Night Sky

九十九光

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醜い劣等感が 汚い嫉妬が 僕にー1

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 調整日になると、西後人陰は決まって外出をする。人と一緒にいるのが苦手な彼は、寮で人と過ごすのが苦手だからだ。

 彼の行き先は決まって近くの全国チェーンの古本屋だった。この日も人混みに紛れて目的地に向かう。

 その時だった。

「そこのお兄さん」

 後ろから女性に話しかけられた人陰は、体を跳ね上げた。振り返ると、絵に描いたような占い師風の服装をした20代くらいの女性が立っていた。

「な、なんですか!? きゅ、急に!?」

「そんなに怖がらないで。私は甘美坂美(カンビ バンビ)。見ての通りのしがない占い師です。あなた、訓練兵団関東支部第一部隊の人ですよね? テレビで見ましたよ~」

 怖がらないでと言われても、対人恐怖症の人陰には難しい話だった。おまけに相手は普通の格好をしていない。話のペースは坂美にあった。

「オイ、女」

 そこに人陰のユニゾンで、彼に指す影、ラストバトルが立体化して割って入る。

「相棒ガびびッテンダロ。こいつハ急イデルンダ。アッチ行ケ」

「影が意思を持って動くユニゾンですか! また異質なユニゾンですね~。ますます惹かれます~」

 坂美はラストバトルを押し退けて人陰に迫る。「なんでそんなに僕に惹かれるんですか……?」と人陰が尋ねると、彼女はこう答えた。

「ユニゾンが複雑で、異質で、強力だと、その人が辿る運命も複雑で異質で、周囲に与える影響も強力になる。占いの世界ではそう言われてるんです。だからあなたに惹かれたんです」

 きっぱりとした返答に、人陰は何も返せなかった。

「ぜひ、私の店であなたを占わせてください! もちろんお代は結構です!」

 坂美はそう言い終わる前に人陰の手を引いていた。ラストバトルはその手を無理矢理振りほどこうとするが、「手を出すな! 一般人だ!」という人陰の言葉で普通の影に戻った。

 人陰が案内された店は、小さな雑居ビルの一室を借り入れた、手狭な店だった。向かい合う形で座るテーブルには赤いテーブルクロスが敷かれ、隅にはタロットの束が置かれている。明かりは壁に吊るされたアンティーク調の電気式ランタンのみで、ギリギリ人陰のユニゾンが使えそうな空間だった。
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