追放されたおっさん、辺境ダンジョンで【家庭菜園】始めたら、伝説の植物が育ちすぎて

帝国妖異対策局

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畑は我が命!

第92話 隠し事

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 ガイノスたちは、二度とこの辺境の地に足を踏み入れず、アランの前に姿を見せないことを誓い、この地を去って行った。

 そのときレンが、トボトボと歩き始めたガイノスたちの背中に向って、

「旦那様、私としてはやはり彼らを肥料にした方がよいかと……」

 と口にした途端、

「「「「うひぃぃい!」」」」
 
 と悲鳴を上げて、来た時と同じかそれ以上のスピードで、地平の彼方へ去っていった。

 こうしてガイノスたちが去った後、アランは畑の修復に取り掛かった。領民たちが総出で協力してくれたおかげで、荒れた畑はその日のうちに綺麗に整えられる。

 領民の中には元農家の人間も多く、アランは彼らから色々とアドバイスをもらって、畑や作物に関する知見を深めることができた。

 災い転じて福となる。

 大事な作物は失われてしまったが、そのおかげでこれからの【家庭菜園】による栽培は、これまで以上に素晴らしい作物を育てることができそうだった。

 作業が終わると、アランは皆を労うためにささやかな宴を開くことにした。

 宴と聞いて全員が歓声をあげる。

 ハロルドの指示の下、屋敷の全員と領民たち皆が協力して、庭での宴会の準備を始めた。

 その様子を見ていたアランと、その隣で静かに佇むレン。

「レン……」

 何気ない感じでアランがレンに声をかける。

「なんでしょうか。旦那様」

「今日の魔獣の件については、お前は俺に隠していることがある……」

 ビクッ!

 一瞬、レンの身体が震える。

 アランは前を向いて気づかないふりをしつつ、目だけを動かしてレンの表情を見た。

 レンの目がぱちぱちと瞬きを繰り返していた。

「……みたいだが、それについては何も聞かないことにする」

「……」

 なんとなくレンの額から冷や汗が流れてているような気がした。

「お前のことは信頼してるからな。本当に大事なことなら、お前は俺に隠したりしない。だろ?」 

 しばしの沈黙が続いた後、レンが頷く。

「はい。もちろんです。旦那様」

 その口元には、誰の目にも明らかな笑みが浮かんでいた。

 レンが、そっとアランの隣に寄り添い、アランの腕にしがみ付く。

 アランはその腕を振りほどくことなく、レンの好きなようにさせていた。

――――――
―――


 宴会が始まったのは夜になったが、屋敷からの明かりと魔鉱灯によって、庭は明るく照らされている。

 美味しい食事で皆が盛り上がっているのを、ひとりで楽しげに眺めていたアランの下へ、誰かが近づいてきた。

「……アラン様」

 振り返ると、そこには金色の髪を風になびかせた美貌の剣士、マレニアが立っていた。
 
 そのアメジストの瞳に見つめられて、思わずドギマギしてしまうおっさんアラン。

「マレニアさん。今日は助かったよ、本当にありがとうな」

 彼女の加勢のおかげで、魔獣の討伐が一気に早まっていた。彼女がいなければ、畑の被害はさらに広がっていたかもしれないし、いくらレンのお墨付きとはいえ、もしかすると子どもたちが危険な目に遭っていたかもしれない。

「礼には及びません。むしろアラン様の寛大なる処分に、感謝いたします」

 マレニアは、アランに向かって丁寧に頭を下げる。

「それに、アラン様のおかげで、私はあの者たちとの縁を、完全に断ち切ることができました」

 その声には、ガイノスたちへの決別と、そしてアランへの、新たな感情が込められているようだった。

 彼女は顔を上げると、真っ直ぐにアランを見つめ、続けた。

「つきましては……一つ、お願いがございます。アラン様」

「……なんだ?」 

「もし、もしご迷惑でなければ……しばらくの間、この地に滞在させていただくことは、お許しいただけませんでしょうか?」 

 マレニアは、少し緊張した面持ちで、しかしはっきりとした口調で尋ねた。

「私は、もう行く当てもありません。ガイノスたちを止められなかったせめてもの罪滅ぼしとして、私の剣をお役立ていただければ、と……」

「さっきも言ったけど、いくらでもここに滞在してくれて構わないよ。もし領民として、ここで暮らしたいというのなら、もちろん大歓迎だ」

「 ほ、本当ですか!? ありがとうございます、アラン様!」 

 マレニアの表情が、ぱあっと輝いた。安堵と、そして隠しきれない喜びが、彼女の美しい顔に満ち溢れる。

 そして、彼女は感激のあまり、衝動的にアランの体に、ぎゅっと抱きついてきた。

「ほへ!?」 

 突然の、柔らかく、そしてしっかりとした感触に、アランの思考は完全に停止する。金色の髪の甘い香りが鼻腔をくすぐり、アランの顔は、茹でダコのように真っ赤に染まった。

「………………」
「………………」

 その光景を、二対の鋭い視線が、じーーーーーっ、と見つめていた。
 
 レンとミミーニャである。

 レンの碧眼は絶対零度の光を宿しているように見えた。

 ミミーニャの金色の瞳には、嫉妬と対抗心の炎がメラメラと燃え上がっていた。

((またアランに色目を使う害虫が!))

 二人の心の声は、奇しくも完全にシンクロしていた。

「対象:マレニア。識別:美少女剣士。バスト: D 脅威度判定……戦闘能力 A +、旦那様への潜在的影響力 B 、に対する競合リスク…… A (要注意)。現時点では排除対象ではないが、継続的な監視と、必要に応じた牽制が……」

 レンが何やらおかしな解析作業に入っている。

 一方、ミミーニャの反応は、もっと直接的だった。

 金色の瞳には、メラメラと嫉妬の炎が燃え盛り、ぴんと立っていたはずの黒い猫耳は、不満を示すようにぺたりと伏せられ、黒い尻尾は怒りでバシバシと地面を叩いている。

「……ずるい! アランに抱きつくなんて、ずるいぞ!」 

 ミミーニャは叫ぶと、アランの空いている方の腕に、全体重をかけるように飛びつき、ぎゅっとしがみついた!

「アランはアタシのだもん! アタシが一番なんだから!」 

「ミミーニャ、あなたはまだ子どもです。旦那様に馴れ馴れしくしてはいけません」

 レンが、ミミーニャを牽制するように、静かに、しかし有無を言わせぬ口調で言う。

「むー! レンだって、いっつもアランの隣にいるくせに! アタシだって!」 

「私は正妻としての務めを果たしているだけです」

 そういうとアランの後ろに回り、アランの頭を胸の中に押し抱く。

「アタシが正妻! レンは二番目!」 

「否定。正妻は私です」

 いつもの正妻論争が始まりそうな気配に、アランは「もうやめてくれ……」と心の中で呻いた。

 こうして、嵐のような騒動の後、辺境伯アラン・タシュオルの元には、新たに美しき女剣士マレニアが加わることになった。

 それは、アランにとって貴重な「人手」の確保であると同時に、彼の周りで繰り広げられるハーレム(?)模様に、新たな火種が投下された瞬間でもあったのかもしれない。
 
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