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その葛藤に意味はないの

十一

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【頼み?またあの頼みか?この前から断っておるだろ】

右腕の化物が困った様子で鴉を見る。

【既に息絶えたモノは、我らもどうする事も出来んよ。死んだばかりで魂が身体に残っておれば別だが。身体と魂が揃っておらんと迎え入れられん。あの時は既に身体から魂が抜けておったから、迎え入れられんかったのだ】

【それはこの前聴いたから分かってら。今度は違う、命が尽きそうな奴がいるんだ。あいつが望むなら連れて行ってやってくれないか?お前らと一緒ならあいつも寂しくないだろ】

【いいのか?俺らと一緒になると輪廻の環の中に還れなくなるぞ?】

どうでもいいけど、古風な喋り方の奴と現代風な喋り方の奴との違いはなんだろう。てか、こんな場面で何暢気に考えてたんだろ。

【オレにはあいつがどう思ってるか分かんねぇけど、あんな思いをしたまま死んで欲しくないんだよ。まぁ、オレの勝手な思いなんだけどな】

【ふぅむ……うぬはどう思う?】

「……はっ?僕?」

【あんさんの意見も聴いた方がええじゃろ?】

なんだよ、なんでいきなり僕に意見を求めるんだ?鴉の意見を聴いたからか?

「えっと……とりあえず、そいつに会うだけ会ったらいいんじゃないか?どうするかはその時に決めたらいいと思う」

【それもそうだの。そうするとしよう】

そう言うと僕に向かってずるずると這ってくる。身体の中に戻るのかと、なんとなく理解出来た。右腕と右足に触れると瞬く間に、ぎゅるんと吸い込まれるかのように消えて行く。
それと同時に訪れる、もがれた半身が戻ってきたかのような安心感。違う、安心感を覚えてるのは僕じゃない、化物達の方だ。
だって、沢山の意識が戻ってきて吐き気がするのに。

【おい、大丈夫か?行けそうか?】

鴉が心配そうに見てくる。ああ言った手前、行かない訳にもいかない。

「……大丈夫。案内してくれ」

ああもう、早く行こうって五月蝿いな。
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