地平線の頌賦~horizonal Ode~

ななち

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第三十二話

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 全てはもう、決まっていたことだった。
 それが一体いつになるか、の問題だった。
 『その時』がくることが、怖くなった時だってある。
 でも、それは自分が生まれてきた理由だった。
 それを否定してしまうことはできなかった。
 どんなことがあろうと、この役目は自分のもの。
 そう、あの、出会ってはならないものに出会ってしまった瞬間から。
 止められていた歯車は、回り始めてしまった。
 でも…
 止めてはいられない歯車だったのだから。
 偽ってはいられない運命だったのだから。
 当然なのかもしれない。



********



 オードと長老が二人きりで話を初めて一刻ほどがすぎていた。セロはその間、長老の部屋の扉の前でしゃがみこんでいた。

「……。」

 長老に快復の兆しが見えたというのに、セロが想いを馳せているのはそのことではなかった。
じっと見つめる先は、己の左手。
何度も握ったり、開いたりを繰り返しながら、穴があくほど左の手の平を見つめている。
 不意に、セロは深い溜め息をついて、やっと左手から視線をはずした。それから目を瞑り、うずくまる。

 先ほどから、鼓動が高鳴って煩いのだ。
どうしたらしずまるのか分からないその己の心臓の音に、正直、戸惑っている。
どう考えても制御不能になっている。

「…どうしよう。」

 セロは、小さくそう呟いた。
 分かってしまった。
 これほどの切なさが、これほどの激しい感情が、これほどの深い想いがあるなんて、知らなかった。

 許してくれる想いである可能性は低い。

でも…

「…師匠…。」

 震える瞼の裏に映っているのは、優しい緑の瞳に、輝く金色の髪の人間の青年。
 どんなに打ち消そうとしても、もう、消すことができない存在だ。
 こんなに誰かのことを、大切に思える感情があるとは思えなかった。全てを投げ出してでも、それ一つを守りたいと思えてしまう感情があるとは…。

「師匠、私は…。」

 小さな呟きは、だが、確かな強い意志の力があった。




――― 私は、あなたの妖精になりたい……―――
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