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第三章 正体不明
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退魔師仲間と集まった数日後、案の定和人さんから連絡が来た。用件はやはり、以前と同じような異変が身の回りで起こりはじめたということだった。
僕はすかさず、勤とイツキにメールで連絡を取る。ふたりの予定が今日空いているようなら、すぐさまに駆けつけた方が良いと思ったのだ。
勤からもイツキからもすぐに返事が来た。勤は丁度仕事を一件終えた所で、イツキは仕事以外の予定があったそうなのだけれども緊急事態だからとそちらをキャンセルすることにしたそうだ。
忙しい中申し訳ないと思いながらも、和人さんに付きまとっているあの悪しきものは、僕だけの手には負えない気がするのでふたりの力を借りざるを得ない。
ふたりのメールにすぐに集合場所を書いて返信ずる。集合場所は、和人さんの家の最寄り駅だ。
あのふたりが今どこにいるのかはわからないけれども、待ち合わせ場所を決めたのなら万端の準備を整えて急げるだけ急いで向かいたい。
きっと、和人さんはひどくおそろしい思いをしているのだろうから。
「お待たせ。待たせてごめんなー」
そう言って集合場所に最後に現れたのはイツキだった。
勤は仕事先が離れた場所ではあったけれども、仕事道具を全部持っていたので準備の時間を省けたのと、たまたまこの駅の沿線上にいたようで一番早く辿り着いていた。
「とりあえず急ごう。例の人に憑いてるやつがどんなやつかわからないけど、あまり長時間放っておくのはよくない」
「そうだね。早速向かおう」
いささか焦りの見える勤の言葉に返事を返し、僕はふたりを先導して駅前を歩いて行く。
駅前から続く商店街に入り、そのまま住宅街に足を踏み入れる。この住宅街に、和人さんが住んでいるアパートがあるのだ。
アパートに着き、一階の角部屋のインターホンを鳴らす。すぐにインターホン越しに返事が聞こえてきたので声を掛ける。
「和人さん、ジョルジュです。
今日は念のために僕の仕事仲間を連れて来たのですが、仲間のふたりも入れて良いですか?」
すると、すこしの間を置いて、随分とやつれた顔をした和人さんが玄関を開けて僕達を出迎えた。
「狭いですけど、どうぞ。
すいません、お手数おかけして」
「いえ。それではお邪魔します」
僕が和人さんの家に上がると、続いて勤とイツキも和人さんに一礼をしてから玄関に上がる。
そしてキッチンを抜けて部屋に入ると、部屋の中はだいぶ荒れていた。
床の上には本とサイコロが散らばり、前回来た時と同じようにパソコンのプラグは抜かれている。それに加えて、夕方とはいえまだ明るい時間だというのにもかかわらず、ぴったりとカーテンが閉められていた。
和人さんが頽れるように本の散らばった床の上に座り込む。これは相当やられているな。
このようすが、精神的な病由来のものではないのはすぐにわかった。やはり以前と同じように集中して視るまでもなく、悪しきものが部屋どころか部屋の外にまで密集しているのだ。
こんな状態の中に置いておかれたら、感受性が低い人間でも無意識のうちにメンタルに来る。そんなありさまだ。
勤はポケットから数珠を取りだし握りしめ、イツキは体に付けているボディバッグに手を当てている。ふたりとも緊張した面持ちで部屋の中を見回している。
「どうだい?」
僕がふたりにそう訊ねると、勤が抑えた声でこう答える。
「俺が視た感じでは、こいつらはキリスト教系のなにかだな。
俺ではどうしようもない」
どうしようもない。という言葉を聞いてか、和人さんがびくりと身体を震わせる。
そのようすを見たイツキが、ボディバッグの中から液体の入ったボトルを取り出しながら言う。
「キリスト教系の雰囲気はあるにはあるけど、オレの見立てではこいつらはオレの範疇だ。
今までジョルジュが祓ってもしつこくつきまといに来てるんだろ? 試しにオレにまかせてくれないか?」
「イツキの範疇? そうだね、それなら頼もうか」
イツキは特にどこかの宗派に属しているというわけでもない、有象無象が主な除霊対象だ。そういったものは勤だけでなく僕にも手が終えないことがほとんど、いや、手に負えたことがないので、僕が祓い切れていないこの悪しきものを祓ってもらうには丁度良いかもしれない。
僕がイツキに仕事を頼むと、すぐさまに勤が僕の耳を強く塞いできた。
見ている限り、イツキはなにかを呟きながら手に持ったボトルの中身を部屋に撒いているけれども、なぜ僕の耳を塞ぐのだろう。僕が聞くと何か不味い呪文のようなものなのだろうか。
疑問に思っている間にも悪しきものたちは姿を消す。イツキのいったとおり、これはイツキの範疇でもあったようだ。
けれども、それならなぜ今まであの悪しきものは僕の退魔の言葉で退散していたのだろう。いや、僕の言葉で退散するようなものがなぜ、イツキのやり方で祓われるのだろう。これがわからない。
悪しきものが姿を消したことがわかったのだろう、和人さんが肩を落として安堵の溜息をつく。
「ありがとうございます。
これでもう、大丈夫ですかね……」
この言葉に、どう返せばいいのかわからないので、イツキの方を見る。するとイツキは、頭を振ってこう答えた。
「正直言って、あいつらは手強いかもしれません。
これで祓い切れてればいいですけど、そうでない可能性もあります。
だから、またなにかあったらすぐにオレ達に連絡を下さい」
和人さんはまた不安そうな顔をする。そんな彼に、僕はなるべく優しい声で話し掛ける。
「大丈夫です。絶対に僕達がこの件は解決しますから」
この言葉を、和人さんはどれだけ信じられるだろうか。僕が何度祓っても、あの悪しきものたちは和人さんのところへと戻ってきていたのだから。
怯えたようすを見せる和人さんを見て、本当に精神に異常をきたす前に解決しないとと思った。
僕はすかさず、勤とイツキにメールで連絡を取る。ふたりの予定が今日空いているようなら、すぐさまに駆けつけた方が良いと思ったのだ。
勤からもイツキからもすぐに返事が来た。勤は丁度仕事を一件終えた所で、イツキは仕事以外の予定があったそうなのだけれども緊急事態だからとそちらをキャンセルすることにしたそうだ。
忙しい中申し訳ないと思いながらも、和人さんに付きまとっているあの悪しきものは、僕だけの手には負えない気がするのでふたりの力を借りざるを得ない。
ふたりのメールにすぐに集合場所を書いて返信ずる。集合場所は、和人さんの家の最寄り駅だ。
あのふたりが今どこにいるのかはわからないけれども、待ち合わせ場所を決めたのなら万端の準備を整えて急げるだけ急いで向かいたい。
きっと、和人さんはひどくおそろしい思いをしているのだろうから。
「お待たせ。待たせてごめんなー」
そう言って集合場所に最後に現れたのはイツキだった。
勤は仕事先が離れた場所ではあったけれども、仕事道具を全部持っていたので準備の時間を省けたのと、たまたまこの駅の沿線上にいたようで一番早く辿り着いていた。
「とりあえず急ごう。例の人に憑いてるやつがどんなやつかわからないけど、あまり長時間放っておくのはよくない」
「そうだね。早速向かおう」
いささか焦りの見える勤の言葉に返事を返し、僕はふたりを先導して駅前を歩いて行く。
駅前から続く商店街に入り、そのまま住宅街に足を踏み入れる。この住宅街に、和人さんが住んでいるアパートがあるのだ。
アパートに着き、一階の角部屋のインターホンを鳴らす。すぐにインターホン越しに返事が聞こえてきたので声を掛ける。
「和人さん、ジョルジュです。
今日は念のために僕の仕事仲間を連れて来たのですが、仲間のふたりも入れて良いですか?」
すると、すこしの間を置いて、随分とやつれた顔をした和人さんが玄関を開けて僕達を出迎えた。
「狭いですけど、どうぞ。
すいません、お手数おかけして」
「いえ。それではお邪魔します」
僕が和人さんの家に上がると、続いて勤とイツキも和人さんに一礼をしてから玄関に上がる。
そしてキッチンを抜けて部屋に入ると、部屋の中はだいぶ荒れていた。
床の上には本とサイコロが散らばり、前回来た時と同じようにパソコンのプラグは抜かれている。それに加えて、夕方とはいえまだ明るい時間だというのにもかかわらず、ぴったりとカーテンが閉められていた。
和人さんが頽れるように本の散らばった床の上に座り込む。これは相当やられているな。
このようすが、精神的な病由来のものではないのはすぐにわかった。やはり以前と同じように集中して視るまでもなく、悪しきものが部屋どころか部屋の外にまで密集しているのだ。
こんな状態の中に置いておかれたら、感受性が低い人間でも無意識のうちにメンタルに来る。そんなありさまだ。
勤はポケットから数珠を取りだし握りしめ、イツキは体に付けているボディバッグに手を当てている。ふたりとも緊張した面持ちで部屋の中を見回している。
「どうだい?」
僕がふたりにそう訊ねると、勤が抑えた声でこう答える。
「俺が視た感じでは、こいつらはキリスト教系のなにかだな。
俺ではどうしようもない」
どうしようもない。という言葉を聞いてか、和人さんがびくりと身体を震わせる。
そのようすを見たイツキが、ボディバッグの中から液体の入ったボトルを取り出しながら言う。
「キリスト教系の雰囲気はあるにはあるけど、オレの見立てではこいつらはオレの範疇だ。
今までジョルジュが祓ってもしつこくつきまといに来てるんだろ? 試しにオレにまかせてくれないか?」
「イツキの範疇? そうだね、それなら頼もうか」
イツキは特にどこかの宗派に属しているというわけでもない、有象無象が主な除霊対象だ。そういったものは勤だけでなく僕にも手が終えないことがほとんど、いや、手に負えたことがないので、僕が祓い切れていないこの悪しきものを祓ってもらうには丁度良いかもしれない。
僕がイツキに仕事を頼むと、すぐさまに勤が僕の耳を強く塞いできた。
見ている限り、イツキはなにかを呟きながら手に持ったボトルの中身を部屋に撒いているけれども、なぜ僕の耳を塞ぐのだろう。僕が聞くと何か不味い呪文のようなものなのだろうか。
疑問に思っている間にも悪しきものたちは姿を消す。イツキのいったとおり、これはイツキの範疇でもあったようだ。
けれども、それならなぜ今まであの悪しきものは僕の退魔の言葉で退散していたのだろう。いや、僕の言葉で退散するようなものがなぜ、イツキのやり方で祓われるのだろう。これがわからない。
悪しきものが姿を消したことがわかったのだろう、和人さんが肩を落として安堵の溜息をつく。
「ありがとうございます。
これでもう、大丈夫ですかね……」
この言葉に、どう返せばいいのかわからないので、イツキの方を見る。するとイツキは、頭を振ってこう答えた。
「正直言って、あいつらは手強いかもしれません。
これで祓い切れてればいいですけど、そうでない可能性もあります。
だから、またなにかあったらすぐにオレ達に連絡を下さい」
和人さんはまた不安そうな顔をする。そんな彼に、僕はなるべく優しい声で話し掛ける。
「大丈夫です。絶対に僕達がこの件は解決しますから」
この言葉を、和人さんはどれだけ信じられるだろうか。僕が何度祓っても、あの悪しきものたちは和人さんのところへと戻ってきていたのだから。
怯えたようすを見せる和人さんを見て、本当に精神に異常をきたす前に解決しないとと思った。
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