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終りと始まり
#02女神の間
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目が覚めると、真っ白な空間の真ん中に一人の女性が祈りを捧げているような姿勢で立っている。
腰の辺りまで伸びる、きれいなエメラルドグリーンの髪に整った顔、細身の体に白い布のような衣服をまとっている。
閉じた目が、スローモーションで送られるようにゆっくりと開かれていく。
目は吸い込まれそうなほど澄み切った薄めの水色で、自愛に満ちた表情を俺に向ける。
「最近ではめずらしい、不幸な最後でした……」
「次の世界では、あなたが幸せになれるよう。ささやかな祝福とささやかな願いを叶え、次の世界に新しい命を送り届けましょう」
正直わけのわからない状況で、状況の理解もできず、目の前の女性の美しさばかりに気をとられ、言葉を話すことを忘れてしまう。
「さぁあなたの望みを教えてください。大きな願いは叶えられませんが、ささやかな願いであれば次の世界で生まれたとき、幸せになれるよう祝福を与えましょう」
話についていけない俺を置き去りに、次々と言葉を重ねる女性、ようやく周りの景色を見れるくらいには落ち着いてきた俺は、恐る恐る今の状況を尋ねた。
まず目の前の女性は、自分のことを女神だと言い、俺は死んだということを語った。
まぁあの状態で生き残れる方が不思議だ。
ようやく痛みからも解放され、俺を殺した男への怒りが思い出したように沸いてくる。
そんな俺をみて女神は悲しそうな顔を一瞬見せ、話を続けた。
まず俺のいた世界では、担当している地区の神々が、死んだ人間に新しい命をあたえるそうだ。
生きていたときの善行と死んだときの不幸のバランスによって、次の人生を優遇してくれるらしい。
善行を積んだものは、次の世界でも、優遇されて命を与えられ、悪行を重ねれば、次の世界でも、かなり悪い環境からスタートすることになるとのことだ。
悪行をしてしまった人はずっと負のスパイラルじゃないかとも俺は思い女神に聞いたが、生れ落ちた環境の悪さ分を、次の世界では優遇してくれるらしく、特に悪行をしなければ、そんなことにはならないとのことだ。
俺を殺したやつの負のスパイラルを期待したが残念だ。非常に残念だ。
最近の日本では、かなり不幸な死だったようで、特に悪いこともしたことがない俺には、女神の曰く、ささやかな祝福という名の優遇処置をしてくれるとのことだ。
体が丈夫。
女性にもてる。
運動神経が良い。
商才に恵まれる。
お金持ちで家柄の良い家庭に生まれる。
ファンタジーな世界であれば、魔法の適性がある。
もちろんこの中のどれかであったり、すべてであるが若干の優遇であったりと、かなりランダムになるらしい。
努力しなければ、ほぼ無意味に終わることも多くあるそうだ。
さらにもうひとつ、ささやかな願いも聞き届けてくれるという。
さっきから「ささやか」と女神が言い続けるため、かなりケチな印象がついてきた。
神界じゃ流行語大賞にでもなってるのだろうか、などと馬鹿な考えをするくらいには落ち着いてきたようだ。
大半の人の願いは、祝福を気がつかないまま埋もれることを危惧し、金運をあげて欲しいや、女性にもてる、男性にもてる、などの無意識でも働く願いがほとんどだそうだ。
まぁそうだろうなと思っている間にも、女神は説明を続けていく。
次の世界は、ランダムで選ばれるらしく、元いた世界や、似たような文明の世界。SFのような世界や、龍だの魔物だのがいるような世界に選ばれることもあるらしい。
「説明は今の話ですべてです。さぁあなたの望む願いを教えてください」
真っ直ぐにこちらに目を向ける女神を尻目に、思考を回らせる。
まず相手がどのラインまでの願いをささやかと認め、叶えてくれるかを知りたい。
根っからの関西人の血が、交渉は無理を言ってみるところからだと叫んでいる。
商才が良くなるとか体を丈夫にするとかの願いをしても、その願いが叶っているという記憶がなければ、大概の才能は埋もれるだろう。
無意識かで働く、もてたいとか、金運を上げるなどの方が遥かにましかもしれないが、大きくは恩恵を得られないだろう。
しばらく考え、ほぼ天界の決まりごととか規定だとかで、無理と言われるだろうとわかっていながら、俺は一つ目の願いを決めた。
今まで生きてきた中で覚えた交渉の基本。
一度断らせたほうが次の要求が多少大きくても断りづらくなるという持論を元に。
あとは値下げ交渉のようにラインを下げていくやりかたに定め、で願いを次々と考えていく。
さすがに世界を征服する力だの、超人の肉体だのという馬鹿げた願いは、除外し。
このあたりなら通るかもしれないと期待できる願いを、三つ目の願いに用意する。
あれだけささやかを連呼された後だが、まず手始めに断られる前提で、一つ目願いを女神に望んだ。
「今の俺の意識や記憶をもったまま、次の世界での命がほしい」
次の要求は、ささやかな祝福とやらで優遇されている中の、お金持ちの家柄の良い家庭に生まれたいという願いだ。
これが叶えられれば、次の人生では大きなフライングをできると期待した。
まぁほぼ断られるだろうから、断られれば持論上、次の要求はさらに通りやすくなるはず……。
「分かりました。その願いこの女神セレスが叶えましょう」
「分かった。残念だが高望みしすぎたみたいだ、次の願いは……」
「……えっ?」
「このセレスの名の下に、この者に神聖なる」
「ちょっと待って!! いいの!? 本当にそんな願い叶えて大丈夫!?」
俺の焦った態度をみて、どうしたのかと女神は顔を傾けて困惑した表情をする。
「その程度の願いであれば、このセレス、たやすく叶えて見せましょう」
セレスという名前を聞いて、なぜ日本の担当がセレスなのかとか突っ込みたかったが、それよりもまず聞きたい。
「ささやかな願いじゃないとダメなのではないのですか?」
あれだけささやかキャンペーンをしていたのに、太っ腹すぎる……。
むしろ大丈夫かと思い問いかける。
「私はこれでも高位の女神、私の懐は、広大な草原のように広いのです」
「…………ではなぜささやかなどと私に説明したのですか」
「私には良くわかりませんが。願いを叶えていたら、ゼウスに怒られました。なんでも叶えすぎだと」
「何度か怒られたあたりで、極力戦争などがなく、餓死や飢饉などもほとんどないこの国に移され、せめて説明に、くどいぐらいささやかを使えと言われました。この国は謙虚な人間が多いから、言い続ければ無茶も言ってこないだろうからと」
「…………」
なるほど……。
この子は、アホな子なのか……。
いや、純粋な子だな。うん。そうに違いない。
ここでわざわざ俺の要求が無茶なんだよー、なんて教えてあげるのももったいないし。
ここはこの女神様の懐の広さとと慈悲深さに甘えておこう。
後俺は生まれ変わったらセレス様を崇拝しよう。うん。そうしよう。
「では、美しく聡明で、慈悲深きセレス様。この私めにささやかな祝福と、ささやかな願いを叶えることを、どうかお願い致します」
膝をつき、深く頭を下げる俺に、セレスは少し嬉しそうにほほを赤らめ、「感心感心! 私の信者なのかしら!」などとぼそぼそ呟いている。
うん。ほんと可愛いな。
機嫌がかなり良いのか、先ほどまでとっていなかった右手を天高く上げるポーズをとり、先ほどより声が大きく、高らかに祝福の言葉を紡ぐ。
「このセレスの名の下に、この者に神聖なる祝福を、そしてささやかなる願いを叶え、次の世界へと誘え!!」
セレスの右手の上に浮かんだ光の玉からまばゆい光が拡散し、直後天から光が降り注ぎ、俺の体が光の粒子のようになっていく。
「セレス様、ありがとうございます。二度目の世界で今度こそ俺は、最後の最後の瞬間まで、生きたい様に生き、幸せになる努力をし続けます。お元気で」
「あなたの幸せを深くお祈りいたします」
光の柱の間から見えるセレスの微笑みを最後の記憶に、一度目の人生は幕を降ろした。
ささやかな祝福が、神聖なる祝福という言葉だったことに気がついたものは、俺を含め誰もいなかった。
腰の辺りまで伸びる、きれいなエメラルドグリーンの髪に整った顔、細身の体に白い布のような衣服をまとっている。
閉じた目が、スローモーションで送られるようにゆっくりと開かれていく。
目は吸い込まれそうなほど澄み切った薄めの水色で、自愛に満ちた表情を俺に向ける。
「最近ではめずらしい、不幸な最後でした……」
「次の世界では、あなたが幸せになれるよう。ささやかな祝福とささやかな願いを叶え、次の世界に新しい命を送り届けましょう」
正直わけのわからない状況で、状況の理解もできず、目の前の女性の美しさばかりに気をとられ、言葉を話すことを忘れてしまう。
「さぁあなたの望みを教えてください。大きな願いは叶えられませんが、ささやかな願いであれば次の世界で生まれたとき、幸せになれるよう祝福を与えましょう」
話についていけない俺を置き去りに、次々と言葉を重ねる女性、ようやく周りの景色を見れるくらいには落ち着いてきた俺は、恐る恐る今の状況を尋ねた。
まず目の前の女性は、自分のことを女神だと言い、俺は死んだということを語った。
まぁあの状態で生き残れる方が不思議だ。
ようやく痛みからも解放され、俺を殺した男への怒りが思い出したように沸いてくる。
そんな俺をみて女神は悲しそうな顔を一瞬見せ、話を続けた。
まず俺のいた世界では、担当している地区の神々が、死んだ人間に新しい命をあたえるそうだ。
生きていたときの善行と死んだときの不幸のバランスによって、次の人生を優遇してくれるらしい。
善行を積んだものは、次の世界でも、優遇されて命を与えられ、悪行を重ねれば、次の世界でも、かなり悪い環境からスタートすることになるとのことだ。
悪行をしてしまった人はずっと負のスパイラルじゃないかとも俺は思い女神に聞いたが、生れ落ちた環境の悪さ分を、次の世界では優遇してくれるらしく、特に悪行をしなければ、そんなことにはならないとのことだ。
俺を殺したやつの負のスパイラルを期待したが残念だ。非常に残念だ。
最近の日本では、かなり不幸な死だったようで、特に悪いこともしたことがない俺には、女神の曰く、ささやかな祝福という名の優遇処置をしてくれるとのことだ。
体が丈夫。
女性にもてる。
運動神経が良い。
商才に恵まれる。
お金持ちで家柄の良い家庭に生まれる。
ファンタジーな世界であれば、魔法の適性がある。
もちろんこの中のどれかであったり、すべてであるが若干の優遇であったりと、かなりランダムになるらしい。
努力しなければ、ほぼ無意味に終わることも多くあるそうだ。
さらにもうひとつ、ささやかな願いも聞き届けてくれるという。
さっきから「ささやか」と女神が言い続けるため、かなりケチな印象がついてきた。
神界じゃ流行語大賞にでもなってるのだろうか、などと馬鹿な考えをするくらいには落ち着いてきたようだ。
大半の人の願いは、祝福を気がつかないまま埋もれることを危惧し、金運をあげて欲しいや、女性にもてる、男性にもてる、などの無意識でも働く願いがほとんどだそうだ。
まぁそうだろうなと思っている間にも、女神は説明を続けていく。
次の世界は、ランダムで選ばれるらしく、元いた世界や、似たような文明の世界。SFのような世界や、龍だの魔物だのがいるような世界に選ばれることもあるらしい。
「説明は今の話ですべてです。さぁあなたの望む願いを教えてください」
真っ直ぐにこちらに目を向ける女神を尻目に、思考を回らせる。
まず相手がどのラインまでの願いをささやかと認め、叶えてくれるかを知りたい。
根っからの関西人の血が、交渉は無理を言ってみるところからだと叫んでいる。
商才が良くなるとか体を丈夫にするとかの願いをしても、その願いが叶っているという記憶がなければ、大概の才能は埋もれるだろう。
無意識かで働く、もてたいとか、金運を上げるなどの方が遥かにましかもしれないが、大きくは恩恵を得られないだろう。
しばらく考え、ほぼ天界の決まりごととか規定だとかで、無理と言われるだろうとわかっていながら、俺は一つ目の願いを決めた。
今まで生きてきた中で覚えた交渉の基本。
一度断らせたほうが次の要求が多少大きくても断りづらくなるという持論を元に。
あとは値下げ交渉のようにラインを下げていくやりかたに定め、で願いを次々と考えていく。
さすがに世界を征服する力だの、超人の肉体だのという馬鹿げた願いは、除外し。
このあたりなら通るかもしれないと期待できる願いを、三つ目の願いに用意する。
あれだけささやかを連呼された後だが、まず手始めに断られる前提で、一つ目願いを女神に望んだ。
「今の俺の意識や記憶をもったまま、次の世界での命がほしい」
次の要求は、ささやかな祝福とやらで優遇されている中の、お金持ちの家柄の良い家庭に生まれたいという願いだ。
これが叶えられれば、次の人生では大きなフライングをできると期待した。
まぁほぼ断られるだろうから、断られれば持論上、次の要求はさらに通りやすくなるはず……。
「分かりました。その願いこの女神セレスが叶えましょう」
「分かった。残念だが高望みしすぎたみたいだ、次の願いは……」
「……えっ?」
「このセレスの名の下に、この者に神聖なる」
「ちょっと待って!! いいの!? 本当にそんな願い叶えて大丈夫!?」
俺の焦った態度をみて、どうしたのかと女神は顔を傾けて困惑した表情をする。
「その程度の願いであれば、このセレス、たやすく叶えて見せましょう」
セレスという名前を聞いて、なぜ日本の担当がセレスなのかとか突っ込みたかったが、それよりもまず聞きたい。
「ささやかな願いじゃないとダメなのではないのですか?」
あれだけささやかキャンペーンをしていたのに、太っ腹すぎる……。
むしろ大丈夫かと思い問いかける。
「私はこれでも高位の女神、私の懐は、広大な草原のように広いのです」
「…………ではなぜささやかなどと私に説明したのですか」
「私には良くわかりませんが。願いを叶えていたら、ゼウスに怒られました。なんでも叶えすぎだと」
「何度か怒られたあたりで、極力戦争などがなく、餓死や飢饉などもほとんどないこの国に移され、せめて説明に、くどいぐらいささやかを使えと言われました。この国は謙虚な人間が多いから、言い続ければ無茶も言ってこないだろうからと」
「…………」
なるほど……。
この子は、アホな子なのか……。
いや、純粋な子だな。うん。そうに違いない。
ここでわざわざ俺の要求が無茶なんだよー、なんて教えてあげるのももったいないし。
ここはこの女神様の懐の広さとと慈悲深さに甘えておこう。
後俺は生まれ変わったらセレス様を崇拝しよう。うん。そうしよう。
「では、美しく聡明で、慈悲深きセレス様。この私めにささやかな祝福と、ささやかな願いを叶えることを、どうかお願い致します」
膝をつき、深く頭を下げる俺に、セレスは少し嬉しそうにほほを赤らめ、「感心感心! 私の信者なのかしら!」などとぼそぼそ呟いている。
うん。ほんと可愛いな。
機嫌がかなり良いのか、先ほどまでとっていなかった右手を天高く上げるポーズをとり、先ほどより声が大きく、高らかに祝福の言葉を紡ぐ。
「このセレスの名の下に、この者に神聖なる祝福を、そしてささやかなる願いを叶え、次の世界へと誘え!!」
セレスの右手の上に浮かんだ光の玉からまばゆい光が拡散し、直後天から光が降り注ぎ、俺の体が光の粒子のようになっていく。
「セレス様、ありがとうございます。二度目の世界で今度こそ俺は、最後の最後の瞬間まで、生きたい様に生き、幸せになる努力をし続けます。お元気で」
「あなたの幸せを深くお祈りいたします」
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