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第一章 雨の夜、小鉢との出会い
第4話 ギルドの鉄槌
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~ 一カ月後 ~
王都カイロネスの冒険者ギルド。
その巨大な木製の扉を、今日もガイノスはわずかな躊躇いの後、押し開けた。
辺境からの屈辱的な帰路、そして仲間たちからの決別。その衝撃はまだ生々しく、彼の心を重く打ちのめしていた。
だが、それでも彼はここに来なければならなかった。辺境の失態で、装備だけでなく、馬や馬車まで失ってしまっていた。冒険者として喰っていくためには、地道にクエストを受けて稼いでいくしかない。
(辺境での一件は確かに失態だった。パーティが解散したのも痛い。だが、俺はBランク冒険者だ。これまでの実績がある。少し後戻りしただけだ)
そう自分に言い聞かせながら、ガイノスはギルドホールへと足を踏み入れる。
昼下がりのギルドは、いつものように活気に満ちていた。
依頼を探す者、ダンジョン帰りで装備の手入れをする者、仲間と酒を酌み交わし談笑する者。様々な種族、様々な身なりの冒険者たちが、思い思いの時間を過ごしている。
しかし、ガイノスがホールに入った瞬間、その喧騒が一瞬、静まったように感じられた。
いくつかの視線が、明らかに彼に向けられている。
好奇、嘲笑、そして侮蔑。かつて「ダンジョンシーカー」のリーダーとして羨望の眼差しを集めていた頃とは、全く違う種類の視線だった。
「……ちっ」
ガイノスは舌打ちし、周囲の視線から逃れるように、受付カウンターへと早足で向かう。
背中に突き刺さる囁き声が、彼のプライドを容赦なく削り取っていく。
「おい、あれ……ガイノスじゃないか?」
「ダンジョンシーカーの? 落ちぶれたもんだな……」
「辺境で何かやらかしたらしいぜ。辺境伯様に睨まれたとか……」
「パーティも解散したんだろ? 自業自得だな」
聞こえてくる言葉の一つ一つが、ガイノスの神経を逆撫でした。だが、彼は怒りを露わにすることはできなかった。
今の自分には、彼らに言い返すだけの力も、資格もないことを、嫌というほど自覚させられていたからだ。
受付カウンターには、見慣れた顔の受付嬢がいた。
彼女はガイノスの姿を認めると、一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに事務的な、そしてどこか冷ややかな表情を取り繕う。
「ガイノス様。ギルドマスターがガイノス様とお話がしたいとのことです」
その声には、以前のような敬意は微塵も感じられない。
「ギルマスが? わかった……」
ガイノスは、重い足取りで奥の部屋へと続く扉をくぐる。
部屋の中央には、大きな執務机があり、その向こうに、恰幅の良い、厳格な顔つきの男が座っていた。
メジャイ王国冒険者ギルドの長、ギルドマスター・バルガスだ。
彼の鋭い目が、入ってきたガイノスを射抜く。
「……座れ、ガイノス」
低い、威圧的な声だった。ガイノスは、言われるがまま、机の前の椅子に腰を下ろす。背筋に冷たい汗が流れるのを感じた。
「辺境伯のところに調査に向った職員が今朝戻ってきてな。リリアの報告とほとんど同じ内容を俺に伝えてきた。さて……改めてお前の言い訳を聞こうか。辺境での一件、そしてパーティ解散の件。すべて話せ」
バルガスは、テーブルに両肘をつき、指を組みながら、ゆっくりと切り出した。
その口調は穏やかだが、瞳の奥には厳しい光が宿っている。
「あれは……その、事故だったんだ! 予期せぬ魔物の襲撃で……」
ガイノスは必死に弁明を試みる。
「わかった。お前が辺境伯の領地で、許可なく古代の封印に触れ、危険な魔物を解き放った。違うか?」
「そ、それは……結果的にそうなったのは確かだが、わざとじゃ……」
「そして、その失態の責任を巡って仲間と対立し、有望視されていたパーティ『ダンジョンシーカー』を解散に追い込んだ。これも事実だな?」
バルガスの追及は、容赦がない。ガイノスは言葉に詰まる。
「……ガイノスよ。俺はお前に期待していたんだ」
バルガスは、溜息交じりに言った。
「Bランク上位の実力、リーダーシップ……Aランク、いや、いずれはSランクにだって手が届く逸材だと、そう思っていた。だが……」
彼は、失望の色を隠そうともせず、ガイノスを睨みつけた。
「今回の貴様の行動は、あまりにも愚かだ。冒険者として、いや、人としての信用を失墜させるものだ。もし辺境伯様が訴えれば、冒険者ライセンス剥奪は当然、王国への身柄引き渡しとなってもおかしくない事案なんだぞ」
「そ、そんな……!」
ガイノスは顔面蒼白になる。
「……だが、これまでの貴様の功績に免じ、そして……辺境伯様からの『寛大な処置を』という、信じ難い温情もあった。だから処分についてはある程度、軽減することに決まった」
バルガスは、苦々しげに言った。
「ガイノス。貴様を本日付けで、Cランクに降格する」
「なっ……!?」
「不服か? ならば、今すぐライセンスを返上し、衛兵に突き出してやろうか?」
その言葉に、ガイノスは完全に沈黙した。反論する術など、どこにもなかった。
「……以上だ。下がれ。そして、二度とギルドの名を汚すような真似はするな。次に何か問題を起こせば、その時は……分かっているな?」
バルガスは、冷たく言い放つと、もうガイノスに興味を失ったかのように、手元の書類へと視線を落とした。
ガイノスは、震える足で立ち上がり、ふらふらと部屋を出た。
ギルドホールに戻ると、先ほどよりも多くの視線が、彼に突き刺さる。
「おい、見たか? ガイノスの奴、顔面蒼白だぜ」
「受付嬢が言ってたぜ、あいつCランクに降格だってよ! あの元Bランクのエース様がなぁ!」
「ははっ! いい気味だ!」
嘲笑、侮蔑、憐憫。
かつて自分がアランに向けていたであろう感情が、今、全て自分に返ってきている。
ガイノスは、顔を上げることができなかった。
プライドは粉々に砕け散り、残ったのは、深い屈辱と、行き場のない怒りだけ。
耳に突き刺さる嘲笑に耐え、
ガイノスは、ただ床を見つめたまま、逃げるようにギルドを後にした。
王都カイロネスの冒険者ギルド。
その巨大な木製の扉を、今日もガイノスはわずかな躊躇いの後、押し開けた。
辺境からの屈辱的な帰路、そして仲間たちからの決別。その衝撃はまだ生々しく、彼の心を重く打ちのめしていた。
だが、それでも彼はここに来なければならなかった。辺境の失態で、装備だけでなく、馬や馬車まで失ってしまっていた。冒険者として喰っていくためには、地道にクエストを受けて稼いでいくしかない。
(辺境での一件は確かに失態だった。パーティが解散したのも痛い。だが、俺はBランク冒険者だ。これまでの実績がある。少し後戻りしただけだ)
そう自分に言い聞かせながら、ガイノスはギルドホールへと足を踏み入れる。
昼下がりのギルドは、いつものように活気に満ちていた。
依頼を探す者、ダンジョン帰りで装備の手入れをする者、仲間と酒を酌み交わし談笑する者。様々な種族、様々な身なりの冒険者たちが、思い思いの時間を過ごしている。
しかし、ガイノスがホールに入った瞬間、その喧騒が一瞬、静まったように感じられた。
いくつかの視線が、明らかに彼に向けられている。
好奇、嘲笑、そして侮蔑。かつて「ダンジョンシーカー」のリーダーとして羨望の眼差しを集めていた頃とは、全く違う種類の視線だった。
「……ちっ」
ガイノスは舌打ちし、周囲の視線から逃れるように、受付カウンターへと早足で向かう。
背中に突き刺さる囁き声が、彼のプライドを容赦なく削り取っていく。
「おい、あれ……ガイノスじゃないか?」
「ダンジョンシーカーの? 落ちぶれたもんだな……」
「辺境で何かやらかしたらしいぜ。辺境伯様に睨まれたとか……」
「パーティも解散したんだろ? 自業自得だな」
聞こえてくる言葉の一つ一つが、ガイノスの神経を逆撫でした。だが、彼は怒りを露わにすることはできなかった。
今の自分には、彼らに言い返すだけの力も、資格もないことを、嫌というほど自覚させられていたからだ。
受付カウンターには、見慣れた顔の受付嬢がいた。
彼女はガイノスの姿を認めると、一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに事務的な、そしてどこか冷ややかな表情を取り繕う。
「ガイノス様。ギルドマスターがガイノス様とお話がしたいとのことです」
その声には、以前のような敬意は微塵も感じられない。
「ギルマスが? わかった……」
ガイノスは、重い足取りで奥の部屋へと続く扉をくぐる。
部屋の中央には、大きな執務机があり、その向こうに、恰幅の良い、厳格な顔つきの男が座っていた。
メジャイ王国冒険者ギルドの長、ギルドマスター・バルガスだ。
彼の鋭い目が、入ってきたガイノスを射抜く。
「……座れ、ガイノス」
低い、威圧的な声だった。ガイノスは、言われるがまま、机の前の椅子に腰を下ろす。背筋に冷たい汗が流れるのを感じた。
「辺境伯のところに調査に向った職員が今朝戻ってきてな。リリアの報告とほとんど同じ内容を俺に伝えてきた。さて……改めてお前の言い訳を聞こうか。辺境での一件、そしてパーティ解散の件。すべて話せ」
バルガスは、テーブルに両肘をつき、指を組みながら、ゆっくりと切り出した。
その口調は穏やかだが、瞳の奥には厳しい光が宿っている。
「あれは……その、事故だったんだ! 予期せぬ魔物の襲撃で……」
ガイノスは必死に弁明を試みる。
「わかった。お前が辺境伯の領地で、許可なく古代の封印に触れ、危険な魔物を解き放った。違うか?」
「そ、それは……結果的にそうなったのは確かだが、わざとじゃ……」
「そして、その失態の責任を巡って仲間と対立し、有望視されていたパーティ『ダンジョンシーカー』を解散に追い込んだ。これも事実だな?」
バルガスの追及は、容赦がない。ガイノスは言葉に詰まる。
「……ガイノスよ。俺はお前に期待していたんだ」
バルガスは、溜息交じりに言った。
「Bランク上位の実力、リーダーシップ……Aランク、いや、いずれはSランクにだって手が届く逸材だと、そう思っていた。だが……」
彼は、失望の色を隠そうともせず、ガイノスを睨みつけた。
「今回の貴様の行動は、あまりにも愚かだ。冒険者として、いや、人としての信用を失墜させるものだ。もし辺境伯様が訴えれば、冒険者ライセンス剥奪は当然、王国への身柄引き渡しとなってもおかしくない事案なんだぞ」
「そ、そんな……!」
ガイノスは顔面蒼白になる。
「……だが、これまでの貴様の功績に免じ、そして……辺境伯様からの『寛大な処置を』という、信じ難い温情もあった。だから処分についてはある程度、軽減することに決まった」
バルガスは、苦々しげに言った。
「ガイノス。貴様を本日付けで、Cランクに降格する」
「なっ……!?」
「不服か? ならば、今すぐライセンスを返上し、衛兵に突き出してやろうか?」
その言葉に、ガイノスは完全に沈黙した。反論する術など、どこにもなかった。
「……以上だ。下がれ。そして、二度とギルドの名を汚すような真似はするな。次に何か問題を起こせば、その時は……分かっているな?」
バルガスは、冷たく言い放つと、もうガイノスに興味を失ったかのように、手元の書類へと視線を落とした。
ガイノスは、震える足で立ち上がり、ふらふらと部屋を出た。
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「おい、見たか? ガイノスの奴、顔面蒼白だぜ」
「受付嬢が言ってたぜ、あいつCランクに降格だってよ! あの元Bランクのエース様がなぁ!」
「ははっ! いい気味だ!」
嘲笑、侮蔑、憐憫。
かつて自分がアランに向けていたであろう感情が、今、全て自分に返ってきている。
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