イレブン

九十九光

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♯4ー10

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通りの無表情という、うっすらとした恐怖すら感じるものだった。

 それよりも気になったのは、内田の机の上にあったものだった。内田本人のあとに視線に入ったそれを見て、マジでこんなことする奴がいるのか、という驚きが私の中で顔を出した。

 紫っぽい色合いでニラかスイセンのように見える葉っぱの花(あとで調べてみると、アヤメの仲間らしい)が数本生けられた、見覚えのない白い地味な花瓶が置いてあったのだ。実物を見たのは生まれて初めてだったが、これが何を意味しているかくらいは理解していた。

「これ持ってきたの、誰」

 小林先生が、捕ってきた野鳥の首根っこをつかむようにして花瓶を持ち上げながら教室全体に質問する。ベランダ側に固まっていた女子が、ゴキブリを見つけてビビっているような雰囲気でざわつく。さっきまで内田を囲んでいた男子たちも、私たち(主に小林先生)から少し距離を置いて臨戦態勢に入った。

 口を開いたのは、小暮の後ろにいた湯本だった。

「花瓶は空介が持ってきて……。花は銀二が持ってきてたと思ったけど……」

 表情がこわばっているとはいえ、この状況でため口をきけるお前に感心するよ。

 そしてこの情報を受けて、小林先生の矛先が名指しされた二人に向けられた。

「石井! 浜崎! どういうことだ!」

 また女子の集団がざわついた。私はあちらを落ち着かせに行ったほうがいいかもしれない(行動には移れなかったけど)。

 小林先生のセリフには、浜崎が答えた。

「いや……、昨日の帰りに、空介がこういうことするって言ったから……。空介に頼まれて花持ってきました」

 緊張感を少しは感じるしゃべり方だったが、心の底から反省しているような言動ではなかった。

「石井! なんでこんなことした!」

 再び小林先生が叫ぶ。それに対する合いの手のように女子がざわつく。

 そして石井に至っては、怒られている恐怖心すら感じさせない口調で、こんなことを口にした。

「いやね、だってこいつ、死んでるようなもんじゃん。前の学校の人間、ほとんど死んでるくせして一人だけ生き残って。それでこっちでは、『自分は親父にケツ掘られましたー』とか、『前の学校でのあだ名はホモでしたー』とか、気持ちの悪いことばっかり言いやがって
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