35 / 43
最終章 最終決戦
第35話 二回目の『跳躍』は。
しおりを挟む俺は『クロノリング』の力を解いて、元の世界に戻った。そこは平穏な世界だった。俺の知る世界は消えていた。
ラケナリアは生きていた。
でも同時に俺は不安だった。ラケナリアがまた死ねばあの地獄が待っている。守らなくてはいけない。絶対に。この世の多くの犠牲が生まれる前に。
□■□
ラケナリアが死んだ。
もう、避けられない出来事だった。
人族と魔族の戦争が始まったのだ。
それはラケナリアが18歳になる時の事で、十分な力を蓄えた魔族側は人族側に宣戦布告をしたのだ。
ラケナリアは当然のように実戦投入された。でも彼女は人族を殺そうとしなかった。高度な魔法技術を駆使し、妨害に徹していた。当時は、なぜ人を殺さないのかと騒がれていた。
でも俺には分かった。
人族の冒険者。俺に助けられた彼女がどうして同じく人族の仲間を殺そうとするだろうか。彼女はそうして、戦死した。
俺はもう一度、世界を変える。
今度こそ世界を変えてみせる。
ラケナリアが死なない世界。
そして、人族と魔族が、共存する世界を目指す。
俺は指輪に魔力を込める。魔物を倒して得た魔力は既に大部分を消費してしまっている。だが時間を遡る程、使用する魔力は多くなる。これ以上の時間はかけられない。
俺はこうして、2回目の『跳躍』をした。
『跳躍』は、失敗した。
一つ目は『クロノリング』を無くした事。
二つ目は、記憶を失った事。
三つ目は、中途半端な時代に『跳躍』した事だ。
俺は断片的な記憶として、人族に親を殺されたという記憶だけが残っていた。その憎悪を募らせた結果、Fランク冒険者として燻り続けていた。
魔物と戦わない以上、身体は日に日に痩せ細る。刀での戦闘方法も既に大部分を忘れてしまっていた。
「女の子…………?」
俺は記憶を失った状態でラケナリアと出会った。
ラケナリアは、俺が無くしたはずの『クロノリング』を過去の思い出と照らし合わせて、大切に保管していた。
『クロノリング』に纏わる伝承は知らなかった。
当たり前だ、取り出したのは他ならぬ俺なのだ。
カトレアは、突然家から消えた姉を心配した。
人族の街へ向かう途中、例の遺跡に行き着いたのはほんの偶然だったという。
これが、俺が失っていた記憶の全てだ。
ラケナリアだけではない。
他の皆にも話した。
ラケナリアは勿論、カトレア、グロリオサ。スターチス、プロテア、コットン、ルスカス。俺がこれまで関わった全ての人に赤裸々に語った。
その上で協力を仰ぐ必要があったからだ。
「人族と魔族の戦争が、ラケナリアの死に直結する恐れが高い。そしてその逆もあり得る。ラケナリアが死ぬ事で戦争が起きてしまう可能性があるんだ」
話を聞き終えた皆は、ただ茫然としていた。
「色々信じられないわね……」
と苦笑いを零すプロテア。
「え、つまりラケナリアさんは魔王の娘!?」
その前提で驚くのも無理はない。
俺だって記憶を取り戻すまで、信じられなかった。
でも事実だ。俺は確かに思い出した。
彼女が引き金となって起きる戦争を。
「頭が痛いな……どこまでが本当の事やら」
「全てです」
グロリオサは頭を抱えた。
この世界線には存在しない記憶と記録。
これを無条件で飲み込むのも難しい。
「戦争を回避する為には、どうしたらいいんでしょう」
コットンは不安げに言葉を漏らした。
「リアが人族の領地にいる間、奴らが大袈裟に仕掛けてくる事はないだろう。ただ、猶予はそれ程残されていないと思う。最も確実なのは、リアの口から戦争を止め、昔のように手を取り合う未よう取り計らえればいいんだが」
リアという存在を、魔族側は無視できない。
彼女を中心として上手く働きかければあるいは……。
「わ、分かったわ。何とかしてみる」
「いや無理だろ、座ってろ」
ガタッと席を立つラケナリアを落ち着かせた。
そう簡単に行く話じゃないのは最初から分かってる。
「お兄さん、私はどうしますか」
「ここに留まり続けるのは危険だろうな。大方、リアの後を追ってここまで来たんだろ。大事になる前にすぐ魔界に帰るべきだ」
しゅんとカトレアは肩を落とした。共に死線を潜り抜けた仲間だ。こんな形で別れるのが純粋に嫌なのだろう。
「全て終わったら、またここに来たらいい」
「はい。そうですね」
「ふむ。ここで長く話し合っても、解決は見えてこないだろうな。一度解散し、各々有効そうな情報を集めて、また会議するのはどうだ、グラジオラス」
「はい。それがいいかと思います」
皆がいる。
俺は一人じゃない、皆を力を借りてリアを守る。
「では私は魔界側の情報を集めてみます」
「分かった。頼りにしてるぞ、カトレア」
カトレアは去っていった。
「リアはどうするんだ」
「うーん、『クロノリング』を色々触ってみるわ。実際、遠距離通信用の機能をこの前追加した事で、ある程度内部構造は把握しているの。王子と王女が組み上げたというその魔法を一から解析すれば、きっともっといい代物が出来ると思うわ」
燃費の悪さをどう改善するかね、と既に課題を見つけている様子。
さて、俺は何をしようかな。
俺に出来る事。それは頭を動かす事くらいだ。
実際に二つの未来を見て来たからこそ、分かる事もある。
例えば、イベリス。
何故彼女は、ラケナリアを殺そうとしたのか。そこには、俺達が知らない決定的な謎が隠されている気がした。
0
あなたにおすすめの小説
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
【運命鑑定】で拾った訳あり美少女たち、SSS級に覚醒させたら俺への好感度がカンスト!? ~追放軍師、最強パーティ(全員嫁候補)と甘々ライフ~
月城 友麻
ファンタジー
『お前みたいな無能、最初から要らなかった』
恋人に裏切られ、仲間に陥れられ、家族に見捨てられた。
戦闘力ゼロの鑑定士レオンは、ある日全てを失った――――。
だが、絶望の底で覚醒したのは――未来が視える神スキル【運命鑑定】
導かれるまま向かった路地裏で出会ったのは、世界に見捨てられた四人の少女たち。
「……あんたも、どうせ私を利用するんでしょ」
「誰も本当の私なんて見てくれない」
「私の力は……人を傷つけるだけ」
「ボクは、誰かの『商品』なんかじゃない」
傷だらけで、誰にも才能を認められず、絶望していた彼女たち。
しかしレオンの【運命鑑定】は見抜いていた。
――彼女たちの潜在能力は、全員SSS級。
「君たちを、大陸最強にプロデュースする」
「「「「……はぁ!?」」」」
落ちこぼれ軍師と、訳あり美少女たちの逆転劇が始まる。
俺を捨てた奴らが土下座してきても――もう遅い。
◆爽快ざまぁ×美少女育成×成り上がりファンタジー、ここに開幕!
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
異世界でまったり村づくり ~追放された錬金術師、薬草と動物たちに囲まれて再出発します。いつの間にか辺境の村が聖地になっていた件~
たまごころ
ファンタジー
王都で役立たずと追放された中年の錬金術師リオネル。
たどり着いたのは、魔物に怯える小さな辺境の村だった。
薬草で傷を癒し、料理で笑顔を生み、動物たちと畑を耕す日々。
仲間と絆を育むうちに、村は次第に「奇跡の地」と呼ばれていく――。
剣も魔法も最強じゃない。けれど、誰かを癒す力が世界を変えていく。
ゆるやかな時間の中で少しずつ花開く、スロー成長の異世界物語。
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる