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魔導書屋の少女は英雄との恋に憧れているようです 3

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「やっぱり小説書いてやがったか。絶対こっそり書きためてると思ったんだよ。読書家でおまけに同年代の友達はなし。その状況で創作してないわけがない」

 俺は宿のベッドで、リューが盗み出してきたルビィの小説を読んでいた。
 小さな木箱いっぱいに重ねられた紙の上には、彼女が空想上で創りあげた世界が転写されている。
 
 凝った表現が多くてちょっと読みにくいが、さすが読書家だけあって文章はうまい。

「うわー人の秘密の創作物のぞきみるとかモトキさん鬼畜生にも劣る非道っぷりですねえ。ありえないです最低です、早くわたしにも読ませろ下さい!」

「お前も興味津々じゃねえか」
 俺とリューはベッドに並び、一緒にルビィの小説を斜め読みしていく。

 ルビィの小説は文学っぽい短編が5編と、それから――

「くっはー……! このキャラ完全にユータロウさんをモデルにしてるじゃないですか! こっちはルビィさんご本人がモデルですね。好きな男の子と物語の中でいちゃいちゃするとかもー……甘酸っぺぇ!」
 リューはバンバンとベッドを叩く。
 隣の部屋の人に迷惑なので、いますぐやめて欲しい。

 ルビィはユータロウと自分をモデルにした恋愛小説を一編書いていた。
 
 内気で引きこもりな少女が英雄的な少年に見いだされ、自信をもらい、次第に二人は引かれあい――という内容。

「ちょっとちょっとチューしてますよ! お話の中ですけど! うわ、お話の中だけどペッティング始めましたよ! うっはー、服脱がせあってます……! お話の中ですけどぉ!」

「おちつけ……」

 リューは過激な描写にはまってしまったようで、のめり込むようにしてページをめくっていく。
 はぁはぁ……と下半身をもじもじさせる姿はとってもエロかった。
 
 いやしかし、ルビィがここまで過激な夢小説を書いているとはさすがに予想外である。
 内気少女の妄想力はあなどれんものがある。

 大人しそうでも、心の中ではさかっているのだ。

 俺はルビィがあの爆乳を揺らして乱れる様を想像し、ごくりと息をのんだ。

「それでモトキさん、このエッチィ小説もといルビィさんの黒歴史、どうする気です?」

「どうするって、そんなの決まってるだろ――本にするんだよ」

**

「んじゃ、製本お願いします」
 ルナからもらった路銀で雇った写字僧のみなさんに、俺はルビィ作の夢小説の製本を頼んだ。
 納品までには一週間程度かかるそうだ。

 ルビィもまさか自分の秘密の小説が、今まさに形を成そうとしてるとは夢にも思わないだろう。
 気の毒である。
 そろそろ部屋から自作小説がなくなったことに気付いただろうか。

「おっそいですよー!」

「悪い悪い、またせたな」

 出版ギルドの注文所を出て、俺は外で待機していたリューと合流した。
 今日はこれから、リューにうまい肉をおごる約束なのだ。
 先日働いてくれた礼だ。

 俺はリューと連れだって『クーラ』の街を歩く。
 ちなみに俺の姿は適当な男の姿に変えてある。

「ところでモトキさん、なーんでルビィさんの小説製本したりするんですか。人の黒歴史勝手に本の形にして残すとかとんでもねー畜生ですよ、あなた。わたしにも一部下さい!」

「すっかりルビィのファンだなお前……。まあ、どうしてこんなことをするかというと、ルビィとユータロウを引き離し、寝取るためだ。それが目的だよ」

「だーから、どーしてこれがルビィさんを寝取ることにつながるんですか? 全然わけわかりませんよ」
 リューは言う。
「だいたいやり口が回りくどすぎるんですよ、あなた。ルビィさん寝取るんなら、ユータロウさんに化けてさっさと押し倒せばいいじゃないですか!」

「いや、そんな安直なやり方じゃ間違いなく失敗する。断言できる」

「んあ? なぜです?」

「それじゃ、俺たちを見てる女神がおもしろくないからだ」
 地球転生者に力を与えた女神たちは、俺たちがチートを使っておもしろい物語を紡いでいくのを楽しんでいる。

 ユータロウという典型的な転生者が無双ハーレムをつくっていく様を、
 俺というゲスでイレギュラーな転生者がそれをぶちこわそうとする様を、

 お空の上から楽しんでいる。

 女神はおそらく、俺とユータロウのうち、よりおもしろい物語をつくりそうな転生者の味方をするだろう。

 だから普通のやり方でルビィを寝取ろうしてはダメだ。
 もっと回りくどく、それでいて遠大なやり方で、ルビィを我が者にしようとしなくては。

 女神様、と俺はお空に向かって呟く。

 ルビィは、ユータロウのハーレム要員にしとくにはおしい逸材です。

 俺にくれた方が、あいつの人生をもっと、おもしろくできますよ。
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