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第1話 誓い
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「良いですか! 萌拳はその技の性質から戦っている敵に欲情してしまうことがあるのは避けられません!」
そう言って師匠はくるりと回転してぼくの方へ向き直る。師匠の長く美しい黒髪とメイド服のスカートがふわりと宙を舞い、師匠の切れ長の瞳がキラリと光ってぼくの目をまっすぐに見つめていた。
師匠は左目の眼帯をぼくの鼻先まで近づけ顔をのぞき込む。この眼帯を通して心の底まで覗かれているような気がしてぼくは思わず身を引き締めた。
師匠の顔が近い。流れる黒髪からはふわっと良い香りが漂ってくる。
(はぅ……いい匂い……)
ぼくが一瞬ほわわっとしたのを確認すると、師匠は少し下がって話を続けた。
「良いですか!」
両足を開いて大地を踏みしめ、手をぼくの方にビシッと突き付けて師匠が叫ぶ。
「貴方が敵の乳を揉み! 股をさすり! あるいはどこぞをペロペロしようと! わたしはそのすべてを許しましょう。だがしかし!」
師匠が自分の股間にそっと両手を添える。
「貴方が生涯で入れる穴はここだけ! ここだけです! それだけは絶対に忘れてはなりません!」
「はい師匠!」
「では誓いなさい、ご主人様!」
「誓います! ぼくが生涯で入れるのは師匠のだけです!」
こうして――
ぼくは萌拳究極奥義「七女神拳」を師匠から伝授されたのだった。
~ ぼくのこと ~
ぼくは戦災孤児だった。
ミュラヌイ分離戦争で村ごと戦火に巻き込まれ、ぼくは両親を亡くした。
本当ならぼくもそこで死んでいたところだったけど、たまたま片道5時間の水汲みに出掛けていたため反乱軍の襲撃を免れることができた。
だけど両親がずっと昔に遠い地から村に移り住んでいたこともあって、ぼくには頼れる親戚はおらず、あちこちたらい回しにされた挙句、ミュラヌイ王国の孤児院に引き取られることになった。
とはいえ王立の孤児院は15歳で成人すると出なければならない。なのでぼくが孤児院にいたのは一年にも満たない。
「トモヤ、一緒に冒険者のポーターやらない?」
ぼくがこれからどうやって生活していこうかと悩んでいるとき、同じ孤児院出身で年上のミラクシャが声を掛けてくれた。
「猫人族のアタシでも十分やってける仕事だよ。トモヤは身体は小さいけど力があるから、きっとたくさん仕事がもらえると思う」
こうしてミラクシャの誘いを受けたぼくはポーターの仕事を始めた。毎日水汲みで山道を何時間も歩き続けていたこともあって足腰が強く、ぼくはこの仕事にとても向いていた。
「トモヤ! 今度ダンジョン三層まで潜るんだけど、また荷物持ち頼むわ!」
「はいっ!」
「その後でいいから、うちのパーティーの遠征についてきてくれ」
「はーい!」
すぐに地元の冒険者のお得意さんが出来て、ぼくはそこそこの収入を稼ぐことができるようになる。
この大陸全体で魔物の数が増え始めていることや、近場にダンジョンが複数発見されたこともあって、ぼくはずっとこの仕事で食べていける手ごたえを感じていた。
ぼくはがむしゃらに働き続け、16歳になったときにはミラクシャの所属するサマンサポーター商会の寮を出て、町外れにある小さな空き家で一人暮らしを始めることができるようになった。
~ 出会い ~
「きゅぅぅぅぅぅ」
ある日、仕事を終えて家に帰る途中、ぼくの耳に妙な音が入ってきた。音の聞こえた方向を見ると、通りのど真ん中に黒い塊が転がっているのを見つけた。
「きゅぅぅぅぅぅ」
日が落ちかけていてよく見えなかったが、どうやらその塊は人間のようだった。それは黒い服を来て膝を抱えて横たわっている。
正直、かなり怖かった。
そばを通りかかる人々も塊から距離を取って歩いている。
「きゅぅぅぅぅぅ」
ぼくも見ぬふりして通り過ぎようと思ったけれど、その音を聞いて思わず足が止まってしまった。
「きゅぅぅぅぅぅ」
「お、お腹が空いてるの?」
コクコク。
黒い人がうなずく。
戦災孤児時代の飢えを経験しているぼくは、お腹を空かせている人をどうしても見過ごすことができない。これはもうぼくの性分になっていた。
といっても、食べ物をあげようにもぼくは手ぶらで何も持っていない。
「きゅぅぅぅぅぅ」
「……あんまり大したものは出せないけど、うちに来る?」
コクコク。
黒い人がうなずいたので、ぼくは黒い人を荷物ごと抱え上げた。
「えっ!?」
抱き上げた瞬間、意外に軽かったのと、柔らかかったのと、そして顔は汚れているけれど美しい顔立ちをしているのとで、ぼくは黒い人が女性だということに気が付いた。
あれ?
もし、今この黒い人に叫ばれたりしたらぼく犯罪者になるのでは!?
そんな不安が脳裏をよぎる。
「あわわわわ! だ、大丈夫、ちゃんと食事を出すからね!」
黒い人が驚いている間になるべくこの場から離れようと、ぼくは全力の小走りで家に向って駆け出した。
~ ぼくの家 ~
「むしゃむちゃ、ぱくぱく、むしゃぱく、ごっくん、ぱくぱく」
作った料理を黒い女性が片端から食べていくのを、ぼくは呆然と見ていた。
「あっ……それぼくの……」
「ぱくぱく、むしゃぱく、ごくごく、ぱくぱく」
どうやら彼女の黒い服はメイド服のようだ。以前、荷物を運んだ貴族のお屋敷で見たことがある。
左目に眼帯をしているのは、何か危険な目にあったということだろう。
仕えていた貴族が没落するか戦火に見舞われるかして、逃げ延びてきたというところだろうか。
「ぷっはぁぁぁぁ!」
お腹が満たされて落ち着いたのか、黒メイドの顔色がだいぶ良くなってきた。彼女は立ち上がってぼくに深々と頭を下げる。
「ありがとうございます、見知らぬ方。貴方のおかげで、わたくしアンナ・サンチレイナは命を救われました。この恩は必ずお返し致します」
「そんな大袈裟な。あっ、ぼくはトモヤ・サガミと言います。飢えの苦しさはよく知っているので、少しお助けしただけですよ。恩なんて返す必要はありませんから」
「トモヤ様……なんとお優しい。わたくしは半日、道に倒れておりましたが誰一人として、わたくしに手を差し伸べようとするものはおりませんでした。あなたは素晴らしいお方です」
そう言い終えるとアンナさんは鼻をスンスンとし始めた。さらに腕を顔の前に持っていき裾をスンスンとする。さらに髪や顔にも手を当てて何かを確認していた。
「トモヤ様、お恥ずかしながら……」
大体、察した。
「井戸なら裏にあるけど、水は冷たいからお湯を沸かすね」
「いえ問題ありません。では少しお水を頂戴いたします」
そう言うと、そのままアンナさんは部屋を出て言った。もう夜も更けて当たりも静かだったので、井戸を使う音がここまで聞こえてきた。
カラカラ……。パシャッ。パシャッ。
ゴクリ。
今、裏の井戸ではアンナさんが裸で水浴びをしているのか。ぼくは思わずつばを飲み込んだ。ぼくだって年頃の男だ。女性の裸に興味がないこともない。というかめちゃくちゃある。
パシャッ。パシャッ。カラカラ……。
アンナさんは顔が汚れてはいたものの、かなり色白だってことはもう分かっていた。その白い裸体がいま……
ゴクリ。
ぼくが再びツバを呑み込んだその時――
「メイド神拳奥義! 速攻乾燥転!」
家の裏から奇妙な絶叫が聞こえてきた。
「な、なにごとぉぉ!?」
何か大変なことが起こったのではと、ぼくが慌てて家を飛び出そうと扉を開くと、そこにアンナさんが立っていた。
「お水、ありがとうございました」
そう言ってアンナさんはぼくにペコリと頭を下げる。
ぼくは何も言えず口をぱくぱくさせてアンナさんを見た。
水浴びを終えたアンナさんの顔や身体が綺麗になっただけではない。メイド服は仕立てたばかりのようにパリっとしていて、長い黒髪は後ろに綺麗にまとめられていた。
しかも黒髪は艶やかでしかもハーブの良い香りがほのかに漂ってきていた。
いったいどうやったら井戸の水でこんなことができるんだ!?
ぼくは混乱した。
「あの……入ってもよろしいでしょうか?」
「あっ、ハイ……どうぞ……」
アンナさんが、しずしずとぼくの目の前を通り過ぎるとき、ちょうどぼくの目の高さにアンナさんの白いうなじがあった。
ゴクリ。
ぼくは改めてツバを呑み込む。
「あの……トモヤ様には命を助けていただきました。それなのに、さらに頼み事をするというのは大変厚かましいことと重々承知の上なのですが……」
アンナさんの切れ長の瞳が伏し目になる。美しい。いつまでも眺めていたいとぼくは思わずにはいられなかった。
「恩をお返ししようにも、いまのわたくしにはお金がなく、住む場所もございません。もしお許しいただけるのなら、トモヤ様の下でメイドとしてしばらく置いていただくことは叶いませんでしょうか」
「えっ!?」
「もちろんお給金は不要です。家事全般についてはお任せください。あと家事の合間を縫って、町で仕事を探して礼金を稼ごうかと存じます」
「いいですよ」
「本当ですか!?」
「もちろん。アンナさんに余裕ができるまでうちに居てくださって構いません。家事をしていただけるのなら、それが家賃だと思ってください。それと礼金は要りませんからね」
「あ、ありがとうございます!」
アンナさんは目の端から涙をこぼしながら、ぼくに抱き着いてきた。
(お、大きい!)
ぼくはアンナさんの胸の感触と良い匂いと目の前に迫る白いうなじに頭をくらくらさせながら、ついでに下半身の状況がバレないように腰を引きながら、アンナさんの抱擁を受け入れた。
こうしてぼくとアンナさんは一つ屋根の下で暮らすことになった。
~ アンナさんのお仕事 ~
アンナさんのお仕事については、ぼくの雇い主であるサマンサさんに相談したらすぐに紹介してくれた。ポーター商会に隣接している宿屋でちょうど働き手を探していたらしい。
仕事の内容はベッドメイキングと掃除・洗濯、そしてお昼の食堂のお手伝い。
だが仕事の初日から、ぼくは宿屋の主人のリーラさんからアンナさんの凄まじい働きぶりについて熱く語られることになる。
「あの娘、凄い! とにかく凄いの! ベッドメイキングは完璧なうえ、すっごく丁寧な仕事っぷりよ!」
リーラさんはぼくの手を取って、わざわざ空き部屋のベッドを見せてくれた。確かにシーツはシワのひとつもなく、部屋も綺麗で清潔感に溢れている。
「料理も給仕も文句なし、客のあしらいも慣れてる……あんた、絶対あの娘を離しちゃだめよ!」
心配して様子を見に来たけれど、それは全くの杞憂みたいだった。
~ ザック冒険者ギルド ~
もともと盗賊業で稼いでいたザックは、とあるクエストで大金を得て冒険者ギルドを始めた。戦争の前から魔物は増えていたことから元々クエストは多かったが、戦後はさらに増えて、彼の冒険者ギルドは繁盛する一方だった。
今では町の顔役として表でも裏でもそれなりの地位を確立している。
彼には財産も地位も名誉もあったが、今のままで満足するようなザック様ではない。彼の次のターゲットはサマンサポーター商会だった。
ポーター商会を手に入れてその利益をギルドが独占する。それは彼の様々な野望のひとつでしかない。
だがいくら金を積んでも、有利な取引条件を示しても、サマンサは頑なに商会を譲ろうとはしなかった。
その理由をザックは知っていた。商会を作った冒険者は、今は亡きサマンサの想い人らしいのだ。
「わしのものになれば、贅沢三昧させてやるものを……」
ベッドの上で愛人と奴隷少女の奉仕を受けながら、ザックはニヤリと笑ってつぶやく。
「あれはわしのものだ」
サマンサの艶めかしい姿態を思い浮かべながらザックは果てた。
そう言って師匠はくるりと回転してぼくの方へ向き直る。師匠の長く美しい黒髪とメイド服のスカートがふわりと宙を舞い、師匠の切れ長の瞳がキラリと光ってぼくの目をまっすぐに見つめていた。
師匠は左目の眼帯をぼくの鼻先まで近づけ顔をのぞき込む。この眼帯を通して心の底まで覗かれているような気がしてぼくは思わず身を引き締めた。
師匠の顔が近い。流れる黒髪からはふわっと良い香りが漂ってくる。
(はぅ……いい匂い……)
ぼくが一瞬ほわわっとしたのを確認すると、師匠は少し下がって話を続けた。
「良いですか!」
両足を開いて大地を踏みしめ、手をぼくの方にビシッと突き付けて師匠が叫ぶ。
「貴方が敵の乳を揉み! 股をさすり! あるいはどこぞをペロペロしようと! わたしはそのすべてを許しましょう。だがしかし!」
師匠が自分の股間にそっと両手を添える。
「貴方が生涯で入れる穴はここだけ! ここだけです! それだけは絶対に忘れてはなりません!」
「はい師匠!」
「では誓いなさい、ご主人様!」
「誓います! ぼくが生涯で入れるのは師匠のだけです!」
こうして――
ぼくは萌拳究極奥義「七女神拳」を師匠から伝授されたのだった。
~ ぼくのこと ~
ぼくは戦災孤児だった。
ミュラヌイ分離戦争で村ごと戦火に巻き込まれ、ぼくは両親を亡くした。
本当ならぼくもそこで死んでいたところだったけど、たまたま片道5時間の水汲みに出掛けていたため反乱軍の襲撃を免れることができた。
だけど両親がずっと昔に遠い地から村に移り住んでいたこともあって、ぼくには頼れる親戚はおらず、あちこちたらい回しにされた挙句、ミュラヌイ王国の孤児院に引き取られることになった。
とはいえ王立の孤児院は15歳で成人すると出なければならない。なのでぼくが孤児院にいたのは一年にも満たない。
「トモヤ、一緒に冒険者のポーターやらない?」
ぼくがこれからどうやって生活していこうかと悩んでいるとき、同じ孤児院出身で年上のミラクシャが声を掛けてくれた。
「猫人族のアタシでも十分やってける仕事だよ。トモヤは身体は小さいけど力があるから、きっとたくさん仕事がもらえると思う」
こうしてミラクシャの誘いを受けたぼくはポーターの仕事を始めた。毎日水汲みで山道を何時間も歩き続けていたこともあって足腰が強く、ぼくはこの仕事にとても向いていた。
「トモヤ! 今度ダンジョン三層まで潜るんだけど、また荷物持ち頼むわ!」
「はいっ!」
「その後でいいから、うちのパーティーの遠征についてきてくれ」
「はーい!」
すぐに地元の冒険者のお得意さんが出来て、ぼくはそこそこの収入を稼ぐことができるようになる。
この大陸全体で魔物の数が増え始めていることや、近場にダンジョンが複数発見されたこともあって、ぼくはずっとこの仕事で食べていける手ごたえを感じていた。
ぼくはがむしゃらに働き続け、16歳になったときにはミラクシャの所属するサマンサポーター商会の寮を出て、町外れにある小さな空き家で一人暮らしを始めることができるようになった。
~ 出会い ~
「きゅぅぅぅぅぅ」
ある日、仕事を終えて家に帰る途中、ぼくの耳に妙な音が入ってきた。音の聞こえた方向を見ると、通りのど真ん中に黒い塊が転がっているのを見つけた。
「きゅぅぅぅぅぅ」
日が落ちかけていてよく見えなかったが、どうやらその塊は人間のようだった。それは黒い服を来て膝を抱えて横たわっている。
正直、かなり怖かった。
そばを通りかかる人々も塊から距離を取って歩いている。
「きゅぅぅぅぅぅ」
ぼくも見ぬふりして通り過ぎようと思ったけれど、その音を聞いて思わず足が止まってしまった。
「きゅぅぅぅぅぅ」
「お、お腹が空いてるの?」
コクコク。
黒い人がうなずく。
戦災孤児時代の飢えを経験しているぼくは、お腹を空かせている人をどうしても見過ごすことができない。これはもうぼくの性分になっていた。
といっても、食べ物をあげようにもぼくは手ぶらで何も持っていない。
「きゅぅぅぅぅぅ」
「……あんまり大したものは出せないけど、うちに来る?」
コクコク。
黒い人がうなずいたので、ぼくは黒い人を荷物ごと抱え上げた。
「えっ!?」
抱き上げた瞬間、意外に軽かったのと、柔らかかったのと、そして顔は汚れているけれど美しい顔立ちをしているのとで、ぼくは黒い人が女性だということに気が付いた。
あれ?
もし、今この黒い人に叫ばれたりしたらぼく犯罪者になるのでは!?
そんな不安が脳裏をよぎる。
「あわわわわ! だ、大丈夫、ちゃんと食事を出すからね!」
黒い人が驚いている間になるべくこの場から離れようと、ぼくは全力の小走りで家に向って駆け出した。
~ ぼくの家 ~
「むしゃむちゃ、ぱくぱく、むしゃぱく、ごっくん、ぱくぱく」
作った料理を黒い女性が片端から食べていくのを、ぼくは呆然と見ていた。
「あっ……それぼくの……」
「ぱくぱく、むしゃぱく、ごくごく、ぱくぱく」
どうやら彼女の黒い服はメイド服のようだ。以前、荷物を運んだ貴族のお屋敷で見たことがある。
左目に眼帯をしているのは、何か危険な目にあったということだろう。
仕えていた貴族が没落するか戦火に見舞われるかして、逃げ延びてきたというところだろうか。
「ぷっはぁぁぁぁ!」
お腹が満たされて落ち着いたのか、黒メイドの顔色がだいぶ良くなってきた。彼女は立ち上がってぼくに深々と頭を下げる。
「ありがとうございます、見知らぬ方。貴方のおかげで、わたくしアンナ・サンチレイナは命を救われました。この恩は必ずお返し致します」
「そんな大袈裟な。あっ、ぼくはトモヤ・サガミと言います。飢えの苦しさはよく知っているので、少しお助けしただけですよ。恩なんて返す必要はありませんから」
「トモヤ様……なんとお優しい。わたくしは半日、道に倒れておりましたが誰一人として、わたくしに手を差し伸べようとするものはおりませんでした。あなたは素晴らしいお方です」
そう言い終えるとアンナさんは鼻をスンスンとし始めた。さらに腕を顔の前に持っていき裾をスンスンとする。さらに髪や顔にも手を当てて何かを確認していた。
「トモヤ様、お恥ずかしながら……」
大体、察した。
「井戸なら裏にあるけど、水は冷たいからお湯を沸かすね」
「いえ問題ありません。では少しお水を頂戴いたします」
そう言うと、そのままアンナさんは部屋を出て言った。もう夜も更けて当たりも静かだったので、井戸を使う音がここまで聞こえてきた。
カラカラ……。パシャッ。パシャッ。
ゴクリ。
今、裏の井戸ではアンナさんが裸で水浴びをしているのか。ぼくは思わずつばを飲み込んだ。ぼくだって年頃の男だ。女性の裸に興味がないこともない。というかめちゃくちゃある。
パシャッ。パシャッ。カラカラ……。
アンナさんは顔が汚れてはいたものの、かなり色白だってことはもう分かっていた。その白い裸体がいま……
ゴクリ。
ぼくが再びツバを呑み込んだその時――
「メイド神拳奥義! 速攻乾燥転!」
家の裏から奇妙な絶叫が聞こえてきた。
「な、なにごとぉぉ!?」
何か大変なことが起こったのではと、ぼくが慌てて家を飛び出そうと扉を開くと、そこにアンナさんが立っていた。
「お水、ありがとうございました」
そう言ってアンナさんはぼくにペコリと頭を下げる。
ぼくは何も言えず口をぱくぱくさせてアンナさんを見た。
水浴びを終えたアンナさんの顔や身体が綺麗になっただけではない。メイド服は仕立てたばかりのようにパリっとしていて、長い黒髪は後ろに綺麗にまとめられていた。
しかも黒髪は艶やかでしかもハーブの良い香りがほのかに漂ってきていた。
いったいどうやったら井戸の水でこんなことができるんだ!?
ぼくは混乱した。
「あの……入ってもよろしいでしょうか?」
「あっ、ハイ……どうぞ……」
アンナさんが、しずしずとぼくの目の前を通り過ぎるとき、ちょうどぼくの目の高さにアンナさんの白いうなじがあった。
ゴクリ。
ぼくは改めてツバを呑み込む。
「あの……トモヤ様には命を助けていただきました。それなのに、さらに頼み事をするというのは大変厚かましいことと重々承知の上なのですが……」
アンナさんの切れ長の瞳が伏し目になる。美しい。いつまでも眺めていたいとぼくは思わずにはいられなかった。
「恩をお返ししようにも、いまのわたくしにはお金がなく、住む場所もございません。もしお許しいただけるのなら、トモヤ様の下でメイドとしてしばらく置いていただくことは叶いませんでしょうか」
「えっ!?」
「もちろんお給金は不要です。家事全般についてはお任せください。あと家事の合間を縫って、町で仕事を探して礼金を稼ごうかと存じます」
「いいですよ」
「本当ですか!?」
「もちろん。アンナさんに余裕ができるまでうちに居てくださって構いません。家事をしていただけるのなら、それが家賃だと思ってください。それと礼金は要りませんからね」
「あ、ありがとうございます!」
アンナさんは目の端から涙をこぼしながら、ぼくに抱き着いてきた。
(お、大きい!)
ぼくはアンナさんの胸の感触と良い匂いと目の前に迫る白いうなじに頭をくらくらさせながら、ついでに下半身の状況がバレないように腰を引きながら、アンナさんの抱擁を受け入れた。
こうしてぼくとアンナさんは一つ屋根の下で暮らすことになった。
~ アンナさんのお仕事 ~
アンナさんのお仕事については、ぼくの雇い主であるサマンサさんに相談したらすぐに紹介してくれた。ポーター商会に隣接している宿屋でちょうど働き手を探していたらしい。
仕事の内容はベッドメイキングと掃除・洗濯、そしてお昼の食堂のお手伝い。
だが仕事の初日から、ぼくは宿屋の主人のリーラさんからアンナさんの凄まじい働きぶりについて熱く語られることになる。
「あの娘、凄い! とにかく凄いの! ベッドメイキングは完璧なうえ、すっごく丁寧な仕事っぷりよ!」
リーラさんはぼくの手を取って、わざわざ空き部屋のベッドを見せてくれた。確かにシーツはシワのひとつもなく、部屋も綺麗で清潔感に溢れている。
「料理も給仕も文句なし、客のあしらいも慣れてる……あんた、絶対あの娘を離しちゃだめよ!」
心配して様子を見に来たけれど、それは全くの杞憂みたいだった。
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今では町の顔役として表でも裏でもそれなりの地位を確立している。
彼には財産も地位も名誉もあったが、今のままで満足するようなザック様ではない。彼の次のターゲットはサマンサポーター商会だった。
ポーター商会を手に入れてその利益をギルドが独占する。それは彼の様々な野望のひとつでしかない。
だがいくら金を積んでも、有利な取引条件を示しても、サマンサは頑なに商会を譲ろうとはしなかった。
その理由をザックは知っていた。商会を作った冒険者は、今は亡きサマンサの想い人らしいのだ。
「わしのものになれば、贅沢三昧させてやるものを……」
ベッドの上で愛人と奴隷少女の奉仕を受けながら、ザックはニヤリと笑ってつぶやく。
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ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
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