上 下
13 / 13
その葛藤に意味はないの

十弍

しおりを挟む
「なぁ、その命が尽きそうな奴ってお前と同じ鴉なのか?」

歩く音だけが森の中にやけに響く。

【いんや、ただの猫だよ。病気で捨てられたただの猫だ】

病気で……つまり、人間の勝手で捨てられたって事か。
…………昔、ずぶ濡れで死にそうになってた子猫を助けようとして、結局あいつらに殺された事あったな。嫌な事思い出した。
あの時僕が拾ったりしなければ、楽に死ねたかも知れないのに。殺される事なんてなかったのに。

【どうした?顔色悪いぞ】

「いや、なんでもない。ちょっと疲れただけだ」

【そうか。悪いな】

「………………なぁ、病気で捨てられたって、病気をするまでは可愛がられてたのか?」

僕がそんな質問をするのが意外だったのか、鴉は目を丸くする。

【ああ、そうだよ。病気をするまでは可愛がられて幸せだったんだよ。けどな、病気が分かった途端に、別の子猫を買ってそいつをゴミみたいに捨てやがったんだ。あいつの飼い主は家族じゃなくて、結局思い通りになる人形が欲しいだけだったんだよ】

「なんでお前はその猫の事に詳しいんだ?」

【……ずっと見てたからな。生まれたてで捨てられて、オレが半年間面倒見てやったんだ。やっと家族が出来て幸せに暮らせてると思ってたのに、最後の最後でこれかよ。オレはあんな風に捨てられる為に、あいつを見守ってきた訳じゃない】

淡々と、でも激しく燃える怒りと憎しみの込められた声が、酷く哀しく聴こえる。思い通りにならない人形はいらない……か。まるで僕と同じようなものだな。


♢♢♢♢♢♢


やがて、小さな洞窟に着いた。そこでガリガリに痩せ細った黒猫が、苦しそうに息をしながら横たわっていた。
何を思ったのか僕は、その黒猫の頭を撫でて抱き抱え膝に乗せた。黒猫は穏やかな表情で僕を見る。

ーーうぬが触れた事で痛みが無くなったのだよ

そう、声が頭に響く。

「病気を治してやる事は出来ないのか?」

ーーそれは出来ないよ。私らに出来るのは破壊だけだからね

「…………そうか。ごめんな、お前を救ってやる事が僕には出来ないんだ。お前はどうしたい?このまま穏やかに死にたいか?」

黒猫は鳴いて応える。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...