魔王がやって来たので

もち雪

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さよなら海の見える街

出発の時、迫る

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 冬の海から帰って来ると、ギルドへと最後の塔の経過報告の書類を提出するため、朝から出ていたルイスが先に帰りついていた。

 そしてこの家のキッチンで、ワイシャツに、ベスト、そしてその上にエプロンを身につけてキッチン中を磨きあげている。

 買った食品を食品棚に、入れに来ていた僕は、彼のその姿を見て驚いた。
 
「ただいま、ルイス。今日はどうかした? 出かける前のうちから、十分にきれいだったようだけど」

 そんな僕の問いかけに彼は、気づき、持っていた布巾を小さく折り曲げると、キッチンの上に置く。

 今日は珍しく彼は、キッチンの台の上にそっと左手を添える様に置いて立ち、僕を見つめた。
 
「ギルドより勇者パーティーへ求められていた依頼の終了の報告を受けたので、出発に備えて一度念入りに掃除をしてみました」
 
「えっ!?受付のヴァリスさんの話しでは、それこそまだまだ依頼はとめどなくわいて出て来るような感じで聞いてはいたけど??」

 そんな僕の驚きを受け流し、彼はたんたんと話す。

「ですが、新た存在として、塔の住人が大きく動いた様です」

「管理人のキロガルさんが? 彼は職人的なイメージだからもっとギルドと離れた距離感で、塔を維持じすると思ってた……」

「けれど、あの場所にわざわざ塔をつくったことには目論みがあり、それがギルド運営の補佐という仕事で活かされているようです。具体的にいいますと、ハヤトの腹をかっさばきかけたあのガラクタは、今度は無人で広範囲の魔物の殲滅せんめつに一役買う事なりそうです」

「とうとうこの世界にも科学が台頭たいとうしてきたのか……」

 僕は自分の元いた世界を思い出して、ふとつぶやいた。

「それはどうですかね?……私が思うにはですが、自宅のドアを開けるのに、押しボタンを式のドアを配置する人間は居ません。ボタンを取り付けるだけの労力をかけるなら、ドアノブを取り付けて、自分で開けた方が早い。今回はキロガル氏の目論みや、利点がなければやはりまだまだ科学は、私たちに手の出せない品物様です」

「それはそうか……。魔法は便利だし、持たざる者の反発もまだない様だし……」

「ところで、科学と魔法の未来を考える事も大事ですが、どうしますか? 出発の予定は?」

 ルイスは重要事項を確認する様に言うが、僕の答えはもちろん決まっている。

「今すぐにでも、みんなの準備が出来しだいに出発したい気持ちはあります。だから晩御飯の時にその相談と、改めて必要な道具についてまとめよう」

「わかりました」

 そうして出発についてはルイスの大切な書類置き場の、脳内にしまわれたようで、ふたたび彼はキッチンの掃除を始めた。

 僕の仕事と言えば今、この屋敷にいる者に出発についてと、その際の必要な準備のお願いをしてまわる事だった。

 そんな僕が廊下にでると、シルエットが廊下に居た。

 彼女には必要事項の連絡をする際には必ず、原文の話しを聞いている事が多い。
 
「もう、この街からでるの?」

「そうです」と僕は答える。

「あなたどう?、魔王様に近づけるために何かが、変わった? 今のままでは彼に近づけない。彼の庇護のもとで暮らすただの人間になるわよ?」

「僕は普通の人間です」

「知ってる。弱い、人間だから出来る事もあるって、話しも何度も聞いたわ。いろいろな人間からね。じゃあ、あなたは実際、何が出来る? 魔界は実力主義だから……そのままじゃあ居られないわよ? って事」

「僕はまだまだですか?」

 そう言うと、明らかシルエットはご機嫌ななめになった。

「今日のお節介はこれまでよ」 

 そう言って彼女は、身をひるがして消えた。

 そして僕はしばらくその場にたたずんでいた。 

 彼女のそうであるからの忠告を、僕は怠惰に自分を肯定してほしいって事で台無しにしてしまった……。

    つづく
 
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