ファンタジー小説集

もち雪

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カテゴリー『家族』

憧れの生活

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 夜の森は、様々な鳥の声、動物の足音、木々の起こす小さな音楽が静かにハーモニーを奏でる。
 
 森の少し奥にきれいな蓮の花が、きれいに咲き誇る湖の片隅で、僕は立っている。

 安土あずちルク、今年、小学4年生……だったかな? この身長の高さ、大好きだったキャラの服。
 僕は、病院で、生活して……こんなきれいな湖に来たいと思ってはいたけど。
 
 うーんとにかく僕はここ一人で立っているわけで……。

「お母さん……」
 その声はすぐに湖に棲むカエルの声にかき消された。
 
(……やはり……お母さんの幽霊も居ないよな?)
 
(いて欲しいけど……やはり……いて欲しくない……たぶん、幽霊のぼく)

「幽霊ですよ……」
 
 蓮の花が咲いた湖は月明かりにてらされて……凄く幻想的で、カエルの声は湖を神秘的に演出する……。
 そしてその傍らに立つ幽霊の僕……。

「これは絶対にばえる!」

「ばえるのに……」

「何故、誰も来てくれないんだ……」
 
「キャンプブームはどこへ行ったんだ!?」

 キャンプ客について行って町に、行く計画も失敗に終わった……。
 ぼくは、うずくまり座る。

「一人で、何て居たくないのに……」
 お母さん、お父さん、明美が、幸せそうに笑ってるのが見られたら、ぼくはきっと満足出来ると思うんだ……。
 それは、とっても寂しい事だけど……。

「あぁ……僕は幽霊になっても、普通の幽霊にはなれないのか……」

「今すぐ、みんなのもとに行ける能力が欲しい……」

      ◇◆◇◆◇

 とある病院の小児病室。
 
「おはようルク 今日の調子どう?」
 お母さんは毎日の面会時間の午前中の時間に来てくれる。
 
「おはようお母さん、 今日の調子はまあまあかな?」
 
「今日も明美は学校かぁ」

「今日はルクも病院で授業を受けるんでしょ? 頑張らないとね」

「うんそうだね……お母さん僕は……」
(いつ明美と同じ学校に行けるの?……)
 
 その言葉を飲みこみ、お母さんを見ると……。
 
 いつも少し悲しげな目で僕を見つめるお母さんと目が合う……だけど……。

「大丈夫!大丈夫よ」そう言っていつも僕を優しく抱きしめてくれていたお母さん。

      ◇◆◇◆◇

 
「……」

「でも……一人で、ここにいるって事はそう言う事だよね。」

「やっぱり」

「なんか悲しくなって来た」

「ここならいいよね?」
 (やっぱり、やめよう)

「辛くないし――会いに行けばいいし――無敵だし! もう無敵なはず! ……はずだよね?」
 少し弱気になって、最後少し小さな声になる。
 
 その時、ガサッガサッと草をかき分ける音が……。
 (もしかして誰かの足音!? 熊だったら? ぼく本当に無敵!?)

 思わず目の木を軽く、叩いてみる。
 腕は、気を貫通し僕は危うく転びかける。

「おっっとと」
 人間、不思議なもので自分に、危険がないとわかると断然勇気が湧いてくる。
 
「これはぼくの初めての大事件の予感!?」
 僕は足音のする方に走って向かった!


 僕は移動した先に、冬服の制服を着た女子高生を見つけた。

 半袖のぼくと冬服の女子高生、季節は……。
 今、冬? でも、蛙は、冬にもいるの? 

「あっ! 蓮の花の咲くのは7月くらい」

 じゃー幽霊仲間なのかな?
 気づけばおねぇさんの隣には、狼のような大きな犬がいる。
 1人と1匹は何かをしきりに探しているようだ。
 
「何をじっーとこっちを見ているんだ?」
 長い髪の、少し怖い感じのきれいなおねえさんが月あかりの中、ぼくを見ていた。

 「やっばり幽霊!? もしかして霊感持ち女子高生!?」
 
「ヨシ!埋めよう!」
 後ろの声をする方を振り返ると、狼ぽい犬しかいない。

「埋めないで」
 おねぇさんは、狼ぽい犬を少し注意する。
 
「ロボは何でも埋めよとする」
 ロボと言われた狼の様な犬は僕の後ろに隠れた。
 近くで、見るとやっぱり狼で少し触ってみると、暖かく少し硬い毛の感じがした。
 
 毛の感触を楽しんだ後、前を見るとおねえさんがぼくの目の前にいた。
「お姉さん達は誰? 幽霊!霊能者?」狼をちゃんと後ろに隠して僕は聞いてみた。

 「私は殺し屋A、あっちは相棒のロボよ」
 
「また適当な事を言う」
 ロボはあいかわらず僕の後ろに隠れているが、抗議だけ言う事にしている様だ。
 ぼく体の横から少し出た鼻がかわいいので、また撫でたら、目をほそめている。
 
 ロボが僕の横に座り、ぼくは撫でるのにも夢中になりながら……。
「で、殺し屋Aさんはここへ、何しに来たの?」
 
「貴方を迎えに来たのよ」
 僕の手が止まるとロボが手を舐める。

 「僕を迎えに!?」

「迎えに来るのも殺し屋の仕事なの?」

「そうよ」

「なるほど…… 普通の殺し屋も奥が深いんだね……」

「ついて来て」
 そうおねえさんが言うとロボは、おねえさんの横に付きぼくを誘う。
 
 何処をどう歩いたかはわからない、ぼくが止まれば二人は止まる。

 でも、絶対に振り向かない……。

 思わず僕が、振り向ことした時には、おねえさんは必ず――。
「振り向かないで」と、低い声で言い。

 ロボは懸命に吠えるのでぼくは、前を進むしかなかった。
 
 ぼくらは、ぼくの入院していた病院の前に居て。
 今となっては、どんな道を、どんな風に歩いたのかもわからない。

「ロボはここに居て」

「たまに見える人がいるからしょうがないね、ここはそう言う場所だしね」
 
「中に入るの?」

「怖いの?」
 
「少し哀しいかも?」

「じゃ~哀しいって言えば?」
 誰に?っと言った所で、ぼくの意識が途切れた……。

 
 気づくと病院で、僕を呼ぶ声がする。
 
「ルク君、起きてください」
 
「おはようございます」
 
「おはようございます ってまだ夜だけどね」
 
「手術は無事に終わったからねー、ちゃんとルク君も起きた様だしお母さん呼んで来るね」
 
「すぐお母さん来るから待っててね」
 
「はいー」
 そういえば、ぼくはついさっき手術の麻酔を入れたところで、もう起きている?
 手術はやった? の?

「ルク!良かったね――頑張ったね――」
 
「……」
 お母さんの顔が近くにある……。

「どうしたのルク」

「お母さんの泣いてる顔、久しぶりだったから……」

「あっあ哀しいんじゃないのよ! 嬉しいからつい」
 お母さんがまた1つ涙を流す……。
 お母さんを見ているとあの素敵な湖の場所にいるより、あの無敵なぼくより、きっとどこでも行けたことより……。

「お母さん…… 本当は僕は会いたかった」
 
「だから……また会えて良かった」
 お母さんはそのまま涙が止まらなくなった様で、病室で待っていた、お父さんと明美を大変戸惑わせていた。


      ◇◆◇◆◇
 
 あれからしばらくして殺し屋Aと、その相棒ロボが僕の前を通り過ぎた。
 
 ぼくが立ち止まって振り返ると、ロボは立ち止まり僕を見ていたが『ふっ』と言うかの様に僕に笑いかけた後……殺し屋Aの後を追いかけて行ってしまった。
 僕は今では、普通の暮らしがだいたい出来る様になってきた。
 
 それを見届ける様に二人とまたであって別れた……。
(よくわからないけど…… これは普通以上の事なんだろう……)

 (うん!最期のばえだ!)
 少し懐かしいと言う気持ちが、ぼくの胸の中を少しくすぐって通り抜けていく。
 それに別れを告げる様にぼくはおねえさんたちと別の道をいく。
 
「ルクとちゃんとお別れすればいいのに…… 殺し屋Aは本当に天邪鬼だよね」
 ロボが、抗議するように私に言う。
 彼にしてみればいたくあの少年を気に入っていたようだ。
 
「お別れはあの時したからいいんだよ……」
 
「行こう! 次の殺しが待ってるよ!」

「もうそのキャラ辞めてよ!!」
 そして私達は次の仕事に向かうのであった。
 
    おわり 
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