Night Sky

九十九光

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「全肯定」に酔ってる勇者に反吐が出たー2

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「十二聖人様! 一体何をなさってるんですか!」

 群衆の一人が叫ぶ。そこに大量の小麦粉が降り注ぐ。そしてビルの上から颯天がミサイルを撃ち込み、粉塵爆発を引き起こした。

「アーッハッハッハー! よく聞け愚民どもー!」

 小麦がビルの上から叫ぶ。

「この世界でユニゾンを持ってるのは、創造主と私たち十二聖人のみ! 私たちは創造主に反旗を翻し! この世界の支配者になるのだー!」

 完全にアドリブで叫んだそのセリフは、群衆から笑顔で悲鳴をあげさせるのには充分だった。

「ハッハッハ! 見ろ! 人がゴミのようだ! ハッハッハッハッ!」

「いつまでも進歩しない猿どもめ! 滅するがいいわ!」

 同じビルの上の颯天も空気を読んで乗り、小麦とともにどこかで聞いたセリフを叫んだ。「なんて演技力……! 即興とは思えません……!」と感嘆する糸美。それに対して光は、「感心すんな。アイツらは単にバカなだけだ」と説明する。

 しかしこれだけの状況になっても、群衆から引き出せるのは悲鳴と逃走だけ。笑顔だけは消えなかった。こんなイレギュラーが起こっても笑顔を絶やさない、いや、笑顔でしかいられない世界なのかと一同は感じた。

 こうした破壊行為が30分ほど続いたところで、異変は起こった。

 逃げ惑う群衆が唐突に消滅したのだ。さらに空は赤くなり、あちこちに世界中の人々の様子を映し出す映像が点在し出す。

「ようやく引きずり出せたみてえだな……!」

 颯天が一点だけ白くなっている空を見上げる。その一点から、白髪で白い翼を持ち、上下白の服に金のネックレスをした、赤い目をした少年がゆっくりと降りてきた。

「遊大君……!」



 アスファルトの上に降りた遊大は、指を鳴らすと自身の背後に豪華な椅子を出し、それに深く腰かける。12人は距離は取りつつも彼のそばに近寄った。

「何も言わなくていい。みんなの要望は分かってる。灰色のように過去の歴史にとらわれて怒り狂う人間のいない、ほぼ元通りの世界に戻してほしいんだよね?」

「……! そう! こんな世界、私たちはうんざりなの!」

 小麦が遊大の質問に答えた。
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