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第5章 Sleeping Beauty
第43話 ツンデレヒロイン?
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結愛は病室のベッドで眠っていた。保健室で魘される彼女と何も変わらない、顔色は悪いまま、どこをどう治せば元通りの結愛に戻るのか、検討もつかない有様だ。
「我々はこの原因を究明する事を第一の目標としている」
「そうだな。実験に生じたエラーは早急にその原因を解明しなければ、今度はもっと重大なエラーを蓄積する事になる」
さて、ぼくに何か出来る?
それにはまず、オーバーヒートした原因を突き止めるのが先だ。それが結愛に埋め込まれたというチップの誤作動が、あるいは結愛自身が望んでそうしたのか。
それを明らかにするのが先になる。
「子供達の相手をしろと伝えた理由は分かるか」
「ある程度は。つまりはぼくが、子供達と触れ合う事で、そうしたオーバーヒートを引き起こす原因となりうるのか。それを調べたいって事なんだろ」
「さすがだな。外的要因によるならば、観察者天海結愛が対象に向ける感情こそが一番の原因だ」
ある意味で今からやろうとする事は、他の少女を実験台に乗せオーバーヒートを意図的に引き起こすという作業だ。その結果植物状態になろうと構わないと、冷徹に下す決断にぼくは寒気がした。
だがぼくは「やめろ」と言えない。
結愛が助かって欲しいと願うのは、ぼくも同じだからだ。
目的が一致しているから、ぼくはここに居られる。
それを忘れちゃいけないんだ。
□■□
という訳で、ぼくの日常パート2が始まった。
どこにでもいる普通の男子高校生から、謎の施設で普通の生活を強制される生活にシフト。周りには女の子ばかりのハーレム状態。夢の中でもこんな贅沢を考え付くはずもないのに、それが実際に起きているんだから案外現実は馬鹿に出来ない。
一人一人とコミュニケーションを取りながら、バイタルとかの指標を機関側が観測する。唯花も例外なく観測されていた。年齢層に差があると先程言ったが、特に中学生の相手はきつかった! 何故なら普段から男子がいない生活に慣れていたのだ。
赤ちゃんが最初に敵視するのは父親だとはよく言ったものだが、女子中にぼくが乱入するような状態には、相手もそしてぼくも少なからず抵抗があった。
願わくば、もっと穏便に生活したい。
「あんた、結愛の知りあい?」
話しかけて来たのは、中学生代表の明日香。
オシャレにちょうど気を使い始めたといった年齢だ。
結愛よりも少し長めの茶髪に、薄めのマニキュアを塗った爪。初雪のように白く細やかな肌、結愛に負けず劣らずの美人さんだった。
将来高校に通えば、マドンナコースは間違いない。
「そうだけど」
「セクハラとかしてたんでしょ。どーせ」
なんたる風評被害だろうか。
邪な感情を抱いた事なんて、一度や二度じゃない!
あれ、今ぼくは何を考えてたんだっけ。
「きみこそ、結愛とは仲良かったの?」
「まぁね。色々勉強とかも教えて貰ってたし。ファッションとかにも一際敏感で、雑誌を取り寄せては色んな服を着こなしてたわ。元々のスタイルの良さとかもあって、凄く似合ってた」
「そっか」
「だからこそ気になるのよ。どうしてあんたみたいな人と結愛が一緒にいたのかってね。たかが任務って感じじゃない。それは、定期報告の時に嫌って言う程分かった」
明日香は顔を顰めて嫌々ぼくを見つめた。
「定期報告?」
「はい、今日起きた出来事などを逐一機関に報告するように求められていました。悠斗さんに接触して以降は特に」
近くに通りかかった唯花が細く説明する。
「え、つまりどこまでの話を……」
「家で作戦会議と称して話し合った事とか。相談に乗るふりをしてデートに誘った事とか。それはもう嬉々として話していたそうですよ」
嗚呼恥ずかしい。結愛さん何してくれてるんですか!
「だから、この際どんな男かって直接この目で確かめてやろうと思っていたけど、まさかこんな冴えない男だったとはねぇ、ちょっとがっかりかも」
「ぐ……それは悪かったね」
そりゃあ結愛と比べたら、ぼくなんてダイヤモンドと石ころを比べているようなものだ。比べる対象がおかしいだけに、ぼくがくすんで見えるのも仕方ない!
「そうは言いますが、明日香さん。彼は意外と気が利く人間です」
唯花が意外な切り口からフォローする。
「例えば今日の朝、わざわざ彼が、棚の上に置いてあった瓶を椅子を持ち出してまで取り出したのは何故でしょうか」
唯花の言う通り、ぼくはインテリアの配置換えを行った。
しかしその話を持ち出すのはつまり……。
「誰かが棚に激突し、ちょうど下にいた明日香さんの頭上に瓶が落ちてくるといった未来を事前に見て、さりげなく未来を回避していたのですよ」
「そ、それ本当……?」
「凄いね、唯花。予知夢の内容については何も伝えてなかったのに。そりゃこの程度なら、ぼく一人で何とかなったし、それを他の人に話して騒ぎ立てる程の事じゃないとは思ったけど」
「私は天海結愛の代替要員。観察者として悠斗さんを見続けるのは、役割の一つですから」
本当は、間一髪明日香を助けるといったシナリオも考えていた。
だがそれはどうにも、予知夢を悪用しているように感じられて、辞めたのだった。もし救うのを失敗していたら、明日香や他の誰かが怪我をしたかもしれない。
予知夢を最大限利用するとはつまり、人知れず人助けをする。そういう事なのだ。
「感謝されなくてもいいの?」
「お礼を言われる為に助けるなんて、ダサいじゃないか。ぼくは未来視の能力を悪用したいとは思わない。ああそれと、計画的ラブコメは利用と言って欲しいね」
最初に結愛を助けたのは、悲劇を救うヒーローになりたかった訳じゃない。結愛と特別な関係になる事を想定していたものでもない。
最悪な未来しか見られない、それもその日に起こる事に限定された未来というあまりにも尖っていて救いようのない能力だけど、それを使い、たった一つの不幸を消せるならきっとこの能力は、この世で最も恵まれた能力の一つなのだ。
「……なにそれ」
やば、機嫌を損ねただろうか。
かっこつけたつもりはないんだけど……!
「なら代わりに礼を言っとく。ありがとう」
「え……なんで」
「礼はいらないって言うけど、だからって助けて貰っておいて、礼を言わないのは私の信条に反する。だから礼を言ったってだけ。勘違いしないでよね」
はっ、ツンデレ語録……!
可愛い、明日香可愛いよ明日香。
頬を染めてツンとする明日香を今日初めて可愛いと思った。
「我々はこの原因を究明する事を第一の目標としている」
「そうだな。実験に生じたエラーは早急にその原因を解明しなければ、今度はもっと重大なエラーを蓄積する事になる」
さて、ぼくに何か出来る?
それにはまず、オーバーヒートした原因を突き止めるのが先だ。それが結愛に埋め込まれたというチップの誤作動が、あるいは結愛自身が望んでそうしたのか。
それを明らかにするのが先になる。
「子供達の相手をしろと伝えた理由は分かるか」
「ある程度は。つまりはぼくが、子供達と触れ合う事で、そうしたオーバーヒートを引き起こす原因となりうるのか。それを調べたいって事なんだろ」
「さすがだな。外的要因によるならば、観察者天海結愛が対象に向ける感情こそが一番の原因だ」
ある意味で今からやろうとする事は、他の少女を実験台に乗せオーバーヒートを意図的に引き起こすという作業だ。その結果植物状態になろうと構わないと、冷徹に下す決断にぼくは寒気がした。
だがぼくは「やめろ」と言えない。
結愛が助かって欲しいと願うのは、ぼくも同じだからだ。
目的が一致しているから、ぼくはここに居られる。
それを忘れちゃいけないんだ。
□■□
という訳で、ぼくの日常パート2が始まった。
どこにでもいる普通の男子高校生から、謎の施設で普通の生活を強制される生活にシフト。周りには女の子ばかりのハーレム状態。夢の中でもこんな贅沢を考え付くはずもないのに、それが実際に起きているんだから案外現実は馬鹿に出来ない。
一人一人とコミュニケーションを取りながら、バイタルとかの指標を機関側が観測する。唯花も例外なく観測されていた。年齢層に差があると先程言ったが、特に中学生の相手はきつかった! 何故なら普段から男子がいない生活に慣れていたのだ。
赤ちゃんが最初に敵視するのは父親だとはよく言ったものだが、女子中にぼくが乱入するような状態には、相手もそしてぼくも少なからず抵抗があった。
願わくば、もっと穏便に生活したい。
「あんた、結愛の知りあい?」
話しかけて来たのは、中学生代表の明日香。
オシャレにちょうど気を使い始めたといった年齢だ。
結愛よりも少し長めの茶髪に、薄めのマニキュアを塗った爪。初雪のように白く細やかな肌、結愛に負けず劣らずの美人さんだった。
将来高校に通えば、マドンナコースは間違いない。
「そうだけど」
「セクハラとかしてたんでしょ。どーせ」
なんたる風評被害だろうか。
邪な感情を抱いた事なんて、一度や二度じゃない!
あれ、今ぼくは何を考えてたんだっけ。
「きみこそ、結愛とは仲良かったの?」
「まぁね。色々勉強とかも教えて貰ってたし。ファッションとかにも一際敏感で、雑誌を取り寄せては色んな服を着こなしてたわ。元々のスタイルの良さとかもあって、凄く似合ってた」
「そっか」
「だからこそ気になるのよ。どうしてあんたみたいな人と結愛が一緒にいたのかってね。たかが任務って感じじゃない。それは、定期報告の時に嫌って言う程分かった」
明日香は顔を顰めて嫌々ぼくを見つめた。
「定期報告?」
「はい、今日起きた出来事などを逐一機関に報告するように求められていました。悠斗さんに接触して以降は特に」
近くに通りかかった唯花が細く説明する。
「え、つまりどこまでの話を……」
「家で作戦会議と称して話し合った事とか。相談に乗るふりをしてデートに誘った事とか。それはもう嬉々として話していたそうですよ」
嗚呼恥ずかしい。結愛さん何してくれてるんですか!
「だから、この際どんな男かって直接この目で確かめてやろうと思っていたけど、まさかこんな冴えない男だったとはねぇ、ちょっとがっかりかも」
「ぐ……それは悪かったね」
そりゃあ結愛と比べたら、ぼくなんてダイヤモンドと石ころを比べているようなものだ。比べる対象がおかしいだけに、ぼくがくすんで見えるのも仕方ない!
「そうは言いますが、明日香さん。彼は意外と気が利く人間です」
唯花が意外な切り口からフォローする。
「例えば今日の朝、わざわざ彼が、棚の上に置いてあった瓶を椅子を持ち出してまで取り出したのは何故でしょうか」
唯花の言う通り、ぼくはインテリアの配置換えを行った。
しかしその話を持ち出すのはつまり……。
「誰かが棚に激突し、ちょうど下にいた明日香さんの頭上に瓶が落ちてくるといった未来を事前に見て、さりげなく未来を回避していたのですよ」
「そ、それ本当……?」
「凄いね、唯花。予知夢の内容については何も伝えてなかったのに。そりゃこの程度なら、ぼく一人で何とかなったし、それを他の人に話して騒ぎ立てる程の事じゃないとは思ったけど」
「私は天海結愛の代替要員。観察者として悠斗さんを見続けるのは、役割の一つですから」
本当は、間一髪明日香を助けるといったシナリオも考えていた。
だがそれはどうにも、予知夢を悪用しているように感じられて、辞めたのだった。もし救うのを失敗していたら、明日香や他の誰かが怪我をしたかもしれない。
予知夢を最大限利用するとはつまり、人知れず人助けをする。そういう事なのだ。
「感謝されなくてもいいの?」
「お礼を言われる為に助けるなんて、ダサいじゃないか。ぼくは未来視の能力を悪用したいとは思わない。ああそれと、計画的ラブコメは利用と言って欲しいね」
最初に結愛を助けたのは、悲劇を救うヒーローになりたかった訳じゃない。結愛と特別な関係になる事を想定していたものでもない。
最悪な未来しか見られない、それもその日に起こる事に限定された未来というあまりにも尖っていて救いようのない能力だけど、それを使い、たった一つの不幸を消せるならきっとこの能力は、この世で最も恵まれた能力の一つなのだ。
「……なにそれ」
やば、機嫌を損ねただろうか。
かっこつけたつもりはないんだけど……!
「なら代わりに礼を言っとく。ありがとう」
「え……なんで」
「礼はいらないって言うけど、だからって助けて貰っておいて、礼を言わないのは私の信条に反する。だから礼を言ったってだけ。勘違いしないでよね」
はっ、ツンデレ語録……!
可愛い、明日香可愛いよ明日香。
頬を染めてツンとする明日香を今日初めて可愛いと思った。
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