孕めよ狼ちゃん!

山野まりも

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父からの手紙

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 日課の食料調達を終え、家に戻るとフクロウ便が来ていた。

「このご時勢に紙の手紙?」

 しかも、こんな森深くのあばら家に一体誰が文を寄越したかと思えば、差出人は現在失踪中の父だった。

「……いやいや、いやいやいや」

 けれど、その手紙の内容は明らかにおかしかった。

 もしかして、何かの暗号でも隠されているのでは……なんてことも考えたけれど、残念ながら私の父はそんな事を思いつくような頭を持ち合わせていない。

 だからきっと、この手紙に記されていることは、そのままの意味なのだろう。

「それにしたって酷すぎる」

 私はもう一度手紙を読み、頭を抱えた。
 父から私へ宛てられた手紙の文面はこうである。

 “親愛なる娘、メルちゃんへ。
 お元気ですか?お父さんはちょっと風邪気味で辛いです。あ、早速で悪いんだけどね。お父さんちょっとアレしちゃって、10万ゴルドほど借金しちゃいました。それでお父さんがいつもお金を借りてるジラームさんが、いい機会なので、そろそろメルちゃんをお嫁さんにしたいと言っています。X月X日に迎えに行くと言っているのでその日は絶対に家に居てくださいね。メルちゃんやったね!玉の輿だよ!”

 もはやどこから突っ込めばいいか分からない。頭の痛い内容がてんこ盛りだった。

「何がいい機会だっ」

 そう、私の父はギャンブラーなのである。
 まあそれで安定した収入が得られるのなら別に反対しない。だって私の父は、人狼族の母やその血を引く私と違う、非力なただの人間だったから。

 でも世の中そんなに甘くない。
 父は勘は良いのだが引き際というのがわかっていないのだ。

 だからしょっちゅう調子に乗って、こんな風に大きな借金をこさえてきては、娘である私が尻拭いをする羽目になるのである。

(この間30万ゴルド返し終えたばっかだってのに)

 野山で獲物を狩って小銭を稼ぐのは慣れている。だがこう大きな額が続いては正直困る。山一つ越えた金山へ出稼ぎに行ったことも、この小さな体が波にさらわれないよう必死でカニ漁船に乗ったこともつい先月の事なのだから。

 おかげで体力含め色んな知識と経験が身につくからポジティブに考えればプラスなのだけども。

「ふっ……」

 私はそっと便箋を折りたたみ、手早く荷物をまとめ家を出た。

「……」

 足取りは不思議と軽かった。
 というか家を出た後、数歩歩いただけで次の瞬間には私の足は大地をおもっくそ蹴って走り出していた。 

「無理!無理無理無理無理無理無理っ、無~~~理~~~~~っ!!」

 何だかんだと私を溺愛していた父だ、その一線だけは超えないだろうと思っていたのに。

 それも父が金を借りている相手というのがまた厄介な相手なのだ。

 【ジラーム】は武力と権力を併せ持つ、ここらで名の知れた金貸しの一族。ただし、人種でも獣人種でもない。妖精種であり【オーク】の民なのである。

 今まで父のことは、家族だし母が愛した人だからと頑張って支えてきたけれど、娘の気持ちを蔑ろにしてオークに身売りさせようとするクズ男とくれば話は別だ。

 私は決心した。

「あんな親もう知らん!勝手にバラされて売られてしまえばいい!私は!自分の為だけに生きてっ!平凡で幸せな日々を送りたいんだ!!」

 こうして私の波乱万丈な逃亡生活が幕を開けた。
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