追放されたおっさん、辺境ダンジョンで【家庭菜園】始めたら、伝説の植物が育ちすぎて

帝国妖異対策局

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聖人辺境伯アラン

第70話 辺境への帰還

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 王都カイロネスの滞在を終えて、辺境の拠点に戻ってきたアラン一行。

(……やっと、帰ってこられた……)

 見慣れた辺境の荒野の風景が車窓に広がり始めたとき、アランは心の底から安堵のため息をついた。

 アランが最初に泉に辿り着いてから、まだ半年にも届かないし、外に出ていることも多かったのだが、いつの間にかここは懐かしくて、自分が戻るべき場所になっていた。

 馬車が例の白亜の豪邸の前に到着すると、アランは真っ先に外へと飛び出した。

「んーっ! やっぱりここの空気が一番だ!」 

 アランは大きく伸びをし、荒野の乾いた空気を胸いっぱいに吸い込む。視線の先には、セカンダリボディのレンたちによって維持されている、愛しの畑が広がっていた。

「ただいまー!」 
「帰ってきたぞー!」 

 子どもたちも次々と馬車から飛び出し、久しぶりの我が家の敷地を元気に駆け回る。ミミーニャは、近くの木に駆け上り、トールは地面を転げまわって喜びを表現していた。

 玄関では、四体のセカンダリボディが、寸分違わぬ姿勢で一行を出迎えた。

「おかえりなさいませ、旦那様、皆様。留守中の異常、ありません」

 その報告に、アランはようやく肩の荷が下りた気がした。

 一方、アランたちに続いて馬車から降り立った文官のハロルドとその一行は、目の前の光景に呆然としていた。

 荒野の真ん中に忽然とそびえ立つ白亜の豪邸は、王都のどんな王侯貴族の屋敷よりも壮麗だった。

「ここが、アラン様の……お屋敷?」 

 出迎えたのが、レンと寸分違わぬ容姿をした四人のメイドというのも、異様といえば異様だった。

 レンと四人のセカンダリボディを交互に見比べるハロルドに、アランが咄嗟に考えた嘘を吐く。

「い、五つ子だった? みたいで……」

「い、五つ子ですか?」 

 ハロルドが、唖然とした表情で呟く。他の文官や従者たちも、信じられないといった顔で周囲を見回していた。

「ああ、まあ、そんなところだ。皆も長旅ご苦労だったな。部屋は……レン、適当に案内してやってくれ」

「承知しました。皆様、こちらへどうぞ。居住区画へご案内します」

 レンが案内を始めと、ハロルドたちは、まだ状況が飲み込めない様子ながらも、恐る恐る豪邸の中へと足を踏み入れていった。

(ふぅ……やっと落ち着ける……)

 ブリジットとセシリアに子どもたちを任せると、アランは、ようやく一人になり、愛しい畑へと歩き出す。

 土の匂い、作物の成長。これこそが自分の居場所だ。辺境伯だの、領地経営だの、そんなものはどうでもいい。

 アランは意気揚々と綺麗に整えられた畑に手を置く。

 この辺境エリア内では、【家庭菜園】は種も苗も必要とせず、かつて栽培したことのある作物なら自由に育てることができる。

 だが、アランは今回の王都行で、これまで育てたことのない種や苗を大量に仕入れていた。その中にはアランの知らない異国の珍しい品種のものも沢山ある。

 見知らぬ新しい種を使って色々な作物を育てることが楽しみ過ぎて、早くここに戻ってきたいとずっと思っていたのだ。

 アランは、種のひとつを土に埋めて【家庭菜園】スキルを発動する。
 
 すぐに芽が出てきた。

 その瞬間に感じた嬉しさで、アランはここ数年以来、最高の笑顔を浮かべていた。

――――――
―――


 辺境に帰還して数日。

 アランはようやく、心穏やかな日常を取り戻しつつあった。

 国王から派遣された文官ハロルドたちは、アランがレンに実務を丸投げしたことを受け入れ、レンと協力して、領地経営の計画策定やら物資の整理やらに勤しんでいる。

 彼らは相変わらずアランに過度な期待と敬意を寄せているものの、アランが畑仕事に没頭している限りは、あまり干渉してこないのが幸いだった。

 ブリジットとセシリアも、アランの「聖人」としての日常を邪魔すまいと気を遣ってくれているのか、あるいは王都での疲れが出たのか、比較的静かに過ごしている。

 子どもたちは、相変わらず元気いっぱいだが、セカンダリボディが遊び相手を務めてくれるので助かっていた。

(体力的に、鬼ごっこは地獄だからな……)
 
 アランは、久しぶりに心ゆくまで畑仕事に没頭できる喜びに浸っていた。

 瑞々しい土の感触、太陽の光を浴びて輝く野菜たち、そしてときおり吹き抜ける辺境の乾いた風。

 アランが求めていた静かで満ち足りた生活だ。

 そんな、アランにとって束の間の平穏を破る者たちが現れたのは、その日の昼過ぎのことだった。

「警告。領域境界付近に、複数の人型生命反応を探知。集団で当邸宅方向へ接近中」

 畑の脇で控えていたレンが、淡々と報告する。

「なんだか久しぶりだな。今度はなんだ? 野盗か? それとも……」
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