【完結】魔族の娘にコロッケをあげたら、居候になった話。

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最終章 最終決戦

第35話 二回目の『跳躍』は。

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 俺は『クロノリング』の力を解いて、元の世界に戻った。そこは平穏な世界だった。俺の知る世界は消えていた。

 ラケナリアは生きていた。

 でも同時に俺は不安だった。ラケナリアがまた死ねばあの地獄が待っている。守らなくてはいけない。絶対に。この世の多くの犠牲が生まれる前に。

 □■□

 ラケナリアが死んだ。
 もう、避けられない出来事だった。

 人族と魔族の戦争が始まったのだ。
 それはラケナリアが18歳になる時の事で、十分な力を蓄えた魔族側は人族側に宣戦布告をしたのだ。

 ラケナリアは当然のように実戦投入された。でも彼女は人族を殺そうとしなかった。高度な魔法技術を駆使し、妨害に徹していた。当時は、なぜ人を殺さないのかと騒がれていた。

 でも俺には分かった。
 人族の冒険者。俺に助けられた彼女がどうして同じく人族の仲間を殺そうとするだろうか。彼女はそうして、戦死した。


 俺はもう一度、世界を変える。
 今度こそ世界を変えてみせる。

 ラケナリアが死なない世界。
 そして、人族と魔族が、共存する世界を目指す。

 俺は指輪に魔力を込める。魔物を倒して得た魔力は既に大部分を消費してしまっている。だが時間を遡る程、使用する魔力は多くなる。これ以上の時間はかけられない。

 俺はこうして、2回目の『跳躍ダイブ』をした。


跳躍ダイブ』は、失敗した。
 一つ目は『クロノリング』を無くした事。
 二つ目は、記憶を失った事。
 三つ目は、中途半端な時代に『跳躍ダイブ』した事だ。

 俺は断片的な記憶として、人族に親を殺されたという記憶だけが残っていた。その憎悪を募らせた結果、Fランク冒険者として燻り続けていた。

 魔物と戦わない以上、身体は日に日に痩せ細る。刀での戦闘方法も既に大部分を忘れてしまっていた。


「女の子…………?」

 俺は記憶を失った状態でラケナリアと出会った。
 ラケナリアは、俺が無くしたはずの『クロノリング』を過去の思い出と照らし合わせて、大切に保管していた。

『クロノリング』に纏わる伝承は知らなかった。
 当たり前だ、取り出したのは他ならぬ俺なのだ。

 カトレアは、突然家から消えた姉を心配した。
 人族の街へ向かう途中、例の遺跡に行き着いたのはほんの偶然だったという。


 これが、俺が失っていた記憶の全てだ。
 ラケナリアだけではない。

 他の皆にも話した。
 ラケナリアは勿論、カトレア、グロリオサ。スターチス、プロテア、コットン、ルスカス。俺がこれまで関わった全ての人に赤裸々に語った。
 その上で協力を仰ぐ必要があったからだ。

「人族と魔族の戦争が、ラケナリアの死に直結する恐れが高い。そしてその逆もあり得る。ラケナリアが死ぬ事で戦争が起きてしまう可能性があるんだ」

 話を聞き終えた皆は、ただ茫然としていた。

「色々信じられないわね……」

 と苦笑いを零すプロテア。

「え、つまりラケナリアさんは魔王の娘!?」

 その前提で驚くのも無理はない。
 俺だって記憶を取り戻すまで、信じられなかった。

 でも事実だ。俺は確かに思い出した。
 彼女が引き金となって起きる戦争を。

「頭が痛いな……どこまでが本当の事やら」
「全てです」

 グロリオサは頭を抱えた。
 この世界線には存在しない記憶と記録。
 これを無条件で飲み込むのも難しい。

「戦争を回避する為には、どうしたらいいんでしょう」

 コットンは不安げに言葉を漏らした。

「リアが人族の領地にいる間、奴らが大袈裟に仕掛けてくる事はないだろう。ただ、猶予はそれ程残されていないと思う。最も確実なのは、リアの口から戦争を止め、昔のように手を取り合う未よう取り計らえればいいんだが」

 リアという存在を、魔族側は無視できない。
 彼女を中心として上手く働きかければあるいは……。

「わ、分かったわ。何とかしてみる」
「いや無理だろ、座ってろ」

 ガタッと席を立つラケナリアを落ち着かせた。
 そう簡単に行く話じゃないのは最初から分かってる。

「お兄さん、私はどうしますか」
「ここに留まり続けるのは危険だろうな。大方、リアの後を追ってここまで来たんだろ。大事になる前にすぐ魔界に帰るべきだ」

 しゅんとカトレアは肩を落とした。共に死線を潜り抜けた仲間だ。こんな形で別れるのが純粋に嫌なのだろう。

「全て終わったら、またここに来たらいい」
「はい。そうですね」

「ふむ。ここで長く話し合っても、解決は見えてこないだろうな。一度解散し、各々有効そうな情報を集めて、また会議するのはどうだ、グラジオラス」
「はい。それがいいかと思います」


 皆がいる。
 俺は一人じゃない、皆を力を借りてリアを守る。

「では私は魔界側の情報を集めてみます」
「分かった。頼りにしてるぞ、カトレア」

 カトレアは去っていった。

「リアはどうするんだ」
「うーん、『クロノリング』を色々触ってみるわ。実際、遠距離通信用の機能をこの前追加した事で、ある程度内部構造は把握しているの。王子と王女が組み上げたというその魔法を一から解析すれば、きっともっといい代物が出来ると思うわ」

 燃費の悪さをどう改善するかね、と既に課題を見つけている様子。
 さて、俺は何をしようかな。



 俺に出来る事。それは頭を動かす事くらいだ。
 実際に二つの未来を見て来たからこそ、分かる事もある。

 例えば、イベリス。
 何故彼女は、ラケナリアを殺そうとしたのか。そこには、俺達が知らない決定的な謎が隠されている気がした。










  
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