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ひと足先に屋上に着いた彼は大きな深呼吸をし、いつも通り腰かけていた。
彼女は少し遅れてやってきて、いつも通り彼の隣に腰をおろした。
2人とも、極めて『いつも通り』を装っていた。
特に会話をすることもなく、お弁当を食べる。
いつも通り、だ。
食後はその場でぼんやり過ごす。
いつも通り、だ。
昨日のことなどまるで何もなかったかのように。
いつも通り。
そうこうしているうちに予鈴が鳴った。
本鈴まであと5分。
いつも通り、ならここで各自教室へ戻る準備をする所だが…。
今日は違った。
「昨日は突然ごめん」
先に口を開いたのは彼の方だった。
「驚いたよね、ごめん、忘れて。
でも、また屋上には来て欲しいんだ…。」
彼は俯き、まるで独り言の様に呟く。
「私の方こそ、ごめんなさい」
「腕振りほどいて逃げるなんて、酷いことして…」
「いや、それは俺が急に変なこと言ったからでしょ。」
「変なことじゃないよ!」
彼女は立ち上がり、つい大きな声が出てしまった。
「急…だから、びっくりしただけで…どうしたらいいか分からなくて…」
「そうだよね、びっくりしたよね、ごめんね」
「だから!謝らないでってば!」
彼女は更に大きな声で彼の言葉を否定した。
「午後の授業も、家に帰ってからも、あなたの事で頭がいっぱいだった。何も手につかなかった。
こんな経験初めてで、今日だってどうするのが正解か分からなかった。
あなたは何も悪いことしてないんだから、謝らないで!!」
彼女は早口で捲し立てるように、一息で言い切った。
真っ赤な顔をして、肩で息をしながら。
彼は彼女のそんな姿を見たこともないし、そもそも屋上での彼女しか知らない。
少し呆気に取られたが、自分と同じように悩んでくれていたことが嬉しくて、つい口元が緩んでしまった。
「何笑ってんのよ!」
「いや、笑ってるんじゃなくて…その、嬉しくて。
俺のことで頭がいっぱいだったなんて…」
「…っ!!」
「眠れなかったんじゃないの?昨日。俺も君もクマすごいもんね。
で、眠れない程考えてくれた答えは…出た?」
彼の心臓はバクバクと今にも飛び出しそうに跳ねている。
彼女は真っ赤な顔で口を真一文字に結んでいる。
そんな2人が対峙していると、本鈴が鳴り始めた。
「私も…好き…」
本鈴にかき消されるのではないか、という小さな声で彼女は言った。
本鈴が鳴り終わり、再び静寂が2人を包む。
「好きになってくれてありがとう」
彼ははにかんだ笑顔でそう答えた。
彼女の声はきちんと届いていたのだ。
真っ赤になって震える彼女の隣に、並んで立つ。
そっと手の甲が触れ、自然と握りしめる。
「…本鈴鳴ったけど」
恥ずかしそうにそっぽを向いた彼女が言うと、
「いいんじゃない?たまには」
2人は手を離すことはなく、初めて教室へ戻らなかった。
彼女は少し遅れてやってきて、いつも通り彼の隣に腰をおろした。
2人とも、極めて『いつも通り』を装っていた。
特に会話をすることもなく、お弁当を食べる。
いつも通り、だ。
食後はその場でぼんやり過ごす。
いつも通り、だ。
昨日のことなどまるで何もなかったかのように。
いつも通り。
そうこうしているうちに予鈴が鳴った。
本鈴まであと5分。
いつも通り、ならここで各自教室へ戻る準備をする所だが…。
今日は違った。
「昨日は突然ごめん」
先に口を開いたのは彼の方だった。
「驚いたよね、ごめん、忘れて。
でも、また屋上には来て欲しいんだ…。」
彼は俯き、まるで独り言の様に呟く。
「私の方こそ、ごめんなさい」
「腕振りほどいて逃げるなんて、酷いことして…」
「いや、それは俺が急に変なこと言ったからでしょ。」
「変なことじゃないよ!」
彼女は立ち上がり、つい大きな声が出てしまった。
「急…だから、びっくりしただけで…どうしたらいいか分からなくて…」
「そうだよね、びっくりしたよね、ごめんね」
「だから!謝らないでってば!」
彼女は更に大きな声で彼の言葉を否定した。
「午後の授業も、家に帰ってからも、あなたの事で頭がいっぱいだった。何も手につかなかった。
こんな経験初めてで、今日だってどうするのが正解か分からなかった。
あなたは何も悪いことしてないんだから、謝らないで!!」
彼女は早口で捲し立てるように、一息で言い切った。
真っ赤な顔をして、肩で息をしながら。
彼は彼女のそんな姿を見たこともないし、そもそも屋上での彼女しか知らない。
少し呆気に取られたが、自分と同じように悩んでくれていたことが嬉しくて、つい口元が緩んでしまった。
「何笑ってんのよ!」
「いや、笑ってるんじゃなくて…その、嬉しくて。
俺のことで頭がいっぱいだったなんて…」
「…っ!!」
「眠れなかったんじゃないの?昨日。俺も君もクマすごいもんね。
で、眠れない程考えてくれた答えは…出た?」
彼の心臓はバクバクと今にも飛び出しそうに跳ねている。
彼女は真っ赤な顔で口を真一文字に結んでいる。
そんな2人が対峙していると、本鈴が鳴り始めた。
「私も…好き…」
本鈴にかき消されるのではないか、という小さな声で彼女は言った。
本鈴が鳴り終わり、再び静寂が2人を包む。
「好きになってくれてありがとう」
彼ははにかんだ笑顔でそう答えた。
彼女の声はきちんと届いていたのだ。
真っ赤になって震える彼女の隣に、並んで立つ。
そっと手の甲が触れ、自然と握りしめる。
「…本鈴鳴ったけど」
恥ずかしそうにそっぽを向いた彼女が言うと、
「いいんじゃない?たまには」
2人は手を離すことはなく、初めて教室へ戻らなかった。
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