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聖女と女騎士
第40話 ホーリーライトで大騒ぎ
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セシリアがアランたちの豪邸に来てから、さらに数日が経過した。
奇跡のクレソン湿布によって顔の呪いが完全に癒えた後も、アランの作る滋養満点の食事と、豪邸の快適な環境のおかげで、セシリアの体力は完全に回復していた。
それどころか、明らかに治癒の能力があがってきている。ラーナリア女神に捧げる祈りや神聖力の行使に違いはないはずなのに、顕現する奇跡の力が異常に高い。
ヒールを試す機会はなかったので、夜中にホーリーライトを試してみた。
これはダンジョンで便利な神聖魔法で、周囲数メートルを明るく照らすものだ。低レベルのゴーストやアンデットを浄化する力もある。
セシリアはいつものように「ホーリーライト」を唱える。
ピカァアアアアアア!
まるで小さな太陽のような光球が発生し、豪邸と周辺が照らされ、まるでそこだけ昼間のように明るくなった。
大騒ぎになった。
❖ 翌日
昨晩の騒動で大盛り上がりの朝食が終わった後、ブリジットが意を決したように口を開いた。
隣には、同じくハーブティーを静かに飲んでいるセシリアがいる。
「セシリア様。お身体の具合も、もうすっかり良くなられたご様子。つきましては……我々は一度、王都カイロネスへ戻り、国王陛下ならびに教会へ、魔神殿での一件をご報告申し上げるべきかと存じます」
ブリジットの言葉には、騎士としての責任感と、事態を放置しておくわけにはいかないという決意が滲んでいた。
セシリアも、カップを静かに置くと、ブリジットに向かって頷いた。その翠色の瞳には、聖女としての使命感が宿っている。
「はい、ブリジット。私もそうすべきだと思います。勇者様のこと、そして魔神の脅威について、一刻も早く伝えなければなりません。それに、教会にも……私の身に起きた奇跡について、ご報告しなくては」
彼女はそう言うとセシリアは、アランに向って、深く頭を下げた。
「アラン様……貴方様との出会いは、まさに女神ラーナリア様のお導きです。王都での報告が済みましたら、必ずや、改めてご恩を返しに参ります」
「え!? いや、別にそこまで気にしなくていい……しないでください」
アランは慌てる。単純に、厄介事が増えそうな予感がしたので拒否しただけなのだが、その予感が正しかったことがわかるのは、まだしばらく先のことだった。
「あらあら」
ブリジットが、そんなアランとセシリアのやり取りを見て、くすくすと笑う。彼女の表情は、ここに来た当初とは比べ物にならないほど柔らかくなっていた。
「ねえ、アラン! ブリジットと聖女様は、ここを出て行っちゃうの?」
話を聞いていたミミーニャが、少し寂しそうにアランに尋ねる。
アランの正妻の座を狙うライバル視しながらも、ミミーニャはこの二人の女性騎士と聖女に懐いていた。
「すぐに帰ってくるよな?」
トールがアランの隣にきて、袖を引っ張る。
「ああ、このお二人には大事な使命があるんだ。あんまり我儘言って困らせるな」
アランは泣きそうになっているトールを抱き上げると、空いた手を使ってその頭をくしゃくしゃと撫でる。
「聖女様に会いたければ、お前の方から会いに行けばいいさ。そうだろ?」
「でもでも……」
アランの言葉に「もっと大きくなってから」というニュアンスを感じ取ったトールが、困惑する。
セシリアがそんなトールの手を取り、目を細めて優しい声をかけた。
「トールさんなら、いつでも歓迎しますよ。私は王都の教会にいますので、会いに来てくださいね」
「う、うん。わかった……絶対、聖女様に会いに行く!」
「お待ちしてますね♪」
❖ 出発の準備
王都カイロネスへの出発日が二日後に決まり、セシリアとブリジットはその準備を進めていた。
「それにしても……」
準備を終え、セシリアは改めて自分が身を置いている豪邸の内部を見回した。ここ数日は、自身の回復とブリジットとの再会、そして子どもたちとの交流に心を奪われ、この建物の異常さについて深く考える余裕がなかったのだ。
ようやく落ち着いて周囲を観察する時間ができたのだが、見れば見るほど、その常識外れな様に驚きを禁じ得ない。
ラーナリア教会に仕えるセシリアは、各国の神殿建築にも多少の知識がある。しかし、この豪邸の技術レベルは、それらとは全く次元が異なっているように思えた。
「セシリア様、どうかされましたか?」
セシリアが呆然とリビングを見回していると、後ろからブリジットが声をかけてきた。
丁度、彼女も出発の準備を終えたようだった。
「ブリジット。改めて見ると、このお屋敷があまりにも常識を超えていると思いまして。しかも、こんな辺境の荒野に?」
セシリアが問いかけると、ブリジットは苦笑いを浮かべた。
「ふふ……。私も、未だに信じられません。ですが、アラン殿やレン殿にとっては、これくらいのことは造作もないことのようです。信じていただけないでしょうが、この豪邸は、アラン殿がレン殿に命じて一瞬で建てられたのですよ」
彼女は、レンがこの豪邸を出現させたときのことを思い出しながら、セシリアに言った。
「あの方が『必要だ』と認識されれば、このような奇跡は容易く起こる……そういう御方なのです、きっと」
ブリジットの言葉には、アランへの絶対的な信頼がこめられていた。
「奇跡すか……。私は信じますよ、ブリジット。やはり、アラン様は聖人様であられるのですね」
セシリアも、アランへの「聖人」という認識をますます強固にする。
(これほどの奇跡を日常とされているのに、ご自身は質素な小部屋で満足され、ただ黙々と畑を耕しておられる……。なんと欲がなく、高潔な……。きっと、女神ラーナリア様が、この乱れた世を救うために遣わされた方に違いありません……)
彼女の翠色の瞳は、尊敬と、そして少し盲目的ともいえるほどの熱を帯びて輝いていた。
奇跡のクレソン湿布によって顔の呪いが完全に癒えた後も、アランの作る滋養満点の食事と、豪邸の快適な環境のおかげで、セシリアの体力は完全に回復していた。
それどころか、明らかに治癒の能力があがってきている。ラーナリア女神に捧げる祈りや神聖力の行使に違いはないはずなのに、顕現する奇跡の力が異常に高い。
ヒールを試す機会はなかったので、夜中にホーリーライトを試してみた。
これはダンジョンで便利な神聖魔法で、周囲数メートルを明るく照らすものだ。低レベルのゴーストやアンデットを浄化する力もある。
セシリアはいつものように「ホーリーライト」を唱える。
ピカァアアアアアア!
まるで小さな太陽のような光球が発生し、豪邸と周辺が照らされ、まるでそこだけ昼間のように明るくなった。
大騒ぎになった。
❖ 翌日
昨晩の騒動で大盛り上がりの朝食が終わった後、ブリジットが意を決したように口を開いた。
隣には、同じくハーブティーを静かに飲んでいるセシリアがいる。
「セシリア様。お身体の具合も、もうすっかり良くなられたご様子。つきましては……我々は一度、王都カイロネスへ戻り、国王陛下ならびに教会へ、魔神殿での一件をご報告申し上げるべきかと存じます」
ブリジットの言葉には、騎士としての責任感と、事態を放置しておくわけにはいかないという決意が滲んでいた。
セシリアも、カップを静かに置くと、ブリジットに向かって頷いた。その翠色の瞳には、聖女としての使命感が宿っている。
「はい、ブリジット。私もそうすべきだと思います。勇者様のこと、そして魔神の脅威について、一刻も早く伝えなければなりません。それに、教会にも……私の身に起きた奇跡について、ご報告しなくては」
彼女はそう言うとセシリアは、アランに向って、深く頭を下げた。
「アラン様……貴方様との出会いは、まさに女神ラーナリア様のお導きです。王都での報告が済みましたら、必ずや、改めてご恩を返しに参ります」
「え!? いや、別にそこまで気にしなくていい……しないでください」
アランは慌てる。単純に、厄介事が増えそうな予感がしたので拒否しただけなのだが、その予感が正しかったことがわかるのは、まだしばらく先のことだった。
「あらあら」
ブリジットが、そんなアランとセシリアのやり取りを見て、くすくすと笑う。彼女の表情は、ここに来た当初とは比べ物にならないほど柔らかくなっていた。
「ねえ、アラン! ブリジットと聖女様は、ここを出て行っちゃうの?」
話を聞いていたミミーニャが、少し寂しそうにアランに尋ねる。
アランの正妻の座を狙うライバル視しながらも、ミミーニャはこの二人の女性騎士と聖女に懐いていた。
「すぐに帰ってくるよな?」
トールがアランの隣にきて、袖を引っ張る。
「ああ、このお二人には大事な使命があるんだ。あんまり我儘言って困らせるな」
アランは泣きそうになっているトールを抱き上げると、空いた手を使ってその頭をくしゃくしゃと撫でる。
「聖女様に会いたければ、お前の方から会いに行けばいいさ。そうだろ?」
「でもでも……」
アランの言葉に「もっと大きくなってから」というニュアンスを感じ取ったトールが、困惑する。
セシリアがそんなトールの手を取り、目を細めて優しい声をかけた。
「トールさんなら、いつでも歓迎しますよ。私は王都の教会にいますので、会いに来てくださいね」
「う、うん。わかった……絶対、聖女様に会いに行く!」
「お待ちしてますね♪」
❖ 出発の準備
王都カイロネスへの出発日が二日後に決まり、セシリアとブリジットはその準備を進めていた。
「それにしても……」
準備を終え、セシリアは改めて自分が身を置いている豪邸の内部を見回した。ここ数日は、自身の回復とブリジットとの再会、そして子どもたちとの交流に心を奪われ、この建物の異常さについて深く考える余裕がなかったのだ。
ようやく落ち着いて周囲を観察する時間ができたのだが、見れば見るほど、その常識外れな様に驚きを禁じ得ない。
ラーナリア教会に仕えるセシリアは、各国の神殿建築にも多少の知識がある。しかし、この豪邸の技術レベルは、それらとは全く次元が異なっているように思えた。
「セシリア様、どうかされましたか?」
セシリアが呆然とリビングを見回していると、後ろからブリジットが声をかけてきた。
丁度、彼女も出発の準備を終えたようだった。
「ブリジット。改めて見ると、このお屋敷があまりにも常識を超えていると思いまして。しかも、こんな辺境の荒野に?」
セシリアが問いかけると、ブリジットは苦笑いを浮かべた。
「ふふ……。私も、未だに信じられません。ですが、アラン殿やレン殿にとっては、これくらいのことは造作もないことのようです。信じていただけないでしょうが、この豪邸は、アラン殿がレン殿に命じて一瞬で建てられたのですよ」
彼女は、レンがこの豪邸を出現させたときのことを思い出しながら、セシリアに言った。
「あの方が『必要だ』と認識されれば、このような奇跡は容易く起こる……そういう御方なのです、きっと」
ブリジットの言葉には、アランへの絶対的な信頼がこめられていた。
「奇跡すか……。私は信じますよ、ブリジット。やはり、アラン様は聖人様であられるのですね」
セシリアも、アランへの「聖人」という認識をますます強固にする。
(これほどの奇跡を日常とされているのに、ご自身は質素な小部屋で満足され、ただ黙々と畑を耕しておられる……。なんと欲がなく、高潔な……。きっと、女神ラーナリア様が、この乱れた世を救うために遣わされた方に違いありません……)
彼女の翠色の瞳は、尊敬と、そして少し盲目的ともいえるほどの熱を帯びて輝いていた。
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