バカは一度死んだぐらいでは治らないー兄貴を道連れにして異世界転生ー

バイブルさん

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1話 こうしてバカは村を旅立つ

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 時はピオセラ歴731年。

 数十の国々が存在する大陸は覇権を争う戦争に発展していた。

 侵略し、侵略するを繰り返しを重ね、遂に数十年の歳月を経過した後、大陸の国は3つになった。

 このまま最後の1つの国になるまで戦争が続けられるかと思われたこの戦いは終止符が突然打たれる。

 簡単にいうと三竦みの仕組みが出来上がってしまったからだ。

 多少の国の大きさなどはあったが国力自体は拮抗してしまうという手が出し辛い状況が生まれたというのが公式見解である。

 その内情は多数の国々を吸収したまではいいが、今ある現状だけでも対応しきれてない。
 吸収した国の戦争などで荒れてしまった土地の開墾、開拓そのあたりが頭が痛いのに難民、もとい増えた国民をどうするなど……

 なので、アレコレと手を出すと色々破綻しかねないと3ヶ国の王、重鎮達は頭を悩まし、戦争締結という形で納めたというのが実情だ。

 そのような流れでピオセラ歴801年、戦争締結され仮初かもしれないが大陸に平和の時が流れる。

 そこで先程も述べた開拓、増えた国民の対策が各国で頭を悩ませるが、とある国が打ちだした施策が残る2ヶ国でも取り入れられる事に。

 各国が持て余した土地に吸収した国民を根付かせるといった方法だ。

 それはそこの開墾、開拓をさせる代わりに税を30年免除といったものだ。

 出来るだけ、出身がその地域の者に任せる形にし、その土地に愛着がある者達に復興させようという他力本願な施策である。
 各国にとったら失敗したらそれはそれ、という投げやりな自国の余力が生まれるまでの繋ぎというのがミエミエの手口である事は誰の目からも歴然。
 しかも増えた国民に対して国が一応何かしたというスタンスが取れるという面子の部分が上層部で認められたようだ。

 そして、それを実施され、約20年の歳月が過ぎる。

 戦神を信仰する『ヨウナアキ教国』

 魔法を絶対視する『メモドラン魔導国』

 そして、伝承で勇者の生誕の地と知られる『ジラーナ王国』にある開拓村の『12』というナンバーを付けられた場所からこの物語は綴られる。




 カ――ン、カ―ン、カーン。

 12というまだ名前らしい名前のない村の片隅の離れに建てられた作業小屋から鉄を槌で打つ音が響く。

 そんな聞く者が思わず耳を傾けたくなるような槌の音をさせる作業小屋を目指し疾走する少年の姿があった。

 薄らと赤みががった茶髪を立つような短髪に走る風に靡かせるその少年は作業小屋の扉をノックどころか遠慮もない様子でドアを壊す勢いで開くと入口で堂々と胸を張って叫ぶ。

「兄(にい)やん、王都に行って冒険者になるぞ!」

 ニカッと悪ガキがするような大きな笑みが似合う少しサルぽさは隠せないが愛嬌を感じさせる。見る人が見れば美少年の仲間入り出来るかもしれない。
 破顔させる人族の少年、その笑みの様子などからするとやっと成長期といった様に見えるが身長は170cm程あり、痩身ながら引き締まった筋肉をラフな白のタンクトップから見える様子から成人に近いのかもしれない。

 その少年が見つめる先にはゴツイという表現がぴったりな男が全身真っ黒、丈長の前閉じのコートのような服にズボンの姿で炉の前にも関わらず暑そうな様子も見せず一定のリズムを狂わせず槌を打ち続ける。

 いきなりの闖入者に驚いた様子もなく、一瞬、チラッと視線を寄こすのみ。

 額から生える角が2本、どうやら鬼族のようだ。

 男は咥えた煙草の口の端から煙を洩らしつつ立ち上がる。少年より気持ち身長が高いがあらためてゴツイのが分かる。少年が痩身だから余計に見える。
 立ち上がった男は槌を横に置き、打ってた鉄、包丁の刃を確認して一つ頷くと柄をテキパキと手慣れた様子で取り付けながら背後で鼻息荒く少年の反応待ちしてる少年に答える。

「……思ったより遅かったな。ジュン、お前なら12歳になったらすぐに飛び出すと思ったが1年後だとはな」

 冒険者登録の最年少は12歳。体躯からは裏切られたが本当に表情通り年相応の年齢の少年であった。

 当然、男はそうすると思ってたようで予想を外れたと肩を竦める。

 包丁を片手に振り返る男の左目には痛々しい傷があり隻眼だ。

 少年、ジュンは男、兄貴にそう言われ、明後日に視線を逃がしながら言ってくる。

「いかん訳ないやろ? チートも貰って転生したんやからな」

 少し慌てた様子で矢継ぎ早に捲し立てるように続ける。

「ワイにもやっときたい事があったし、兄やんも転生してやる気やったやろ?」

 と相変わらず兄貴に視線を向けないジュン。
 
 ジュンのその仕草に何やら不穏な気配を感じる兄貴。

 そう長年ジュンの兄貴である男の経験と勘からどうにも疑わしく感じられ、呆れるように半眼で目の前の弟を見つめる。

 だが、こういう時のジュンは力ずくで口を割らそうとしても労力に見合わないとまた経験で知ってる兄貴はぼさぼさの手入れをする気のない黒髪を掻き上げるようにして諦めの溜息を零す。

「で、いつ出るつもりだ」
「決まってるやんけ、今やろ?」

 兄貴の追及がないと分かると現金なジュンはやっとこちらに顔を向けると無駄に胸を張る。

 胸を張るジュンを頭から足まで眺めるように視線を上下させる兄貴。

 白のタンクトップに黒のズボン、背中に身の丈ほどある大剣を背負うのみのジュンを見て更に深い呆れ溜息を零す。

「……旅支度は?」
「ワイはこの大剣さえあればええねん。どうせ兄やんが用意してくれてるやろ?」

 あっけらかんと兄貴任せを隠さないジュンにハァと今日何度目になるか分からない溜息を零し、近くにあるテーブルに置いてあるベルトに付けられるポシェットタイプのカバンを手に取る。

 ジュンは兄貴が手にするのを指を指してニヤっと笑う。

「そそ、それそれ。やっぱり用意してくれてたんやな~、その四次元ポシェットで!」
「お前、俺をネコ型ロボットと勘違いしてないか」

 そう言う兄貴は目にも止まらない動きをするとジュンが反応する前に顔を鷲掴み、所謂ベアークローだ。

 ギャァァ――! と悲鳴を上げながら兄貴の掴んでる手を両手で引き剥がそうとするがピクリともさせる事も出来ず、更に無情にも兄貴は持ち上げて吊るし上げてくる。

「にぃ、兄やん! ジュンちゃんの頭割れて柔らかくて大事な部分がぁぁぁ!!」
「いい感じに刺激になって少しは馬鹿が治るかもしれん。俺に任せろ」

 イヤ――とジタバタとするジュンを見て口の端を上げる兄貴が更に力を込めようとした時、ジュンとは違う軽い足取りで作業部屋に飛び込んでくる姿に力を込めるのを止めた兄貴が視線を向ける。

 向けた先には走ってきたせいか、いつもより乱れた様子の肩で揃えた赤髪を直すのを忘れたように肩で息をする少女の姿があった。

「ジュン君、お兄さん早く村を出ないと大変だよ!」
「ん? どうした、ジュラ」

 兄貴にジュラと呼ばれた少女は頭頂部の長い耳を忙しなく動かしながら、急がないと急がないと足をジタバタさせる。

 ジュラはウサギ族の少女でこの村でこの兄弟が幼馴染と問われたら迷わず頷く唯一の存在である。なのでジュラが兄貴をお兄さんというのは愛称のようなものだ。

 普段から抜けているというか要領はいい方ではないジュラを落ち着かせるのが先決と考えた兄貴は手にしてたゴミを邪魔にならないように部屋の隅に投げる。

「前の痛みから解放されたと思ったら今度は後ろにぃ!!」

 投げられた時に受け身を取り損ねたジュンが後頭部を隅に固めてあった鉱石の塊に突っ込んだようで涙目になりつつ、その場でゴロゴロと転がる。

 転がるジュンと我関せずと視線すら向けない兄貴を交互に見ながらどうしたらいいか混乱するジュラの頭を撫でるようにして乱れた綺麗な赤髪を直してやる。

「えっと、えっとジュン君が……」
「心配するな。良い刺激になるかもしれん。最悪、アレ以上はアレになる事はない」

 そう言いつつ、撫で続ける兄貴はジュンには見せない優しげに目を細め、妹分を見つめる。ジュンと同じ年なせいか、こっちが兄妹であったら本当に良かったのにと兄貴はいつも思う。
 そんな兄貴の姿を見て少し落ち着きを取り戻したジュラ。

「あ、うん、ジュン君があれぐらいでどうこうなる訳ないよね?」
「ああ、あれでどうにかなるなら俺も苦労しない」

 そう、頷き合う2人。

 これもある意味、信頼かもしれない。

 落ち着きを見せたジュラの姿を見て兄貴は告げる。

「ジュラ、旅支度してるようだが、ジュンに誘われたのか?」

 先程ジュンにしたように上から下へと視線を向ける兄貴。

 白を基調としたF○の白魔導士を彷彿させるローブタイプの丈が短めの下にはスパッツを履いており、お尻からは可愛らしい丸い尻尾が飛び出している。
 背にはモーニングスターを背負い、肩から吊るした小さなピンク色のカバンに白猫がプリントされているマジックバックがかけられていた。

 ローブの下のささやかな膨らみについてジュラに相談された兄貴は「希望は未来形」とだけ告げて目を背けている。

 ちなみに兄貴に丈が長い方が色々と安全だと言い含められたが「可愛くない」という一言で却下され、ジュラの要望通りに作らされたが、兄貴にスパッツだけは履けとごり押しされた姿である。

 これらの装備、カバン含み、兄貴作である。加えるならジュンの大剣もそうだ。

 兄貴に落ち着かされた事とジュンの心配したせいでここに来た理由を一瞬忘れてたらしいジュラが再び慌てだす。

「そ、そうだった! 大変なの、村長達がジュン君を捕まえようと……」
「はぁ? このバカは今度は何をやったんだ?」

 ジュラの言葉に頭を抱える兄貴は今まで、前世込みでの色々とやらかしているジュンの所業を思い出し、更新される今日一番の溜息を零す。

 横に今度は何をしたと意思を込めた視線を向ける兄貴。

 その視線の先には既に立ち直ったらしいジュンが胡坐を掻いてニヒヒと悪びれる様子も見せずに笑い、サムズアップして兄貴の視線の問いに答える。

「村の年頃の女とヤッた!」

 テヘペロと舌を出して「完全制……」覇の言葉を口にする前に再び、ジュンに一瞬で詰め寄った兄貴が右拳を振り上げる。

「お前が待ってたのは精通かぁ!!」

 今度もジュンは反応する事も出来ず、テヘペロ顔のまま顔面を打ち抜かれる。

 器用にもテヘペロ顔のまま目を回すジュンの首根っこを掴んで兄貴は手早く旅支度を済ませると作業部屋の出口に歩き出す。

「待って、ジュラも行くぅ」

 そう言って兄貴とジュンを追いかけるように兄貴の傍にやってくるジュラ。

 兄貴は朝から作業部屋に籠っていたせいで出た瞬間、太陽に目を細める。

 先程のジュンの様子から嘘は言ってないのは長年の兄としての経験から分かる。

 つまり完全制覇というからには本当にこの1年以内で全員を手篭めにしたのだろう。まあ、多少は強引な手も取ったかもしれんが合意の上だろう。そこまで外道ではないことは兄貴は信じている。

 だが、と兄貴は思う。

 村の結婚してない年頃の女は10人はいたと思う。

 余り他人の恋愛事情に興味がないので気にしてない兄貴はその辺りは疎い。

 1,2人という事は無い事は確定だろうし、村長がジュンを捕まえようとしている事は当然、なんらかの責任を取らせようとしているのだろう。

 兄貴は思う。

 無理だ、責任の取りようがない!

 村を離れるように歩いている兄貴は一度振り返る。

 スマン、ウチのバカの弟のせいで!

 そう心で詫びつつ、被害にあった女達の幸せを願うと自然と無事な右目から涙が零れる。

 その涙に隣にいるジュラが驚いたようで逞しい兄貴の掴む。

「お兄さん、ど、どうしたの?」
「いや、兄貴辞める方法ないかなって……」
「駄目だよっ、お兄さんがいなかったら誰がジュン君を制御出来るの?」

 その言葉に鼻の頭がツーンとするのを耐えて涙を抑える。

 コイツを自分以上に言う事を聞かせる出来る奴、と考えるが軽く絶望する想像しか出来ない頭を被り振って悲しい現実から目を逸らす。

 逸らした先には首根っこを掴まれ引きずられているのにも関わらず気持ち良さそうに寝るバカに額に血管を浮かばされるが更新が止まらない深い溜息が零れる。

「やっぱり兄貴辞めたい」
「が、頑張ろうね、ねっ!?」

 ジュラに励まされ、再び、鼻の頭がツーンとするのを耐えながら兄貴はジュンを引きずりながらジュラと共に村を離れる。

 そうしてバカは世に放たれる事になったのである。
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