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よつば

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一人目 中編

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「さあ、腹ごしらえもした所だし…」

片付けていた手が一瞬固まる。

「そろそろ…ッスよね」

心臓がドクン、と跳ね上がる。
別に覚悟していなかった訳じゃない。
行くのが嫌な訳でもない。

ただやはり…それ相応の覚悟が必要な事だから。


「…大丈夫、ライラ?」
アンラさんが心配そうに私を覗きこむ。

ダメだな私はこれくらいで。
しっかりしないと。

「ありがとうございます、全然―――行けます。」


皿をしまった棚の扉部分を静かに閉めた。


「――それじゃあ、行こうか」

ボスに続いて、全員がぞろぞろと立ち上がる。

フロアを抜けた渡り廊下はガラス一面、床と天井を除いてほぼ全ての景色が見渡せる。



――ここも、きっとそのために造ったんだろうな――。


マッチ箱のような家やビルが並ぶ街を流し目で見る。

「…なんて奇跡だろうか」

突き当たりのエレベーターに乗り、一階まで。


ガッシャンッ!


「さ、みんな。各自自分の荷物を取って」

これはただのエレベーターじゃない。

ある特定の人物が入ることで、普通とは違う構造になる。


右の壁からナイフや銃、そのほか毒物などの殺傷物。

左の壁からはロープにワイヤー、手袋、メガネ、盗聴機や小型カメラなどの小道具。

後ろの壁には服や靴、バッグなどがそれぞれ収納されている。

「少し」特殊になったときに一階のボタンを三秒以上押すと、これらが出てくる。

――ちなみにこれを十秒以上押すとこれまた「少し」特殊な事が起きるが、それはまた次の機会に…


「ほらよ」
「!」

ザックさんがひょいと渡してきたのは、丁度包丁位のサイズのナイフ、そして小型の銃だった。

「ナイフは俺がいつも教えてる通りだ。銃は専門外だが、これは実弾じゃあねえ。どうしようも無くなったらこの、青いボタンを押せ」

「……これは、なんですか?」

銃の胴部分には青っぽい液体が入っている。
先端は針のような物がついていて、弾が飛び出す穴は見当たらない。おそらくこれは―――

「…毒だよ。くれぐれも扱いには気を付けろよ」
「はい」
「――ま、その前に私達がライラに指一本触れさせないけどね」
アンラさんは舌で唇をペロリと拭った。
「…おう!そうだな」

間もなく一階に到着する。


――エレベーターを降りると、ホテルのような空間が広がっている。
左手には大きな螺旋らせん階段があり、そのさらに左奥にはエレベーターの倉庫よりもっと正式な武器庫などがある。

黒よりの紺をした壁、床、天井で、昼間は所々にある窓からの光で普通に過ごせるが、日が落ちると明かり無しじゃあ結構キツい。



床は大体20×20の正方形石タイルが敷き詰められており、ちょっとの衝撃では割れたり壊れたりもしない。


私はそんなビルの最上階――128階の一室に住んでいる。

128階は約632m――東京スカイツリーとほぼ同じくらいの高さだ。

なぜそんな辺鄙へんぴな所に?と思うかもしれないが、高い所に住み慣れることで0m地点――地上での活動で体が動かしやすいという利点があるのだ。

高い所は空気が薄く、ちょっと動くだけですぐ息切れするから。



玄関ホールを抜け、共同玄関をカードキーで開く。

開きかけのドアの隙間から、外の情報が一気に流れ込んでくる。



人、声、音、太陽、風、匂い――――


ボスがサングラスを掛けながらビルから外へ、歩き出した。

「さあ…張り切って行こうか」
『はいッ!』




体の調子、絶好調。
今日のような青空で天気のいい日は最高の――










暗殺日和。


「目標まで後、一キロ。」
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感想 1

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みんなの感想(1件)

ⅦーⅡ
2019.05.02 ⅦーⅡ

世界観がワクワクします!
頑張ってください(^^#)

2019.05.02 よつば

ありがとうございます!

解除

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