カゴの中のツバサ

九十九光

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♯11ー6

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 それに対して少女は、不機嫌そうに男の顔を見つめ返した。まるで二人だけの世界に入り込もうとした瞬間に横槍を入れられたことを、不快なことだと言いたそうな顔だった。横にいるツバサも、同じように気に入らなさそうな表情をしている。
 だが二人のそんな顔を見て、アイダの疑いは確信へと前進した。ほかの生徒間のトラブルこそあれど、今期に入って急速に成績を上げている優等生に悪影響を与えているのはこの少女だと、彼は自分の頭の中で結論付けた。
「身分証明できるものとか持ってないかな。小学生相手にこういうことをするのがまずいことだってくらい、分かって」
 アイダがここまで口にした、次の瞬間だった。
「ASA女子大学高等部二年の、駕籠加奈子です。ツバサ君とは同じ塾で知り合って、塾の時間まで千種区の図書館で勉強を教えてあげてるんです。もちろん、ツバサ君のお母さんの許可ももらってます。」
 堂々とした態度で、ほうれい線が目立ち始めたアイダの顔を見上げながら、駕籠加奈子はツバサの手を放すことなくそう告げた。『駕籠加奈子』と、修正液の上から楷書書きで名前が記された生徒手帳の身分証明のページを突き付け、その上に貼られた顔写真と『名古屋市千種区覚王山』と続く自宅住所も何の躊躇もなく公開した。
 このカナコの行動にアイダは混乱した。カナコのとった行動が、それだけ彼には想定外だったのだ。二人そろって職員室にまで連れ込み、じっくりと時間をかけて身分を聞き出すつもりでいたのに、彼女は狼狽する様子もなくあっさりと自分の正体を明かしたのだ。携帯端末を職員室に置いてきていたアイダが、持っていたメモ帳に名前と学校と住所をメモできる余裕まで与えてくれた。
 そんな彼を情けない存在として認知するように、カナコは追撃の言葉を続ける。
「分かってもらえたなら私たちもう行きますよ? それとも毎日迎えに来てるだけで不審者扱いする気ですか? 名誉棄損で訴えられるのはそっちですよ?」
 彼女は未成年らしくない高圧的な口調で、自分より倍近く年が離れている担任を脅しつけると、ツバサの手を握ったまま背中を向けて上社駅の方向へと歩いて行った。
「待て、ツバサ!」
 すぐにアイダは声を上げ、背中を向けたツバサ呼び止めようとする。
「その人は本当に君のお母さんも知ってる人なんだよな⁉」
 当然、ツバサがその質問に答えることはなかった。
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