うっかり女神の転生ミスで勇者になれなかったし、もうモブ転生でゴールしてもいいんだよね?

帝国妖異対策局

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第二章 三度目の転生は子爵家の長男でした。

第24話 ゴブリン(木製)

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 ダンジョンに入って数分後。採点官の指示で、ぼくたちは地下に降りる階段の踊り場で一旦歩みを止めた。

「ここから採点を始めます。この先には、皆さんの現在の実力を計るための様々な仕掛けが用意されています。途中に配置されている試験官から出される課題だけでなく、移動途中にも隠されたチェックポイントがあるので見逃さないように」

「たとえばモンスターの足跡とか隠し通路の扉とか、実際のダンジョンで注意すべき点に着目すれば自ずとわかるものばかりです。地味にポイントが高いですからなるべく見逃さないように。それと……」

 採点官が鋭い目で執事さんを睨み付ける。ディーズさんは、貴族枠で入学するとあるお嬢様お抱えの執事さんだ。お嬢様の我侭により一般枠の生徒としてエ・ダジーマに入学するために今回受験に参加している。

「ディーズ殿は、他の受験者から求められた場合に助言する以外、一切の行動を禁止します」

 ビシッと指をさされてたディーズさんは、やれやれという感じで頭を左右に振る。

「それではわたしの合格が危うくなるのでは?」

「貴方の場合は、求められた助言以外は何もしないでいられるかが合否基準です」

 採点官の言葉に赤毛の少女キャロルが喰ってかかった。

「ちょっと、どうしてそのおじさんだけ特別扱いなの? 聞いてないわ! どういうことか説明してよ!」

 採点官は彼女の態度に明らかにイラッとした様子だったが、ため息をついた後、しぶしぶと言った感じで説明を始めた。

「はぁ。確かに説明は必要でしょうね。簡潔に言えば、そこにいるディーズ氏は、あくまで形式的なものとしてこの試験を受けてもらってるだけなのです。どちらかと言えば、私たち教師を指導するくらいの実力と実績を持っている人なの」

「ええっ!? そんな人がなんでここで受験生やってるの?」

 驚いたキャロルが一歩下がってディーズ氏をまじまじと見つめる。

「はは。まぁ、いろいろと事情がございましてな」

 ダンジョンに入る前の雑談で、ディーズさんはその事情についてみんなにも話していたのに、この赤毛は人の話を聞かない奴だな……と思ったけど、ぼくは賢明なので黙っておくことにした。

 キャロルはまだ納得しきれていない様子だったが、とにかくディーズ氏がとんでもなく凄い人物だということだけは理解したようで、ぼくたちは採点官の指示を受け入れて先へ進むこととなった。

――――――
―――


「はい。ここでゴブリンの一団が襲撃してきましたー」

 採点官が声を上げると、暗がりから5人の男性が飛び出してきた。それぞれが首に「ゴブリン」と書かれた板をぶら下げている。

「おっと、ゴブリンの一団の背後にゴブリンメイジがいますよー」

 採点官が指さした方向を見ると、そのはるか先に実際のゴブリンくらいのサイズで作られた木人形が置かれていた。

「それでは少年。その弓を使ってあのゴブリンメイジを射抜いてくだ……」

 採点官がそう言い切らないうちに、ぼくは加速矢を使ってゴブリン人形に矢を放った。バキッ!と音がして人形がふたつに割れた。

「……さい……」

 採点官は口をあんぐりと開けたまましばらく固まっていた。10歳そこらの子どもで魔術弓を使うのが珍しいということだけでなく、無詠唱で早撃ちしたことにも驚いたのだろう。

 実際は無詠唱ではなく、移動している間はずっと小さな声で詠唱を繰り返して加速矢の準備をしていただけなんだけど。

 シーク師匠とは違い、ぼくが矢に魔力を仕込んでもすぐに拡散して消えてしまう。それなら何度もやり直せばいいじゃないと仕込みを繰り返していたのだ。

 こうして敵の襲撃に備えて常に魔力を矢に集めていたので、さっと加速矢を放つことができただけでなく、さらに次の矢をつがえて5人のゴブリン(役)たちに向けることもできた。自分で言うのもなんだけど、ちょっとカッコイイよねぼく。

「よ、よろしい、ご、合格です。それでは次、そこのワンちゃん。ゴブリンを排除してくださ……って、その背負ってる大ナタ凄く……大きいですね。振り回せるのですか?」

 シベリアンハスキーが二足歩行したような獣人レナデスは、ワウ!とひと吠えすると大ナタを抜いてブンブンと振り回してみせた。

「うん。下手すると死傷者がでますね。それでは木人形を相手してください」

 採点官が合図すると5人は暗がりの中からゴブリン人形を引き出してきて、レナデスの前に置いた。

「ワオォン!」

 気合のひと吠えと共にレナデスが大ナタを振るうと、ゴブリン人形は上下真っ二つに分かれた。レナデスの大技を見て採点官とゴブリン(役)の5人は驚きのあまりフリーズしてしまった。

「ご、合格です。で、では最後に赤毛女子。えっと……【強奪】スキル持ちですか。ではゴブリン(役)の腰にぶら下がっている赤い布を奪ってみてください」

 気を取り直した採点官が課題を告げると、またもキャロルが喰ってかかった。

「ちょっと待って! 赤い布って何? どの人が持ってるの? ここ暗いし、青っぽいし、色なんて全然わからないわよ!」

 そう言ってツカツカとゴブリン(役)たちに近づいて下から睨み上げる。

「ゴブリンって言っても本物じゃないし、ただのおっさんじゃない! こんなのじゃバカバカしくて試験なんてやってられないわよ!」

 予想しなかったクレームにゴブリン(役)たちは一瞬だけ固まってしまう。キャロルはその瞬間を見逃すことなく動いた。

 シュッ!

 キャロルの正面左にいるゴブリン(役)が慌てて腰を押さえようと動いたときには、赤い布は彼女の手の中にあった。

「はい! 終了!」

 キャロルは赤い布を高々と掲げて課題クリアを宣言する。

「はぁ!?」

 採点官が目を真ん丸にして素っ頓狂な声を上げてそのままフリーズ。ゴブリン(役)たちも何が起こったのか把握できず再び固まっていた。
 
「何よ文句あるの? 言われた課題はちゃんとこなしたでしょ?」

「ご、合格……です」

 このような課題がさらに3回続いた後、結局ぼくたち全員は無事に最奥部へ到着することができた。その頃には、採点官の目からハイライトが消えて、身体全体にすすけたような空気をまとっていた気がするけど、ぼく以外の誰も気にしていないようだった。

 最後の面談は、ぼくたちの意志を口頭で確認する程度の内容で、あっけなく終了。

 そう、つまりぼくたち4人は無事合格することができたのだ。



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