追放されたおっさん、辺境ダンジョンで【家庭菜園】始めたら、伝説の植物が育ちすぎて

帝国妖異対策局

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聖人辺境伯アラン

第61話 国王からの使者 

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 魔神殿からの帰り道は、行きとはまた違った意味で奇妙な旅路となった。

 レンの【認識阻害】スキルのおかげで物理的な危険は皆無であり、王国から支給された馬での移動は順調そのもの。アラン特製のレーションは相変わらず美味しく、体力・魔力ともに不足はない。

 だが、アランの心境は複雑だった。

 魔神という明確な脅威が去った安堵感はある。

しかし、あのあまりにも残念すぎる結末と、結局自分がほとんど何もしていない(怒鳴っただけだ)という事実が、どうにも腑に落ちない。

それでいて、ブリジットとセシリアからの尊敬と感謝の視線はますます熱を帯びており、それがひどく居心地が悪かった。

(……まあ、終わったんだからいいか。早く帰って畑の世話をしよう……)

 アランは思考を放棄し、辺境の拠点への帰還を急いだ。背中にしがみつくレンの柔らかさと温もりだけが、唯一の癒やしだったかもしれない。

――――――
―――


 途中、国王への報告に向うブリジットとセシリアと分かれ、レンと二人で辺境のダンジョンへ向かうことになったアラン。

 それから二週間後、ようやく白亜の豪邸へと無事帰還した。

 玄関では、ミミーニャたち子どもと、レンのセカンダリボディ四体が、満面の笑みで出迎えてくれた。

「アラーン! おかえりー!」 

 子どもたちは、アランたちに飛びつかんばかりの勢いで駆け寄り、再会を喜んだ。留守番中も、レンのセカンダリボディたちが世話をしてくれていたようで、皆元気いっぱいだ。

 畑も、セカンダリボディたちによって完璧に管理されていた。アランが手入れするよりも、むしろ状態が良いかもしれない……と気づいてしまい、アランは少し複雑な気分になった。

 ともあれ、無事に帰還できた。

 これでまた、静かな畑作りに没頭できる……はずだった。

 アランが拠点に戻り、旅の疲れを癒やす間もなく、それはやってきた。

 王都カイロネスからの、国王セティオス 1 世陛下の名を冠した、正式な使者の一団が、辺境の豪邸に到着したのだ。

 立派な装束に身を包んだ文官と、数名の護衛騎士。彼らはアランの前に恭しく跪くと、国王陛下からの書状を捧げ持った。

「辺境伯アラン・フォン・フィルモサーナ殿に、国王セティオス 1 世陛下より勅命にございます!」 

 文官の朗々とした声が、豪邸の玄関ホールに響き渡る。

 その内容は、アランの魔神討伐の功績を称え、正式に辺境伯の爵位を授与すること、そして、その叙爵式を王都にて執り行うため、アランには速やかに王都へ出頭されたし、というものだった。

「やっぱり、来たか……」

 アランは頭を抱えた。魔神殿で魔神が退去した時点で、こうなることはわかってはいたのだが、それにしてもこれほど早いとは予想だにしていなかった。

 レンは、アランの隣で無表情に頷いている。彼女にとっては、旦那様の地位向上と領地獲得は計画通りなのだろう。

 子どもたちも「王都!? 行く! アタシも行く!」「お城! お城に行けるの!?」 と大騒ぎだ。

 文官ははしゃぐ子どもたちにニッコリと微笑むと、

「もちろん、ご家族の皆様もお迎えするよう、国王陛下から直々に仰せつかっております。叙爵式の間、精一杯おもてなしさせていただきます」

「やったー! 王都だー!」 

「はぁ……わかった。だが、ちゃんと言うこときくんだぞ。王都は広いんだから、勝手に動きまわって迷子になったら、二度と会えなくなるかもしれないんだからな!」 

 そう言って子どもたちを脅かすのが、アランのできる唯一のストレス解消法なのであった。

 が、子どもたちにはまったく効いていなかった。

「はーい! アランから絶対に離れませーん!」 
 そう言ってアランの腕にしがみつくミミーニャ。

「わたしもアランさんの手、ずっと握ってますね」
 アランの手をそっと握るトリン。

「……わたしも手にぎる」
 アランの腕を掴むメメル。

「うーっ、ボクは……肩車して!」 
 そう言ってあっという間にアランの肩に跨るトール。

 そして――

「おい。お前は何をしているんだ、レン?」 

「はい。迷子にならないように、こうして旦那様にしがみ付いております」

 レンが、後ろからアランにギュッとしがみついていた。

 こうしていつものパターンで、アランの意志とは関係なく、どんどんと物事は進んでいくのであった。

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