【完結】魔族の娘にコロッケをあげたら、居候になった話。

TGI:yuzu

文字の大きさ
39 / 43
最終章 最終決戦

第39話 本当のラスボスは。

しおりを挟む
 
「母さん……」

 俺は母さんを知らなかった。
 知っているつもりで、何も知らなかった。

 母さんは冒険者だった。常に勝利を求めて、前へ前へと歩んでいく姿が好きだった。俺が冒険者という職に固執し続けられたのも、母さんの存在が大きかった。

 Fランク冒険者は正直に言えば、収入はあまり良くなかった。毎日最低限を食いつないでいけるだけの生活を続けていた。リーリアに毎日心配されていた。それでも、冒険者稼業を続けてこられたのは、母さんのおかげだ。母さんへの憧憬が今の俺なんだ。

 マンサク=ベルリオス。現存する、唯一のS

「あーつまんない、つまんない。どっちかが死ぬまで戦ってくれなきゃ、集まってくれた皆に悪いよね、母さん的には、グラスに殺して欲しかったけど……なんてね」

 母さんは壊れていた。
 この状況を傍から見て、面白がっていたんだ。

「どうしてだよ、母さん」
「何が。イベリスにそこの娘を殺させようと仕向けた事? それとも、人族と魔族が全面戦争に陥るように取り計らった事? まあ、それもグラスのせいで全部無駄になったけどね。まさか、育て親を殺すとは思わなかったわ?」

 殺させたのは母さんだろ。
 怒りが込み上げた。
 同時に悲しくもなった。

「母さん。俺は、なんて言われようと、俺のやるべき事を変えるつもりはない。リアが死なない未来を掴み取る。人族と魔族が、平和に暮らす世の中を勝ち取って見せる」
「堂々とした反抗期ね。貴方にグラジオラスという名前を与えたのは、別にこの為じゃないんだけど。魔王をぶっ殺してくれなきゃ、気が済まない」

 短く切り揃えられた黒髪をさっと払う。
 垣間見えた双眸は、冷たく冷え切っている。

 まるで、実の息子ですら殺すのを厭わないというように。

「どきなさい。じゃなきゃ殺すわよ」
「どかない。絶対に殺させない」
「ああ、そう。なら……纏めて」

 刀を構える。手加減をしようと考えるな。相手はSランク冒険者、あのグロリオサよりも遥かに強い、人族最強の存在だ。まして躊躇したら、簡単に首が斬り落とされる。

「今だけだ。協力しようではないか、グラジオラス」
「それが一番、みたいだな」

 魔王の横で俺は臨戦態勢を取る。
 まさか魔王と共闘する日が来るとは思わなかった。

 その横で、更にラケナリアが魔力を熾す。

「私も戦うわ」
「だめだ。後ろで見てろ」
「人の親子喧嘩にちょっかいをかけたのだから、私が関与しても問題ないわよね? 無理って言われても、私勝手に戦うから!」

 お前が関わらせたんだろうが。
 と鋭いツッコミを入れそうになって自重する。

 公開の面前でキスをするキス魔め。
 こうなったらラケナリアは梃子でも動かないぞ。

 くそ、なるようになりやがれ。

「【神装派・第六秘刀】《六神通》」

 思考を加速させ万が一に備える。
 この技は先祖代々伝わる技、母さんが使えない訳がない。刀を抜き、空気の質量が急激に増していく。凍てつくような視線に晒されて、息が苦しくなる。

「【神装派・】」

 第八秘刀!? 
 母さんの口から飛び出した言葉は正に絶望の宣告に等しかった。

 あの技はまずい。
 八つある奥義の最終の型。

 あれは物理法則を無視という次元を超える。
 、連続攻撃。

 一撃必殺級の技が、連続して八回飛んで来るんだぞ。
 どうする、どうする、どうする……!


 いや落ち着け。大丈夫だ。
 あの技が、技後硬直が長い上に、使用者に極度の疲労感を与える。人の理を踏み外す行為に、何一つ代償が無い訳じゃない。

 攻撃を八回防げれば、俺達が勝てる。
 空間が軋み揺れる。母さんの周囲から、黄金のオーラが立ち込めた。空気がざわめく。魔力が渦を巻いて押し寄せる。

 一撃目は、俺が止める!
 引き延ばされた時間の中、必死に刀を握った。

「来い!」
「《八咫烏》ッッ!!!」

 音を置き去りして、母さんが飛び込んでくる。
 最初の狙いは俺か、心底タチが悪い。

 俺を削り切った後に、魔族を殺す気なのか!

「はあああッ!」

 金属と金属が軋めき合う。研ぎ澄まされた一撃は、まるで大岩を切り裂くような抵抗感と重厚感、受け止めるだけで、全身の筋肉が痛みを放っていた。

 攻撃を何とか逸らした。
 俺は一旦取って距離を取る。

?」

 母さんが俺の背中にぴったりと張り付いていた。
 さっき通り過ぎて、距離を取ったはず。

 いや、違う。今のは物理法則の超越。
 慣性キャンセル。何も空間を文字通り『蹴って』、俺の背中から距離を詰めたんだ。最初の一撃はあくまで俺のバランスを崩すのが目的。

 本命は、二撃目かッ!

「させないっ」

 俺に『転移魔法』をかけた。
 ラケナリアの好援護のおかげで、二撃目は空振り。
 Vの字のターンで三撃目が迫る。

「魔法『眩惑ブラインド』」

 複数の像の生成。
 魔王の魔法によって囮が生み出された。

 《四桜吹雪》のような全体攻撃と違って、《八咫烏》は一撃必殺のタイプ。的を増やせば増やす程、相手の空振りを誘う事が出来る。

 剣技を止めるではなく、避ける作戦を取っていた俺の動きを、横から見ていた魔王が咄嗟に合わせてくれたのだ。流石の連携、流石の実力だな。

「【神装派・第七秘刀】《七雷斬》」

 四回目、五回目の斬撃を難なく躱せた。
 しかし、今の一連の行動で、作り出した像の動きに確かながら違和感を感じ取っただろう。その齟齬こそが、本物を見つける手助けになる。

 見逃している風をして、見逃されていただけだった。そんな可能性も十二分にあり得るのだ。俺は油断なく、俺に出来る最大の秘刀を繰り出した。

 六回目が来る。
 狙っているのは、また俺か……!

「魔法『稲妻エクレール』ッ!」

 カトレアの魔法が炸裂する。
 影響が及ばない後方まで退避しつつ、的確な位置から雷撃を放った。単なる放電ではなく、発生する磁力すらも見事操りきって、刀の軌道を強引に変えた。

 俺は動きを見抜いてから瞬時に退避する。

 後二回。

「『雷雲の空』『地を統べる刻』『下る制裁の槍』」

 カトレアの魔法詠唱。

「『漆黒の空』『絶望の彼方』『誘いし虚無の闇』」

 魔王の詠唱。

 詠唱魔法を瞬時に完成させる。それも、一秒で全て語り魔力を紡ぐかのような高速詠唱。時間を操作した強引な短縮技術だろうか。俺には分からない。

 ただ、世界最高峰の技術がそこにつぎ込まれている気がした。

「───魔法『雷槍グングニル』」
「───魔法『堕天ダークマター』」

 大地が抉れる程の全力火力。母さんが冷静に剣を振るった。豆腐を刻むかのように易々と魔法の中枢から斬り飛ばして、無力化する。爆発の中心地にいながら、無意味。

 正に、無敵の象徴。

 だが、たった一回。
 次を防げば理論上勝てるはずだ。

 本当にそうなのだろうか。
 あれ程の力をもっているなら、ここまで大袈裟な舞台を用意する必要があったのだろうか。魔王の対峙して、母さんが負ける未来が見えなかった。故に、母さんが狙う本当の結末を俺は知りたくなった。何を望んでいる、何をそこまで。

 関係ない。次を全力で止める……ッ

 来る。
 見え透いた直線的な攻撃。

 俺の刀が向かい入れる。
 ガツンと衝撃が脳を揺らした。

 死への執念が刀身から伝わってくる。
 母さんの目は、いつしか血走っていた。

 鼻や目から血を吹き出し、物理に抗っている。
 身体への負担がでかすぎるんだ。

「もうやめろよ、母さん!」
「う、うあああああっ」

 どうしてだ、どうしてそこまで!

「「あああああああああっ」」

 力と力をぶつけ合った。
 俺は弾き飛ばされそうになる。
 しかしその寸前で、魔王が後ろから助太刀した。

 剣と刀が、二人分の力となって、母さんの剣を押し出す。
 弾いた、今がチャンスだ。

「【神装派・第一秘刀】《一閃華》ッ!!」

 避けない。
 まだ避けない。
 まだ、避けなかった。

 無敵だと思っていた。
 でも、最後はただの人族だった。

 あまりもあっけなく、俺の斬撃は、母さんの脇腹に直撃した。ほんの牽制の一撃が、完全に勝負を決定づけた形となった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

【運命鑑定】で拾った訳あり美少女たち、SSS級に覚醒させたら俺への好感度がカンスト!? ~追放軍師、最強パーティ(全員嫁候補)と甘々ライフ~

月城 友麻
ファンタジー
『お前みたいな無能、最初から要らなかった』 恋人に裏切られ、仲間に陥れられ、家族に見捨てられた。 戦闘力ゼロの鑑定士レオンは、ある日全てを失った――――。 だが、絶望の底で覚醒したのは――未来が視える神スキル【運命鑑定】 導かれるまま向かった路地裏で出会ったのは、世界に見捨てられた四人の少女たち。 「……あんたも、どうせ私を利用するんでしょ」 「誰も本当の私なんて見てくれない」 「私の力は……人を傷つけるだけ」 「ボクは、誰かの『商品』なんかじゃない」 傷だらけで、誰にも才能を認められず、絶望していた彼女たち。 しかしレオンの【運命鑑定】は見抜いていた。 ――彼女たちの潜在能力は、全員SSS級。 「君たちを、大陸最強にプロデュースする」 「「「「……はぁ!?」」」」 落ちこぼれ軍師と、訳あり美少女たちの逆転劇が始まる。 俺を捨てた奴らが土下座してきても――もう遅い。 ◆爽快ざまぁ×美少女育成×成り上がりファンタジー、ここに開幕!

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

異世界でまったり村づくり ~追放された錬金術師、薬草と動物たちに囲まれて再出発します。いつの間にか辺境の村が聖地になっていた件~

たまごころ
ファンタジー
王都で役立たずと追放された中年の錬金術師リオネル。 たどり着いたのは、魔物に怯える小さな辺境の村だった。 薬草で傷を癒し、料理で笑顔を生み、動物たちと畑を耕す日々。 仲間と絆を育むうちに、村は次第に「奇跡の地」と呼ばれていく――。 剣も魔法も最強じゃない。けれど、誰かを癒す力が世界を変えていく。 ゆるやかな時間の中で少しずつ花開く、スロー成長の異世界物語。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

処理中です...