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第3章 通り魔事件。
第18話 通り魔の被害者。
しおりを挟む流れるままにその日は休校になった。
犯人がこの地域に潜伏しているかもしれないらしい。警察からの要請で、ぼくらはやむ無く帰路に着いた。
ニュースになっていた。
今日の深夜。日付が変わる頃。
麗奈は通り魔に刺されたらしい。
死の瀬戸際を彷徨う重症。運良く通行人が彼女が倒れている所を発見し、救急車を呼んだという。
いつだったか、朝のニュースでも丁度通り魔事件についての報道がやっていた。あの時は別の県の話だからと、軽く流して聞いていた。だがいざその事件が目の前に降りかかり、しかもその犠牲者に、幼馴染が選ばれたすると、ぼくの心はキツく締め付けられるような痛みに襲われた。
「麗奈が……刺された。そんなっ」
じゃあどうして、未来視は発動しなかった。
何なら今日も発動していない。
何故だ、なぜ発動しなかった。
ぼくがこんな力なんていらないと無意識の内にそう望んでいたからか。それはあまりにも卑怯ってもんだろうが。
もし麗奈が刺されるって未来が見えたのなら、結愛の時と同じようにきっと何とか出来た。刺されない未来を掴み取る事だって出来たはずだ。
母親同士でもやり取りがされていた。深夜から朝方にかけてまで、ずっと集中治療室で治療を受けていたそうだ。そして現在、麗奈は懸命に生き長らえている。その頑張りはまるで直接見たかのように、心の内側に熱く伝わって来た。
「悠斗もお見舞い行く?」
母親がぼくを誘った。
少し迷った、可能なら傍で見てやりたい。
「……」
だが本当にそれでいいのか?
ぼくに出来る事は他にないか?
もう一度でいい。
ぼくは未来が見たい。何故力を失ったのか。力を再度手に入れるとすればどうすればいいのか。
そうだ。まだぼくはやらなきゃいけない事がある。
「結愛……!」
ぼくは自分の部屋に入るとすぐに電話をかけた。
『ぼくだ。今いいか』
『今帰ったとこだけど、何か用?』
『……未来研究部の、次の活動が決まった』
『はい?』
何の為の未来研究部だ。
何の為の超能力だ。
この力は、人の為にあるのだろう?
ならやるべき事はひとつじゃないか!
『通り魔を捕まえる』
□■□
ここに来るのも何度目か。
少なくとも最近はあまり来ていなかった気がする。
インターホンを鳴らすと、用心深く玄関を開ける結愛の姿があった。ぼくがジェスチャーすると安心して扉を開けた。
「親がうるさくて。用心しろって」
「し過ぎるに越した事は無いよ。今のは結愛が正しい」
流れるように結愛の部屋へと向かう。
表情はお互いに固いまま、安藤くんの件の時以上の緊張感で作戦会議は始まった。
「今回の事件の犯人を、ぼくらの手で捕まえたい」
「正気で言ってるの?」
「ああ。正気だ」
逆にじっとしていられるかってんだ。
麗奈を傷付けられて黙っていられる気がしない。
何の罪もない子を、刺し殺そうとするなんて。犯人を突き止めるだけの力を、未来視は持っているはずなんだ。
「だから結愛の知恵と能力を借りたい」
「危ない……って言っても聞かないよね」
「勿論。ぼくはやる」
結愛は少し言葉を詰まらせて、
「どうしてそこまで必死なの。麗奈だから?」
「……さあ、どうだろう。でも今回だけは許せる気がしないんだ。自分でも不思議なくらいに」
パチンっと結愛が自分の頬を強く叩いた。そこから首をふるふると振って、邪念を捨て去るみたいに気分を入れ替えた。
「分かった。協力するっ」
「ほ、本当!?」
「ええ。まあ、ここまで言われちゃ私も止められない。でも、絶対に無茶はしない事。今回の相手は、列記とした犯罪者。しかも、殺人未遂。命優先だからね!」
「了解っ」
天下の結愛様を舐めてもらっては困る。
味方になれば百人力だ!
「で、まず話を整理しておきたいのだけど。警察からの情報は殆ど頼りにしないって方向性?」
「まあね。通り魔ってのは、犯罪の中でも結構捕まりにくい部類だ。なんてったって、衝動的なもので動機が無いんだから。捜査の線を一本予め消されているのと同じだよ」
「しかも時間は、深夜零時過ぎ。人通りの少ない路地でとなると、目撃者は絶望的、か」
「うん。監視カメラの存在を既に認知していたなら、殆ど詰みさ。足取りが掴めなくなるから」
「そこで未来視の出番って訳ね」
ぼくは首を縦に振る。
「ところで、ぼくの未来視がその日発動しなかったのは何故だと思う。もしかして、能力を失っちゃったのかな」
「ううん。多分それは違う」
結愛は冷静な眼差しでぼくを見据えた。
「前にも言ってたでしょう。悠斗の未来視は、寝ている間"その日"に起こる未来を"予知"する能力だって。つまりそれは、既に起こった過去を見る事はないって事だよ」
「未来……そうか。ぼくが寝たのは、十二時頃。その時は既に起きた出来事であって、未来視の条件に当てはまらなかった?」
そういう事だったのか?
そして、その後先生から知らされる事件そのものや、その後のニュースで見聞きした情報は、あくまで情報であって不幸な未来の"体験"ではない。
「もし、悠斗が明日から未来視を望めば、きっとその力は答えてくれる。だから力はまだ失われていない」
これは希望。
明日から反撃に転じるための唯一の武器だ。
結愛とぼく。どちらかの身に危険が及ぶ際の保険になる。
この調査に結愛を巻き込む事が、結愛への危険に繋がると理解しているつもりだ。だから、この力は強力なお守り。
結愛には、指一本触れさせるつもりは無い。
「明日からの予定だけど……」
「まずは現場に向かう。それから、通り魔の検討もなるべく付けたい。結愛の能力で、次の通り魔事件が起こる日程とか、繋がるヒントを出来るだけ拾うんだ」
「分かった。なんとかやってみる」
作戦開始だ。
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