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Ⅴ 少女
しおりを挟むⅤ.少女
視界を遮られたまま、どこかへ運ばれる。どこへ行くのか、そんなことは分からない。
それよりもただただ、少女に会いたかった。あの手首が「もしかしたら」と言う可能性だけで早とちりをした自分の勘違いなのかどうか。それを確認したかった。だがもう自分は、このまま少女にあえずに死ぬのだろう。
そんなことをぼんやりと考えながら、気が付くとドアの開ける音が聞こえ、何らかの部屋に到着したことが分かった。続いてカチャカチャとした金属音が聞こえ、途端に重みが加わり、手足に重い枷をはめられたのだと気付く。
…枷?
何故だ。自分は今から殺されるのではないのか。普通、ただ殺される場合は、八方から一斉に襲い掛かるのが常だった。たかが殺す程度のことに枷をはめることすら、必要なしと考えられていたはずだ。それなのになぜ…?
「ぐっ⁉」
突然強い力を受け、強制的に膝をつかされた。
視界を遮っていた袋が取られる。白い部屋だ。
そして。
目の前にあの少女が居た。
最後に会った時と同じ格好をしている。いや、同じではない。彼女にはあったはずの右手がない。(その右手は、さっきそれを弄んでいた動物が今も変わらずその手に持っている。)
少女の体にはいつもより厳重に枷をはめられていて、自分と同じようにかなり行動範囲が限られている。当然側によることもできない。
「あ、ああ…」
涙が出てきた。
彼女が無事だったことに。彼女とまた会えたことに。彼女の右手のない痛々しい姿に。彼女のやつれた体に。
疑問が浮かんだ。
少女は愛玩動物だったはずだ。それがなぜ?何か機嫌を損ねるようなことをしたのだろうか。しかし自分をここに連れてきた意味は?最後の別れをさせるためか。いや、ありえない。とにかく理解が出来なかった。状況をよく理解できなかった。
「クキェ、ギギギ」
ふと顔を向けると何かの道具を準備しているようで。それらは彼女の周りに並べられていく。ノコギリの様なもの、ハサミの様なもの、様々な刃物に糸や布。そしてブルーシート。
ブルーシートは少女の周りに広げられた。
…もしかして。
…ああ、そんな…嘘だろう?
この準備はもしかして、アレなのではないのか。
感付いてしまったとたん、まだ乾ききっていない自分の頬にまた涙が溢れてきた。身体が震える。
…やめてくれ…。
頼むから…。
「やめろぉぉっっっ!」
少女の左足に勢いよく振り下ろされる鉈。
彼女の体が痛みに耐えかねてのけぞり痙攣する。目が飛び出るほどに見開き、叫ぼうと口を開けるが出てくるのは息のみ。そのためか、少女の体を分断する音が自分の耳に鮮明に聞こえてしまう。
ヒュウッと風を切る音が聞こえ、ゴッと骨を打つ鈍い音がし、ビクンビクンと泣きながら痙攣する少女。体から得物が抜かれるとき、グジュグジュと傷口を広げる音も聞こえる。
ヒュウッ、ゴッ、グジュグジュ…、ヒュウッ、ゴッ、グジュグジュ…。
自分はたまらず彼女に駆け寄ろうとする。しかし自分につながれた枷によって数センチ前に進んでも途端に動けなくなってしまう。ガキン、と響く金属音。音が出るだけで、伸びもしなければちぎれもしない。
やがてボキッッと音が響き、ほぼ同時にガン、という何かが床にぶつかる音がした。
見ると左足が腰から切断されていた。辺りは鉈を振り下ろすたびに飛ぶ少女の血で染まり、近くにいた動物の毛をも赤く濡らしている。体から離された足と傷からは常に血が流れ出し、青いシートをじわじわと赤く染め広げている。そのうち左足を持っていた動物が別の動物が用意したバケツにそれを放り入れた、…放り入れたのだ。
血しぶきがとび、自分の顔にも付く。まだ生暖かい血が。
切断を終えた少女の体に的確な処置を施していく動物達。血を止め、傷口が腐らないように消毒をしながら縫い合わせていく。
少女は、想像を絶する痛みに耐えかね、気を失っていた。
そんな彼女の様子に気が付いた動物達は、少女に水を浴びさせ意識を強引に戻させる。
そして、先ほどとは別の得物、ノコギリを持ち構えた。
右足の付け根に刃を当て、一気に引く。
グチュグチュ、ズブズブ、グチュグチュ、ゴリゴリ。
あとはもう、その繰り返しだった。
少女が気絶すれば強引に目覚めさせる。切断し終えれば傷口に手当をし、少女が死なないようにする。道具を変える。体を切り刻む。
壁が赤く染まる。動物も赤く染まる。自分も赤く染まる。
ついに少女は、あの美しく生えていた両手両足を切り離され、胴体だけになっていた。
でも、
生きていた。
荒い息を吐きながら、涙を流しながら、つながっていたはずの手や足がもうないなんて信じられないとでもいうように肩や腰をうごめかしている。
動物達は、ひとまず作業が終わって疲れたのか、一匹、また一匹と部屋から出ていく。
最後の一匹が出ていく。
後には、泣き疲れて気絶したように眠る少女、そして、もはや自分の中で光となっていた存在を目の前で壊されて呆然とした人間の二人が残されていた。
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