魔王がやって来たので

もち雪

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攻略!謎の塔

階層攻略 その11 悲しみにくれる住人

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 18階層で、僕らはある女性に出会う。

 その女性の階層は、普通の一般的な住宅と同じ作りをしていた。ミノタウロスはまだ、壁をもちいて謎の塔らしさを残していた。

 しかしその女性は安心させて襲う系らしく、そのための階層作りに全力を出していた。

 しかしそういう事をこちらが気づいたと、相手に知られると攻略が難しくなるため、知らない演技に全力を注ぐ。

 彼女は、机に座り遅めの紅茶の時間を満喫していた。

「こんにちは」

 最悪、人に姿を似せた魔物である事も、想定して行けと仲間にも言われ、警戒しつつ行く。

 いくらかフレンドリーさを出し、彼女の座る机の前に立つ僕。

「どうぞ、座って」
 彼女はそう言うので、僕は素直に座った。

「僕たちは、上の階に行くけど問題ないですか?」

「どうぞ、どうぞ、社会勉強になると思う」
 
 そう言われて、僕は腕を使い大きくマルを出す。

 そうすると、ぬいぬいとウンディーネという好奇心高めのメンバーが僕の横に座る。

「こちらの主様の2番目の家来のウンディーネです」
「ホイルトツェリオ城のギルド所属のぬいぬいだ。よろしく」
「あっ、草薙ハヤトですよろしくお願いします」

「あっ、ぬいぬい君先輩!」
 
 彼女は、ぬいぬいの親しい間柄なのかと、彼を見ると、彼は鞄の中の何かを彼女に投げ付けた。

 そして彼女の紅茶セットを、ヒョイっと手に持った。

 彼女に投げられた、紐はどんどん彼女に巻きつき、とうとう何もない天井に彼女を縛りあげて吊るしてしまう。

 彼女はショートパンツだったので、倫理的に最悪とまではいってないだろう眺めにはなった。
 
「あっ、嘘、嘘これはノーカンで!! ごめんなさいぬいぬい先輩様――!」

「ぬいぬい!?」

「ハヤト、こいつは魔物かもしれない。だから縛ったまでだ心配するな」
 
 そう言った。顔は、いたずらっ子まる出しの顔だった。

「確かにホイルトツェリオ城の魔法学校の後輩には、俺をそう呼ぶ者も居たが、今度から紐で縛りあげるからなって言って置いたからもう、そう呼ぶ者は居ないはず、だからどうするかな?」

 ってと彼が言った時、彼女を吊るしあげていたロープの紐が、彼女の手首辺りで切れ、彼女は綺麗に縛られたまた机の真ん中に飛び乗った。

 自分で切ってしまったのだろう。ロープの残骸がバラバラと机の上に落ちている。

「私は、ラビだよ! パーティ『可愛いもの倶楽部』の盗賊だよ。そしてぬいぬいパイセンの可愛い後輩でーす」

 と、自分の机に土足に乗ってポーズを決める。そして机から降りて、部屋の奥へ入って行き、持って来た台拭きで机の上を念入りに拭いた。

「で、なんでこんな所に居るんだ?」

「聞いて下さい! パイセンと友達の皆さん! パーティーで、泊まりがけのギルドクエストへ3日ほど行って帰って来たら、家賃3ヶ月払い忘れていて、住んでたアパートを追い出されてここで住んでます。泊まりがけでじゃなかったら、いつもの通り大家さんに泣きついて、1ヶ月分払って許して貰えたのにねー」

 そう言って椅子に斜めに座り、首をかしげて僕らに同意を求めてくる。うちにはもう定員オーバーな、お馬鹿可愛いキャラだった……。

「お前の仲間はどうした?」
「なんならうちのパーティーに、ヒーラーがいますよ。怪我してたりしてませんか?」

 どうやら日銭を稼ぎここへ来たらしが、何故、ここでくつろぐ? と、突っ込み担当の僕より先に、常識的なメンバーが彼女の心配をしそう言うと、彼女は少し難しい顔をした。
 
「そこの窓から塔から脱出が出来るので、みんな帰ちゃいました。脱出は簡単なんです。でも、そこに落とし穴があって、こうやって何かアイテムを置いておくと、侵入も案外簡単になってしまうのです」

 彼女は机の上にぬいぬいが戻した、紅茶のカップを窓辺りに置いて、実践してみせた。しかし彼女の語り口が、塔の住人側である。

「でも、この塔の管理人もそれは承知の上で、こうやって窓に置かれたアイテムを落としてしまうらしいのです……」

 何故か彼女は、僕らに紅茶のカップを窓から落として、実践して見せてくれる。その行動に疑問しかないが、それは彼女だから、といった答えしか出てこなかった。

「ですから、ここに一人残ればその心配は、無くなります。…………あれ? 私の紅茶カップ?? あれ…………あっ――――――――!?」

 彼女は窓から、落ちそうなほど身を乗り出したので慌てて、僕たちで彼女を中へと引き戻した。

「私は家がない事とグスン、身を隠すのが得意なので、ヒックヒックここに残されました。しばらくは7階のミノちゃんの部屋にグスンお世話になった後、ここまで上がってこれました。エ――ン」

 彼女は話し終えて、うつぶして泣いてしまっているので、女性の皆さんで彼女を慰める。

「どうしますか? ぬいぬい」

「まぁ、ラビはほっとくとして、上層階へ行くしかないのだが、疑問なのはここの管理者が彼女の存在について気づかない事だ。彼女は霧を食って無を排出して居るわけでないし、この机まであって管理者を出し抜けるとは思わん」

「それについては言えません! せっかくミノちゃん同様にキッチンや水洗トイレの暗号を教えて貰ったのに、それまで私から奪うつもりなのですか?! せっかくミノちゃんとお揃いの家具まで貰ったのに――――――」

 彼女はそれ以上何もいいません、とばかり静かになった。しかしもう彼女の口からすべて聞いたも同然だった。そしてとんでもない濡れぎぬだった。

 もうここに居ても彼女と僕たちのみぞは、深まりばかりだろうと判断し、買い替え用に買ったばかりの、僕の魔法がかかり割れないコップを「良かったら、これ使ってください」と、差し出してきた。

 何度かの通りすがりの戦闘で、芸術的になってしまった僕のコップはまた、買い替えればいいのだ。新しい何十倍も割れないし、彼女には丁度いいだろう。

 度重なる戦闘の為だけではない、疲れに包まれながら僕たちは最後の中ボスの部屋への階段を登るのだった……。

 続く
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