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第2章 神隠し事件
第12話 パーティー散策
しおりを挟む「じゃ、行ってくる」
「気を付けてね、グラスっ」
右手の薬指に付けられた指輪が日光に晒され燦然と輝く。これは昨日、ラケナリアが夜通しで作成してくれたらしい遠隔通信用魔道具である。
驚く程に精巧で重厚感のある逸品。使い捨て程度に考えていたのだが、想像を遥かに上回る出来だ。
「……なあ。ひとつ聞きたいんだが───」
後ろを振り返った時、既に玄関の扉は閉まっていた。まあいいか、また後で聞こう。
聞きたかったのは他でもない、その指輪が俺の指にぴったりと嵌った事だ。採寸でもしていないとここまで的確に作成するのは難しいはずなのだが。
これは偶然か?
まるで何年も前から付けていたような順応感。ぴったりと嵌るその指輪は身体と一体になった様で、不気味な程に精密だ。
俺は一度手を握りしめる。
切り替えて行こう。
□■□
早速俺は現地へと足を運ぶ。目指すは第13地区だ。
地区の移動は近ければ徒歩、遠ければ竜車での移動となる。俺が住まうのは第8地区の集合住宅街で、第13地区は一戸辺りの土地が大きい戸建て住宅が立ち並ぶ住宅専用地域だ。
俺が竜車から降り立つと、既に4人の影が見えた。
「すまない、プロテア。待たせたか?」
「全然。マジで今来たとこ。ウケる、カレカノっぽい」
「随分仲良くなったね、プロテアちゃん」
「僕は張り切りすぎちゃって30分も前からここにいるんだ実は。まあ、ルッスーは───」
「へへん、一時間前! 一番乗りだね!」
つまり俺が最後だった。皆んなやる気は十分だ。
「さて、この依頼を受ける上で効率的に進めるには、パーティー内でさらに分担して操作を進めるのがいいと思う。具体的には3人と2人チームで、被害者と加害者両方からアプローチを仕掛けようと思うんだ。皆どうかな」
スターチスは早速リーダーらしく意見を提示する。
「まあいいんじゃない? ただの迷子探しに5人ってかけすぎな気もしてたし。じゃあ私とコトちゃんと聞き込みに回ってくる。情報集めは大事だし」
「俺も参加する。男は二人別れた方が戦力の分散にもなるだろう」
「賛成、さすが気が利くねグラス。じゃあ僕はルッスーと村の周りを探索して、怪しい物が無いか探すとするよ」
「おっけー、行くぞっスターチス!」
「頑張ろうね、プロテアちゃん!」
□■□
探索が始まった。
俺、プロテア、コットンの3人チームは聞き込み班は、まず依頼者の自宅を訪ね情報を精査するというものだ。大抵の依頼者は精神的に参っている事も多く、依頼書の情報以外に有力な手掛かりを隠し持っているケースも少なくない。直接聞きだすのが最も効果的な捜査である。
同様な形状の戸建てが立ち並ぶ中、俺達が来るのを待ち構えていたように玄関先で出迎えてくれた女性がいた。表札には、『オルビス』の文字。三十代前半くらいだろうか、俺達の気配が近づいてくるのを感じて顔を上げた。
「お待ちしておりました、冒険者様」
「今回の一件を任された者で、私はプロテアといいます。神隠し事件の真相は、必ず私達が暴きますので奥さんは安心してください」
すると、その女性は何やら怪訝な表情で俺達を見ていた。俺達の素性が気になったのだろうか、俺とコットンは急いで名前を明かした。
「今回はこの三人で捜査に当たられると?」
「実は俺達以外にも二人、街の周辺の探索を既に始めていまして。すみません」
「いえ、あれこれと質問したのは私の方ですから」
こほん、と咳払いして一区切り付けたプロテアが、早速ですが……と口を開いた。
「事件について依頼書に書いた内容を含め、もう一度ご説明をお願いします」
プロテアがそう言うと、依頼者の女性は訥々と話し始めた。
「私には今年6歳になる子供がいたんですが……日が暮れる少し前、息子が庭で遊んでいたんです。私は晩御飯の支度があって少し目を離していたのですが、突然物音が消えて……」
「それで神隠し、という訳ですか。しかし、職員からは連続的な事件の可能性を示唆していました。何か心当たりはありませんか、些細な事でいいのです」
「……同様の件が既に二回ありました。レノア家のお宅の息子さんが5日前に、ヴァルガリス家の娘さんが同じく3日前に失踪したって……さすがにおかしいと思って捜索の依頼出した。ここまでは冒険者様にお伝えした通りです。しかし、それからしばらくして、庭に妙な物が落ちていたんです」
「妙な物?」
すると、その母親は懐から小さな紙切れを取り出した。何やら羊皮紙の端を雑に切ったような物に小さく数字が描かれている。
「『0.57895』……なにかの暗号か?」
俺は受け取ったメモを2人にも見せた。
「ただの数字の羅列に見えるわね」
「点もついてるし少数かな。でもこれだけじゃ何も分かんないね」
コットンは腕組みしながら唸った。
「ちなみに、このメモについて他の被害者のお宅には」
「先程連絡して確かめたのですが、実はそれと同様らしき物が存在していたと」
「……っ。ちなみにそのメモには何が書かれていたんですか」
「同じ数字です。不気味だと感じてそのままにしていたらしいのですが」
俺は、ふっと目を細める。
「事件の繋がりを示すには十分すぎる代物だ。なるほど、神隠し事件……犯人は同一人物とみて間違いはないようだ」
「でもこれが犯人が残したメッセージって事なら犯人は魔物じゃなく人族って事じゃん。まさか魔族がメモを残す訳ないし」
プロテアが顎に手を掛けて推論を述べる。確かに、メモ自体何を指し示した物か理解に苦しむが、これが何者か人族による仕業と断定するに足る情報に違いない。
「息子は……息子は無事に戻るんでしょうか。どうか、お願いします、息子を助けてください……っ」
そのまま、泣き崩れてしまったその母親の背中をコットンはゆっくりさすって落ち着かせていた。この母親は3人目の被害者。残り2人を当たって見なければ真相は分からない。
「とりあえず全員の被害者の家に行こう。数字の謎のヒントがまだ隠されているかもしれない」
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