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第2章 いじめ問題。

第12話 安藤くんの実態。

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 ぼくは、記憶を辿って橋を探した。
 見た目や川の様子は覚えている。

 今時現地に赴かなくても、ストリートビューを見れば該当する箇所は幾らでも探せる。近くの川を起点に、そこから該当する橋を探せば、特定はすぐだった。

「行こう」
「本当に、行くの?」
「うん。急がないと、安藤くんが死ぬ」

 電車を乗り繋ぐ事数回。
 まさかぼくが、安藤くんに会いに行く未来が訪れようとは。この展開を最初から予想していた奴がいたなら、サイコパス診断をお勧めするね。

 結愛の住む地域とは打って変わってマンション街だ。困ったな、安藤くんに会うと言っても、こっちから探すのはほぼ不可能に近いぞ。


「あら。その制服……」

 その時、買い物からいかにも帰ってきました、というような主婦の方がぼくの方を見て声をかけた。駅から離れているというのに、この反応をするという事は、

「確か安藤さんの所の息子さんも同じ制服を着ていたものだから」
「安藤くんをご存じなのですか?」
「ええ、前に警察に相談した事があるものだから」

 警察か。ぼくは結愛と顔を見合わせる。
 しかし妙なのは、彼を恐れたというような風貌に見えなかった事だ。警察沙汰なんて結構な大事だろうに、この人は安藤くんが怖くないのだろうか。

「君達は良二くんの友達? だったら聞いておいて欲しいのだけど」
「い、いやぼくは……」
「はい、友達です。安藤くんとは親友の仲で」

 結愛さん!? 事実と真反対じゃないか。
 何を捏造してくれてるんですか!

「(いいから合わせて)」

 何か未来を見たのだろうか。
 仕方ない、ここは結愛に合わせてやるか。

「そ、そうなんですよ~安藤くんが今日学校に来ていなかったものだから心配で」

 おえぇー、吐きそう。何言ってんだぼくは。

「学校に来てない? それは心配ねぇ」
「安藤くんについて、なにかご存知ですか?」
「うん……それがねぇ」

 少し迷ったような素振りを見せながら、辺りを見回すと結愛とぼくの耳に口を寄せて小さく呟いた。

「彼、親から虐待を受けていたらしいの」
「虐待……!?」

 結愛が顔を暗くする。
 ぼくもまた息を殺しながらも、凄く驚いていた。

「父親の方にどうも暴力癖があるみたいで、普段から良二くんに暴力を振るっていたらしいのよ。母親とも早くから離婚していたみたいだし、そんなだから誰にも心を開いていないようでいつも怖い顔をしていたり、そうかと思えば凄く暗く思い詰めた表情で学校から帰ってきていたりもしていたから」

 なんて事だ。この胸糞悪い感覚にようやく納得がいった。
 絶対悪なんて、やはりこの世界に無かったんだ。

「だから嬉しかったのよ。貴方達みたいな友達が学校にいるって知って。学校っていう唯一の拠り所があれば、きっと彼も元気に過ごしてくれると思うわ」

 クソっ。ぼくは強く拳を握り締めた。
 嗚呼そうだ、その唯一の拠り所を奪ったのはぼくだ。

 安藤くんは、日々溜まったストレスをぼくに殴り掛かる事で解消していた。常に金がなかったのは、普段から暴力を受ける父親しかいなかったからだ。バイトも無ければ、きっとその日を食いつなぐ金すらなかったに違いない。

 勿論、ぼくへの暴力行為やいじめ自体を許していい訳じゃない。でも、もっと穏便に解決する方法だってあったんじゃないか。安藤くんにこんな事情が隠されていたなら、やりようはいくらでもあったはずだ。

 なのにどうして、ぼくはこんな形で復讐を遂げたんだ。

 ぼくがこの手で……安藤くんを殺したみたいじゃないか。
 そんなの、殺人と変わらない。
 ぼくの超能力が人を殺したんだ!

「安藤くんがどこに行ったか知りませんか!?」
「今日は見てないわねぇ、まだ部屋にいるとか?」
「くっ……失礼します!」

 ぼくは頭を下げて走り出した。あの安藤くんが死を選ぶ今日、本当に家に引き篭もっていたりするだろうか。日々虐待を受けていた彼の家は、地獄そのものだったんじゃないか。

 学校にも行けない、家にも居れない。
 じゃああいつはどこに行く。

 終着点は分かっている、例の橋だ。
 この街をぶらついて、居場所が無いと悟った安藤くんは死に場所にあの橋を選ぶんだ。

 待っていろ、安藤くん。
 きみには山ほど文句が残っているんだ。

 せめてぼくの前で土下座をして、それからまた学校に来てもらわないと気が済まない。
 死んで逃げるなんて卑怯な真似、させるかよ!

「悠斗。待って!」
「なんだよ、早く安藤くんを見つけないと!」
「私……間違っていたかもしれない」

 シン、と静まり返る。
 その静寂とは裏腹に、結愛の心は乱れていた。

「私が、安藤くんを追い詰めちゃった」
「違う、結愛はぼくの為に」
「何度も何度も未来を見て。でもその度に、私は安藤くんが死ぬ未来を手繰り寄せていたって事……」
「結愛っ」

 ぼくは強く叫んだ。
 萎れてしまった花弁のような、弱々しく華奢な結愛の肩に手を当てて、それから強く抱き寄せる。

「なら探そう。今ならまだ、間に合うはずだ」
「ゆ、悠斗……っ」
「二手に別れよう。見つけたら携帯に連絡してくれ」

 ちゃっかりこの瞬間に連絡先を交換するぼく。
 こんな切羽詰った状態でも、策士だった事は、ある意味ぼくの頭の冷静さを表しているかのようだった。

「日没まであと一時間もない。それまでに見つからなければ、あの橋で安藤くんが来るのを見張ろう」
「分かった」

 結愛を慰め、再び安藤くんを探しに行く。
 彼の足取りを探る為、ぼくは近隣住民に聞き回った。
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