ザマァされたおっさんのリスタート! 幼女無双と再起のダンジョン

帝国妖異対策局

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第二章 影断つ土と再起の芽

第44話(閑話:コルト)剝がれていくメッキ

「金色の陽光」に加入して数週間が経った。

 パーティは、コルトという優秀な回復役を得たことで、以前にも増して精力的に迷宮都市カイロネスのダンジョン探索を進めていた。

 低層階から中層階へ、そしてついに第六階層「重力回廊」にまで足を踏み入れるようになった。

 パーティランクも順調に上がり、リーダーであるラウルの名は、カイロネスの冒険者たちの間で急速に広まりつつあった。

「素晴らしいよ、コルトさん! 君のおかげで、我々の進撃は止まらない!」 
「コルトちゃんがいると、安心して戦えるもんね!」 
「この調子なら、Aランク昇格も夢じゃないわ」

 ラウルを始め、メンバーたちは相変わらずコルトを賞賛し、ちやほや誉めそやした。

 コルトも、自分がパーティに貢献できているという実感と、仲間たち(特にラウル)からの優しい言葉に、満たされた気持ちでいた。

 ……最初のうちは。

 探索が困難な階層へと進むにつれて、コルトはパーティの中に潜む歪みに、少しずつ気づき始めていた。

 リーダーであるラウルは、確かにカリスマ性があり、剣の腕も立つ。

 だが、成功体験を重ねるにつれて、その自信は傲慢さに変わっていた。そこまではガイノスと変わりないので、コルトも何も思うことはない。

 彼は「僕と、僕の美しい仲間たちの力を世に知らしめる!」 という言葉を頻繁に口にする。

 コルトの見立てでも、パーティの実力に見合わない高難易度の依頼や、情報が不確かな危険なルートを好んで選んでいるようだった。

 彼の頭の中は、名声と自己顕示欲しか詰まっていないことに、間もなくコルトも気がついた。

 さらに、ラウル以外の女性メンバーたち――エルフ弓使いのエリアーヌ、獣人戦士のヴァネッサ、ノーム斥候のピピ――の関係も、決してコルトが最初に感じたような「心優しい女性たちの集まり」ではなかった。

 彼女たちは皆、ラウルの気を引こうと、互いに牽制し合い、競い合っていた。

 ラウルの無謀な提案にも、「さすがラウル様!」「私たちならできます!」 と賛同し、戦闘では我先にと手柄を立てようとして危険な行動に出ることも少なくない。

 エリアーヌは、ラウルに良いところを見せようと、無駄に高度な弓技を披露して矢を浪費する。

 ヴァネッサは、持ち前の頑強さを過信し、防御を疎かにして敵陣に突っ込み、深手を負う。

 ピピは、斥候としての索敵や罠解除よりも、ラウルが喜びそうな宝箱や珍しいアイテムを見つけることを優先する。

 結果、戦闘での負傷者は絶えず、探索中のトラブルも頻発した。そして、その皺寄せは、全て回復役であるコルトへと集中した。

「コルトさん、お願い! ヒールを!」 
「コルトちゃん、早く! ヴァネッサが危ない!」 
「コルト、私の傷も頼むわ!」 

 戦闘のたびに、コルトは仲間たちの悲鳴に近い要求に応え、必死に回復魔法を使い続けた。

「コルトがいれば大丈夫!」 ――その言葉は、いつしか彼女への信頼ではなく、彼女の回復能力を当然のものとし、自分たちの無謀な行動を正当化するための免罪符となっていた。

 そのためコルトの魔力は、常に枯渇寸前だった。連日の無理な探索と回復魔法の乱発で、精神的にも肉体的にも限界が近づいていた。

「ラウル様……。申し訳ありませんが、皆さんの戦い方についてご相談が……」

 ある日の戦闘後、ついに限界を感じたコルトが意を決し、皆の無茶な戦い方について再考を願い出た。

 しかし、ラウルは困ったような、それでいてどこか冷たい笑顔で答えるだけだった。

「おっと、すまないね、コルトさん。皆にはちゃんと僕の方から言い聞かせておくから」

 もちろんラウルが、メンバーたちに言い聞かせるようなことはなかった。

 他のメンバーに直接訴えても結果は同じだった。

「ごめーん、コルトちゃん! 私、自分の分で手一杯でさー」※ピピ
「……魔力は回復役が自分で管理すべきだろう」※エリアーヌ
「……(無言で首を横に振る)」※ヴァネッサ

 コルトは、胸が締め付けられるような思いで、かつてのパーティのポーターのことを思い出していた。

 アランは、決して目立つ存在ではなかったが、常に冷静にメンバー全員の状態を把握し、誰かの魔力や体力が減ってくれば、適切なタイミングで回復薬を手渡し、「そろそろ休憩にしましょう」と進言してくれた。

 アランがいた「ダンジョンシーカー」で、コルトが魔力不足に悩んだことは一度もなかった。

(それにガイノスさんも、口はすごく悪かったけど……。私が無理をしている時は、ちゃんと気づいて、無理やり休ませてくれたりした。回復が遅いって怒鳴られたこともあったけど、それはちゃんと理由があって……)

 それに比べて、今のパーティはどうだろう。

 リーダーのラウルは、甘い言葉でコルトを励ますが、彼女の限界には全く気づいていないか、あるいは気づいていて利用しているかのどちらかだ。他のメンバーも、自分のことしか考えていない。

 強い不安と孤独感が、コルトの心を蝕んでいく。

 だが、彼女は何も言えなかった。

 ラウルに嫌われたくない。この居場所を失いたくない。

 その恐怖が、彼女の口を重く塞いでいた。

 ラウルの「君がいてくれるだけで、僕たちは勇気をもらえるんだ」という言葉だけを、必死に信じようとしていた。

 しかし、誤魔化しはいつまでも続かない。

 コルトの顔色が悪化し、目の下の隈が濃くなっていくのを、さすがにメンバーたちも気づき始めていた。回復魔法の詠唱にかかる時間は長くなり、回復量も明らかに落ちてきている。

「……ねぇ、ラウル。コルトちゃん、最近ちょっと回復が遅くなってない?」 

 ある夜、キャンプの焚火を囲みながら、ピピがラウルに耳打ちした。

「ああ、少し疲れているようだね。無理もないさ、彼女は我々のためにいつも懸命に祈ってくれているからね。本当に天使のようだ」

 ラウルは、わざとらしく大きな声でそう答え、コルトに優しい笑顔を向けた。「大丈夫かい、コルトさん? 無理はしないでくれたまえよ」

 その言葉に、コルトは「だ、大丈夫です!」 と無理に笑顔を作るしかなかった。

 他のメンバーは、そんなやり取りを冷めた目で見ている。

 もはや、コルトの不調はパーティ全体の懸念事項となりつつあったが、誰も根本的な解決――つまり、無謀な探索計画の見直し――をしようとはしなかった。

 そして、そんな限界ギリギリの状態にも関わらず、ラウルは高らかに宣言したのだ。

「よし、諸君! 我々の実力も十分に高まった! 次はいよいよ、第七階層『蠢く影の洞窟』に挑戦するぞ! この階層を突破すれば、我々『金色の陽光』の名は、カイロネス中に轟くことになるだろう!」 

 第七階層――そこは、Bランクパーティですら苦戦するという、危険な魔境。今の自分たちの状態で、そんな場所へ行くなんて、無謀にもほどがある。

「む、無理です、ラウル様!」 

 コルトは、思わず悲鳴に近い声を上げていた。「私の魔力も、もうほとんど残っていませんし……それに、第七階層は影の魔物が……!」 

 だが、ラウルはコルトの必死の訴えを、いつもの甘い笑顔で、しかし有無を言わせぬ力強さで押し切った。

「心配いらないよ、コルトさん。僕が君を守る。それに、君ほどの敬虔な神官の祈りなら、きっと女神ラーナリアも力を貸してくださるさ。そうだろ?」 

 他のメンバーたちも、

「ラウル様となら大丈夫!」 
「七層攻略なんて、ワクワクするじゃない!」 
「……私たちなら大丈夫……」

 と、ラウルの言葉に異を唱えるどころか、むしろ功名心や欲望に目を輝かせている始末だった。

 コルトの絶望的な予感は、誰にも届かない。彼女は、もはや抵抗する気力もなく、ただ青ざめた顔で俯くしかなかった。

 こうして、心身ともに限界寸前の神官を抱えた、虚飾に彩られたラウルのハーレムパーティは、自らの破滅が待つとも知らず、意気揚々と、迷宮のさらに深い闇――第七階層へと、その無謀な足を踏み入れていくのだった。

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