カゴの中のツバサ

九十九光

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#8-1

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 目が覚めると、ツバサはとある一室の中で、壁に背中を預けて立っていた。四方を真っ白な壁で覆われ、一台のスタンドライトが部屋の隅で光っているだけでほかに何もない、薄暗いフローリングの部屋だった。
 ツバサは状況が呑み込めなかった。
 いつものように物だらけの自分の部屋で普段通り眠りについたはずなのに、どうして自分はこんなところにいるのか。ここは一体どこで、何がどうなって自分は、こんなドアも窓も存在しない空間にいるのか。
 ツバサは必死になって頭を使って考えた。しかし頭を働かせれば働かせるほど、不安と恐怖心で志向が空回りしてしまう。そのせいで少年は、自分の足の裏に感じる、押し付けられたような冷たさに気づくのにさえ時間がかかった。
 足裏の冷たさを感じて、少年は少しだけ冷静さを取り戻した。そしてようやく、自分の身体全体に起きている変化を気づかされた。
 彼は今、何も身に着けていなかった。就寝時に確かに身に着けていた寝巻も下着も、どこかへ消えてしまっていた。
 見る人によっては少女に見間違える外見をした顔の下は、その皮と同じ色をした胴体がつながっており、日焼けによるシャツの跡もほとんど気にならないほど白かった。鎖骨や肋骨が浮き出た、クリーム色の華奢な身体は、宗教画の天使を、背を伸ばして細くしたような姿をしている。手足の爪は、本人が意識して手入れしたわけでないにもかかわらず、丁寧に磨かれた水晶玉のような光沢を放っていた。細身の腕と足、ふっくらとしたしたふくらはぎには、成熟した大人の証とも言える黒い毛は生えておらず、顔を寄せないと確認できないほど微細な産毛が代わりに生え、そのシルクとはまた違った素晴らしい肌触りを遠くから見ても安易に想像できそうだった。少年が無意識のうちに壁にあてがっている尻は、まさに未成熟な女子児童のそれそのもの。そして身体の前側の所定の位置には、彼が男であることを証明する性器が一つついていた。陰毛も生えていないほど未成熟なそれは、ほかの肌より色素が濃いということも一切なく、先端を滑らかな質感の皮膚が覆い隠していた。少年は思わず脚を内股にし、小鳥のように小さなそれを両掌で覆い隠した。
 ツバサは強い恥辱の心に襲われて、さらにその思考を混乱させた。
 彼の視線は自分の周囲に視線を送り続けるばかりで、スタンドライト以外何もない空間のあちこちを行き来していた。夢なら早く覚めてくれと、不安と恐怖が占拠した心の中で願い続けていた。
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