Night Sky

九十九光

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白黒曖昧な正義のヒーローー3

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 フロリマールはぬいぐるみコーナーの動物のぬいぐるみに力を与え、一斉に信也に襲わせる。

 信也は右腕に尋常ではない痛みを覚えながらも、爪を猫のように軽く鋭くし、ぬいぐるみを引っ掻いて無力化していく。

「なんでそう抵抗するんだよ! 世界のことを思えば一刻も早く創造主様の世界を受け入れる! それが漢! 仁義ってもんじゃないのかよ!」

 全身ボロボロにされながらも抵抗をやめない信也に対して、フロリマールが叫ぶ。すると信也がこう言い返した。

「自分より強い奴に屈しただけのことを仁義だって!? ふざけるな! 本当の漢なら、自分の進む道くらい自分で決めろ!」

「……! お前に俺たちの何が分かる!」

 フロリマールは包丁のおもちゃを手に取り、ぬいぐるみを掻き分けて信也を襲う。包丁のおもちゃは本物同様の鋭さを手に入れ、信也の左肩に突き刺さる。

 しかし信也は引き下がらない。むしろ煽った甲斐があったと言わんばかりに爪をアリクイのように変化させる。

「遊大君に利用されてるかわいそうな人たち! それ以外何も分からない!」

 アリクイの爪はフロリマールを背中から胸にかけて貫通した。

 制御する者の意識が薄れ、ぬいぐるみたちが力を失っていく最中、フロリマールの脳内に知らない記憶が駆け巡る。

『将来はヒーローのような兵士になりたいです。次元光年のような兵士に』

『半田君。気持ちは分かるけど、君の成績と半端なユニゾンじゃ、地方の訓練兵団の低級部隊への配属になりそうだよ? 3年間を棒に振る可能性もあるけどいいの?』

『それでも構いません。努力で這い上がって見せます』

『配属されたのは三陸支部の第七部隊か。本当に地方の訓練兵団の低級部隊だったな。与えられる外部任務も、不祥事を起こした政治家や兵士の護衛ばかり。想像以上にひどい環境だ』

『3年だけど俺らいまだに第七部隊。どうせ高等部には行けねえだろうし、普通科高等部受ける準備するか。なあ、球次郎』

『俺は高等部も兵士科受けるつもりだ……! 今の日本には次元光年のような兵士が必要なんだ……! 金や地位に執着しない、ヒーローのような兵士が……!』

『本日は汚職疑惑のある某兵士の護衛任務をしてもらう! 一同、心して任務に当たるように!』

『メディアの皆さんも市民の皆さんも、そもそも偉そうにしすぎなんだよ。おらだづ兵士さ守ってもらってら立場のぐせに。税金ごまがした? してませんしてません。してらったどしても、こっちは命がげで日々皆さんを守ってらんだがら、許されで当然』

『……! ふざけるのも大概にしろ! この兵士の恥さらしが!』

『それで警護対象の兵士に半身不随の大ケガを負わせて少年院と。なんて素晴らしい経歴。君のような正義感溢れる若者は兵士には向かない。ユニゾン革命隊として、新たな時代を作り出すヒーローになるべきだ。僕と一緒に来よう』
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