Night Sky

九十九光

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遠い夏の思い出ー5

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「では早速、外に出て見回りに行きましょうかー」

 玉玲の指示で、一同は千代田区の街中を歩くことになった。この目立つ面子で外を歩くことに、少々の不安を残して。

「私たち兵士は国家公務員と同じ扱い。給料は階級が上がらない限り変化なし。歩合制じゃないので、忙しかろうが暇だろうが、迷子の手を繋いだだけだろうが地下鉄に撒かれたサリンの対処に負われようが、月の給料は階級でしか変化しません。夏と冬のボーナスは出ますけどねー。あ、この辺は教科書でやってますかー」

 玉玲はそんな説明をしながら、左手のメガネを当て続ける。

「それ、いつまでやってるんですか?さすがに他人のプライバシーを見境なく覗くなんて……」

 遊大が冷静に質問すると、「こうやって犯罪や自殺を考えてる人を真っ先に見つけて、それを止めるのが私の役目なんですー」と玉玲は語った。

 その次の瞬間だった。

 先頭を歩く玉玲が歩を止め、「野田さん、前へ」と指示を出す。遊大たちの目には、こちらに向かって走ってくる数名の人々が見えるだけだった。

 だが一同はすぐに彼女が歩を止めた理由が分かることになる。

 人々は逃げていたのだ。後方から迫り来る高さ5メートルほどの津波から。

「うわっ! なんでこんなところで波が!?」

「落ち着いてー。ユニゾンですー」

 驚く王子をなだめる玉玲。

 波の上には、巻き込まれた人々や車、そしてサーフボードに乗る数十人の男たちがいた。

「ユニゾン解放バンザーイ! 俺らは革命隊の意思を信じ、ユニゾンの自由行使を勧めるぜー!」

 サーフボードの集団の先頭を行く男が拡声器で叫んだ。

《宝島達知(タカラジマ タッチ) ユニゾン名:スーパーマーケット☆フィーバー……大量の水を生成し、操れる。その上に人や物を乗せて移動できる。》

 津波は車道も歩道も巻き込んで一向に向かって突っ込んでくる。その正面に、玉玲に指示された氷助が立ちはだかる。彼はアスファルトに右手を置くと一呼吸する。

 そして次の瞬間、車道は氷の床に覆われた。津波も凍りつき、達知たちの乗るサーフボードは動けなくなった。
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