さなければ歩けなかった道は、1つじゃないはず」

「例えば、彼は……」

「辞めろ!!」
 魔王の声が耳に痛いほど響く。
 
「辞めてくれ頼む……」

 そして魔王は静かに懇願するのだった。僕は言葉を発する事は出来なかった。張り詰めらた糸の上に居る存在の僕と魔王。僕が発した不用意な一言で、その糸はあけっなく切れて……、底の見えない深い穴の中へ落ちてしまうのだろう。

「君は、そんのに大切なの? この子達が」

「君をただの魔物の王と、魔王であるとした――」

 
 僕は、目の前の様子が見ていられなくて……。
 
「すっ、すみません――異世界へ行きたいのですが、何の見返りも無に引き受けてくれませんか?」

「好きな子を助けたいんです!」
 と、手を挙げて宣言していた。ぼくの姿は、滑稽こっけいだった。

 
「君達は、なんでいつもそうなのくふぅぅ」
 
 謎の人物アポストロフィは、笑いをこらえていたが……やかて、手を叩いて爆笑しだした。魔王は、お前は……と言う顔で、僕と彼を見比べて、小さくため息をはく。

「狐の一族はいつでも恋愛、れんあい、してると思ってたけど」

「次元を超えて、恋愛した相手も、恋愛しか頭にないとか、どうなのそれは?」

「幸せになりますが? 」

「そうか、それは見てみたいものだね」
 彼は、さも面白いおもちゃをみつけたかの様に笑う。

「そうだ! ぼくからを祝福あげよう」
 僕はとっさにキッチンのお菓子の詰め合わせボックスに、手を伸ばし限定商品のお菓子掴む。

「あの――これ、限定商品のお菓子です! 美味しいらしいので僕から!」
 その後、彼にそのお菓子がどんなに素晴らしいか感謝しているかの説明をした。

 魔王がそれくらいでいいだろうって言うまで、言い倒した。アポストロフィは、祝福の話をすれば……僕がふたたび違うものを持ち出す事を感じ取ったのか……彼は僕を見ていた。

 彼の目は色彩を変えて変化する……。
 
「目的の場所は、召喚の間でいい?」
 少し吐き捨てる様に彼は言う。

「はい、お願いします」

「ハヤト、我は人間界へはいかぬ」

「魔界へ入ったら使いを差し向けるから頑張る様に」

「はい、フィーナの事よろしくお願いいたします」

「お前に言われるまでもない」

「はい」
 と、アポストロフィが言った。なぜ彼が?と思うと同時に、辺りは厳かな室内だった事に気付いた。

   つづく
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