Night Sky

九十九光

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幸福なのは義務なんですー7

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「……。もしかして、物を買うのに金はいらないのか?」

 光が確認すると、男は「ええ」と言い、こう説明した。

「旧世界の人々はお金を巡って醜い争いや犯罪を何度も置かしたそうですね。時代や場所によっては、お金を貸し借りする仕事をしていた人たちが差別されていたとか。創造主様はそんなことが起きないように、お金を消したんですよ」

 一同は驚愕した。遊大がまさかそこまでするとは思ってもいなかったからだ。

「ちなみに物々交換もありませんよ。みんなほしいものをほしい時に、自販機やお店のような拝借していい場所から好きなように持っていくことができる。それがこの世界のルールです」

 男は追加で説明した。

「じ、じゃあアンタはなんで仕事をしてるんだ? そのルールだと、働かなくても生きていけるだろ?」

 光はサラリーマン風の男に率直な疑問をぶつける。男はにこやかにこう返した。

「営業の仕事に幸せを感じているからです。他部署が作った便利な製品を少しでも多くの会社に提供し、この理想郷をより良いものにする。それが私の幸せであり、この世界における報酬なのです」

 光は思わず身震いした。

 こうしてこの世界では買い物という概念すらないことが分かった一行。自動販売機で好きな飲み物を手に入れ、具体的にどこに向かうかを話し合った。

「あの、あそこなんてどうでしょう?」

 糸美が一件の店の場所を記した看板を指差す。ここから歩いて5分ほどのところにそれはあった。

 爆買いの殿堂 トン・キオオテ。店の真正面に近づくと、客引きのための店内BGMが聞こえてきていた。

「おい、クモ女。5分も歩かずとも道中にコンビニが何件もあったろ。なんでわざわざ5分も歩かせた」

 颯天が糸美を問いただす。

「そ、それはその……! そう! このお店は食料品から日用品、衣料品からバラエティグッズまで揃っている品揃え豊富なお店! この世界の事情を研究するにはいい場所じゃないですか!」

「素直にトンキ入りたかったって言え、このブルジョアクモ女!」

「だが多くの物品を見られるという点では利にかなっている」

「とりあえず入って物が手に入るか確かめようか。特に女性陣、替えの服がいりそうだし」

 文活と風雅の後押しで、12人は店の中へと入っていった。そして最後尾を行っていた人陰が気づいた。
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