Night Sky

九十九光

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かつては無邪気に笑えた人ー2

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「色々聞き取った結果、この兵士の記憶を忘れたらしいんだ」

 Wikipediaで説明されていた兵士は、次元光年(ジゲン コウネン)。1990年代に活躍した兵士だった。

「金や地位、偏りすぎた愛国心で兵士をするのはおかしい。自国民だけ、犯罪を犯していない人だけでなく、世界中の困ってる人、苦しんでいる人を、最低限の賃金で助けることこそ、兵士のあるべき姿だって語った兵士だとよ。有言実行のために、給料の半分と年2回のボーナスを全額児童養護施設に寄付したって伝説もある。1996年に右足切断の怪我を負って兵士を引退。その後政治家の給料削減とかを掲げて無所属で衆院選に出馬して惨敗してからは、瀬戸内海の離島で暮らしてると」

 王子のその説明を聞いて、「なんだかマンガやアニメのヒーローみたいな考えの人ですね」と言った遊大。「そう、それなんだよー」と小麦も食いついた。

「信也君はね、俺が目指すのはただの兵士じゃねえ。次元光年さんみたいに、どこの誰だろうと、困ってる人を助けるヒーローみたいな兵士になるんだ。って口癖のように言ってたんだよ。」

 そんな大事な人の記憶を忘れたとなれば、兵士への意欲も命をかける覚悟もごっそりなくなるのは当然。誰もがそれを悟った。

 颯天一人を除いて。

「顔上げろよ、引っ掻き野郎」

 迫ってきた颯天の言葉に信也が顔を上げる。だが颯天の目つきの悪さに、すぐに顔を伏せてしまった。

「兵士やるのに度胸なんているのかよ。あそこの陰キャ野郎を見ろ。どう見ても兵士に向いてるメンタルじゃないだろ」

 指を指された人陰が「ひどい言い草だ……」と小声で反論した。

 だがこの程度では信也の心は戻らない。

「でも西後君はやる時はやるし、ユニゾンも遠近ともに強力なものじゃないか……。僕のユニゾンは超接近しないと効果がないユニゾン……。とても怖くて実戦で使えないよ……」

 人陰もびっくりのネガティブ思考。まるで人が違った信也に、今度は雨が話しかける。
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