Night Sky

九十九光

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遠い夏の思い出ー8

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 そんな日々の中で、太陽はとにかく兄を殺した人間を探し続けた。ピンクの髪の中学生くらいの人物を。その目はそのうち過敏になった。髪型も背格好も違うのにピンクの髪というだけで強く意識したり、中学生くらいでドクロのシャツやらデニムのホットパンツやらを身につけているだけで警戒したりした。

 そんな生活が数週間経ったある日の夜番。太陽は遊大とともに玉玲の引率でパトロールをしていた。この日も太陽は例の犯人を血眼になって探していた。

「遠夏さん、やっぱり最近おかしいですよ」

 ついにしびれを切らした遊大が、太陽に声をかける。

「……。おかしくなんかねえよ」

「おかしいですって。寮でも現場でも黙りっぱなしで辺りをキョロキョロして。何か起きても自発的に動けてないですし」

「……。元々俺はそんな感じだ」

「嘘ですって。本当の遠夏さんはもっと、こう……」

「言葉にしづらいんですかー? じゃあ以前の遠夏君を頭の中で想像してくださーい」

 2人の会話にメガネを作っている玉玲が割って入る。遊大は言われた通り以前の太陽を想像した。

「なるほどなるほどー。男連中に『この女優エロくね?』って言いながらスマホの画面を見せたり、ジャンプやマガジンのエロいマンガを仲間と読んだりー。それでついたあだ名がエロガッパとー」

 太陽は2人をキッとにらみつけたが、事実だっただけに特に何も言い返せなかった。

「無駄なことしてないで、さっさとこの辺見回りましょう!」

 太陽はむきになって前進し始めた。そこに玉玲が「遠夏君」と話しかける。

「確かに私たち兵士は公共の場でユニゾンを行使することを認められている人間です。そうでなくとも一般人でも、私有地でちょっと便利な生活をしたり、市街地で悪人に教われた時の正当防衛だったりでユニゾンを行使できます。でもその中に、アイツに復讐したい、誰かを傷つけたいって雑念が少しでもあれば、それはユニゾン犯罪を起こして刑務所に入れられた人間たちと変わらないのですよ。あなたのお兄さんで私の同僚だった遠夏月光君は、確かに人当たりのいい有能な人材でした。そりゃもう幼稚園児に憧れの対象にされたり、どっかのおばあちゃんからジュース一箱もらってきたりするような。でもそんな素晴らしい人の無念を晴らすという美談を持ってきても、ダメなものダメなのです」

「……! 心が読めるからって適当なことを」
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